1、友人キャラの俺がモテるわけないだろ?
俺の中学までの15年間過ごした人生は、最悪だった。
――と思い返し、感傷に浸ることも、久しくしていないように思う。
かつて俺は「高校生になれば、何か変わるかも」という淡い期待も持たずに、高校へ進学をした。
当初こそ、その考えは半分当たり、半分外れていたと思っていた。
だが、今振り返ってみれば、それは違ったのだと確信を持って言える。
高校に進学し、多くの「出会い」によって、俺を取り巻く環境は変わった。
きっかけは、この世界の主人公である池春馬との出会い。
その次に、退学の危機から手を差し伸べてくれた真桐先生の存在。
その後も、かつての友人で、関係の変わった今は好意を持ってくれる夏奈。
一緒に楽しく過ごせる朝倉や甲斐といった友人、竜宮や鈴木、田中先輩に竹取先輩、白井、黒田の所属する、新旧生徒会役員。
いつの間にか馴染んでいた、山上や木下をはじめとしたクラスメイト。
目つきの悪さやコミュニケーション能力の欠如のために避けられ続けていた俺も、気づけば多くの人から受け入れられるようになっていた。
それもこれも、良い友人を持ったおかげだと言えば、きっとその友人は「そんなことない」と爽やかに笑いながら答えるのだろう。
高校入学後……特に、2年に上がってから数多くの良い出会いに恵まれたが、その中で最も深い信頼関係を築いた相手は誰かと問われれば、俺はそう悩まずに彼女の名前を挙げるだろう。
『ニセモノの恋人」である池冬華。
完璧超人池春馬の妹であり、彼女自身も成績優秀でコミュニケーション能力も抜群。
華やかな容姿も相まって、多くの人から好意を寄せられる人気者。
日陰者の俺と真逆の人気者の冬華が『ニセモノの恋人』として一緒に過ごしてきたのは、彼女なりの悩みがあったためだが……。
――彼女と出会い、『ニセモノの恋人』となってから、半年ほどの月日が流れた。
多くの時間を共有し、俺は彼女を信頼し、そして彼女も俺のことを信頼してくれるようになったと、そう思っている。
彼女の隣で過ごした日々は、平凡未満な不出来な日々と自虐するには眩しすぎた。
だからこそ、俺はあの時まで。
当たり前のことを忘れていたのだろう――。
☆
「お終いにしましょう、先輩」
遠くから、聞こえる騒々しい声が、消えた。
「――悪い、聞こえなかった」
咄嗟に答えたものの、冬華の言葉は、はっきりと俺の耳に届いていた。
聞こえなかったふりをしたのはただ単に、聞きたくなかっただけだった。
「『ニセモノ』の恋人は――今日でお終いにしましょう、優児先輩」
真直ぐに俺を見つめてそう言った冬華。
その視線を受け止めて、俺は衝動的に何かを言いそうになり――。
何を言おうとしたのか、自分自身分からなくて。
「そうか」
と、一言だけ答えた。
それから、俺は思い出す。
――『出会い』があれば『別れ』があることも。
池とは違い、ただの端役に過ぎない俺が、冬華みたいな美少女の『ニセモノの恋人』になったのは、あくまで一時的なものに過ぎないということも。
そんな当たり前のことを、すっかり忘れていた俺は、内心で皮肉に嗤いながら言う。
友人キャラの俺が、モテるわけないだろ?






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