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59、嘘


 ――そして、すべてのグループのバンド演奏が終わった。

 どのバンドも盛り上がったが、贔屓目抜きで、やはり生徒会メンバーが最も盛り上がったように思う。


 現在は休憩時間中であり、もうすぐ、文化祭実行委員会が選出する最優秀グループが発表される予定だ。


「どのグループが選ばれると思う?」


 俺の問いかけに、冬華はつまらなさそうに答える。


「やっぱり、生徒会のグループじゃないですか? 女子の異様な盛り上がりを除いても、一番盛り上がってたように思いますし」


「やっぱそう思うよな……」


 俺が答えると、壇上に文化祭実行委員長が現れた。


「皆さん、お待たせしました! 先ほど会場を盛り上げてくれた演奏者たちの中から選ばれた、最優秀グループを発表します!」


 その言葉の後に、ドラムロールが聞こえる。

 間をしつこいくらい溜めてから、実行委員長は宣言する。


「エントリー№4番、生徒会グループです!」


 実行委員長の言葉に、会場が沸く。


「さぁ、生徒会の皆さん! 壇上へどうぞ!」


 委員長に呼ばれ、早々に池達生徒会メンバーが、もう一度ステージに上がった。


「凄く盛り上がったパフォーマンスでしたね。今のお気持ちをお願いします」


 委員長から、池にマイクが向けられる。

 池は爽やかに笑って答えた。


「みんなのおかげでとても楽しい時間が過ごせました。この後もう一曲できるという事なので、もう一度みんなで楽しもう!」


 他の生徒会メンバーも、池の言葉にうんうんと深く頷いている。


「それでは、これからもう一曲演奏してもらいましょう!」


 そう言って、委員長は壇上から降りた。

 池たちはそれぞれ目配せをした。

 それから、池が口を開く。


「演奏をする前に、一つ話があります」


 そう前置きをしてから、池はゆっくりと会場を見渡した。

 そして、池がこちらを向き、互いの目が合った!

 ……なんて、アイドルグループのコンサートにいる追っかけみたいなことを思っていると、


「生徒会には、ここにいる役員だけでなく、いつも陰から支えてくれる仲間がいます。その仲間と一緒に、最後の一曲を演奏できればと思います。……優児、一緒に演奏してくれないか?」


 池が、ステージの上からそう言った。


「はぁ?」


 その言葉に反応をしたのは、冬華だ。


「先輩、行くんですか? 私何にも聞いてないですよ!?」


「……いや、俺のことか? 俺も何も聞いてないんだが」


「あ、アニキの身勝手ですか。無視でいいですよ、無視で」


 怒ったように、冬華は言う。

 しかし、池はステージ上から、尚も俺を見ていた。


「優児?」

「だれ?」

「……もしかして、あの(・・)友木じゃね?」


 会場がざわついてきた。

 異様な雰囲気だったが、ステージ上のメンバーが演奏を始める様子はなかった。

 ……俺を待っているのか?


「悪い冬華。行ってくる」


 このまま出て行かず、池に恥をかかせるわけにはいかない。

 それに、勝手なことをしやがって……と思わなくもないが、それ以上に、生徒会の仲間としてあの壇上で演奏できるのは……魅力的なことに思えた。

 俺は冬華に一声かけて、ステージに立ち上がった。


「……ああ、もうっ! 先輩のお人好し!」


 俺の表情を見て、説得が通じないことが分かったのだろう。

 ムスッとした様子で、冬華がそう言った。


 俺は苦笑してから、ステージに向かう。


「おい、あれ……」

「うわ、やっぱ友木だ……」


 周囲からの声が耳に届くが、気にせずステージに上がる。


 すると、池が俺に手を差し伸べる。

 俺はそれを握り返してから、


「せめて事前になんか言ってくれ」


「まさか最優秀に選ばれるとは思ってなかったからな。折角だし、優児も一緒にって思っただけさ」


「……嘘つけ」


 竜宮や鈴木、黒田に白井の表情を見ていると、誰も驚いた様子はない。

 こいつらだけで、事前に打ち合わせをしていたのだろう。


 会場のギャラリーはというと、困惑していた。

 それはそうだろう、学園の嫌われ者の俺が現れれば、こうなるのは必然だ。

 ……と思っていると、


「優児くーん! がんばってー!」


「友木―、顔怖いぞー! リラックス、リラックス―!」


 大声で俺の名前を呼ぶものがいた。


 よりにもよって俺の強面を弄る声が聞こえたからか、会場は一瞬静寂に包まれる。


 ……この声は、夏奈と朝倉か。

 2人の言葉……特に、朝倉の言葉を聞いて、俺は肩の力を抜く。

 それから、腕を上げて応えて見せる。


「……友木さん、劇面白かったよー!」


 今度は、全く知らない声だった。


「演奏も楽しみー!」


 また、知らない声。

 それが……続々と、男女問わず聞こえてくる。

 信じられないことだが、もしかして……俺がこの場に立っていることが、受け入れられているのだろうか?


 俺は池を見る。

 彼は無言のまま頷いた。


 竜宮を見ると、「優児さん、折角なので楽しみましょう」と言い、

 鈴木は「この間みたいな痺れるやつお願いね!」と笑い、

 黒田は「驚かせてすみません」とニヤけ面を浮かべ、

 そして白井が「友木先輩のカッコいいとこ見せちゃってください!」とサムズアップをしてきた。


 ……なんだこれ、めちゃくちゃ恥ずかしい。

 だけど、全然悪い気がしない。


「……でも俺、練習してないんだけど」


「この間、一緒に演奏した曲があるだろ?」


 俺の弱気な発言に、池は軽々しく言う。

 スタジオで一緒に演奏した曲か。


「了解だ」


 俺はそれだけ言って、覚悟を決めてドラムセットの前に座った。


☆【冬華視点】


 ステージの上に立つ優児先輩は、一見不愛想に見えるが、実はめちゃくちゃ喜んでいることが、私には分かった。

 彼の微妙な表情に隠された感情を読み取れる人は、ごく少数に限られると思う。

 

 スポットライトの当たる優児先輩が、どうしてか遠くに行ってしまったように感じて、私は寂しさを抱きつつも、彼が皆に受け入れられていることが――とても嬉しかった。


 演奏が始まっていた。

 文化祭では定番の、男女ツインボーカルバンドの曲だった。

 一年生二人組が、息ぴったりの歌を歌っている。

 だけどそれ以上に、2年生4人の息があった演奏。

 ……ずっと一緒に練習していたのは、生徒会役員だけのはずなのに、優児先輩のドラムが入っている今の方がまとまっているように感じたのは、気のせいではないと思う。


 ステージ上で、楽しそうにドラムを叩く優児先輩。

 ……てか、ドラム叩けたんだ。全然知らなかったなぁ。

 なんて、また寂しい気持ちになっていると、隣に誰かが座ってきた。 


「よう冬華」


 私に声をかけてきたのは――竹取先輩だった。

 何で急に、私の隣に? 一瞬そう疑問を抱いたものの、いつもの気まぐれだと思って、私は軽く挨拶だけする。


「こんにちはー。どうしたんですか?」


 私は、彼女を一瞥してから、すぐにステージへと視線を戻した。


「優児がここら辺から出て行ったのが見えたから。おまえもどうせここらにいるんだろうと思ってな」


「鋭い読みですね、私と優児先輩は、基本二人でワンセットなので」


 私がおどけて言うと、竹取先輩は呆れたように溜め息を吐いた。

 どうしたのだろうか、そう思いつつも、私はステージ上の優児先輩から、目が離せない。


「お前の恋人・・、これで人気者になる……かは分からないけど、少なくとも嫌われ者ではなくなるだろうな」


「そうですねー。これまでの一匹狼な先輩も素敵ですけど……人気者のカレピっていうのも、気分いいかもですねー。って、私今性格悪いこと言っちゃいました?」


 軽い調子で言ってから、竹取先輩を見ると、彼女は真剣な眼差しで私を見ていた。


「冬華……お前今、酷い顔してるぞ。それが気分良いって表情か?」


「……え?」


 私は、自分の顔を触る。

 竹取先輩の、いつもの意味不明な言葉と……どうしてか、そういう風には思えなかった。


「自分でも分かってるんだろ?」


 竹取先輩は、淡々と、諭すような口調で言う。

 分かってる? 何を?

 私はただ、皆に受け入れられる先輩を見て、嬉しくて、ただ少しだけ寂しさを感じていただけで――。


「あいつは……馬鹿で、自分の気持ちも整理できてないガキだ。だから、このまま続けていたら、あいつも、あんたも。きっと後悔することになる」


 竹取先輩のまっすぐな視線を受けて、突然先ほどまでの演奏が、耳に届かなくなっていた。

 

「何を……」


 言いたいんですか?

 口から出そうになった言葉を、私は呑み込んでいた。


「全部言わないと分からないか?」


 竹取先輩がこれから何を言おうとしているのか、私にはどうしてか、予想が出来た。

 ……見知った彼女が、別人のように見えた。

 彼女の真直ぐな瞳を向けられると、嘘偽りだらけの自分が、射抜かれてしまうようで――。




「――いつまで――なんだ?」




 心臓が止まった気がした。


「え、すみません。演奏のせいで聞こえなくって……」


 私は、嘘をついた。

 演奏の音なんて、もう耳には届かず。

 彼女の伝えた言葉は、はっきりと聞こえていたのに。


 ただ……聞きたくなかった言葉を、私は拒絶したのだ。

 お願いだから、もう何も言わないでください――。


 そんな弱い私の本心などお構いなく――

 竹取先輩はもう一度、ゆっくりと私に告げた。





「あんたらはいつまで、ニセモノの恋人ごっこをしてるつもりなんだ?」



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