表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/221

56、迫る


「おつかれ、優児君!」


 舞台裏に戻った夏奈は、すぐに笑顔で両手を上げ、ハイタッチを求めてきた。

 周囲を見ると、クラスの連中がそこら中で、同じようにハイタッチをしていたり、女子同士は抱き合ったりしていた。

 

「おう!」


 テンションが上がっていた俺も、両手を上げて夏奈のハイタッチを受け入れようとした。

 ……しかし。


「隙ありっ!!」


 夏奈はそう言ってから、両手を挙げた状態の俺の胴体に、ギュッと抱き着いてきた。


「夏奈!?」


 俺は慌てる。

 周囲を見ると、先ほどの和やかな様子とはうってかわり、刺すような視線が俺に向けられていた。言うまでもないことだが、その中で最も、朝倉の視線にプレッシャーを感じる。


「一緒に喜びを分かち合いたいって思ったんだけど……仕方ないって、思わないかな?」


 俺は夏奈の肩に手を置いて、彼女を引き離してから言う。


「夏奈のテンションが上がる気持ちはわかる。俺も、正直興奮してるしな。夏奈と一緒に舞台に立てて、楽しかった。……だけど」


 俺は苦笑を浮かべてから、


「今日のところは、このくらいで勘弁してくれ」


 俺は右手を掲げてそう言った。

 夏奈は不満そうに、上目遣いに俺を覗き込んだ。

 それから一度、わざとらしくため息を吐いてから、


「……しょうがないかな。今日はこれで勘弁してあげるねっ?」


 と呟いた。

 そして、夏奈は自分の掌を俺の右手にぶつけ、その後視線を交わして笑い合った。

 

「友木っ!」


 その声に振り向くと、今度は朝倉が笑顔を浮かべて手を掲げていた。


「やったな、朝倉」


 俺は、朝倉の掲げた手に自らの手をぶつけた。


「お疲れ友木!」

「友木君良かったよ!」


 それから続々と、クラスの連中が声をかけてきてくれた。

 皆とハイタッチを交わし、確かな充足感を共有する。


「ありがとう、皆」


 俺の言葉に、聞こえていた周囲の連中は、笑いかけてくれた。


「みんなと同じクラスで良かった」


「みんなも、優児と同じクラスで良かったと思っているぞ」


 俺の呟きに応えたのは、池だった。

 彼は涼し気な表情を浮かべながら、続けていった。


「良い演技だった。夏奈のアドリブの対応以外、な」


 池は爽やかに笑いながら、俺に向かって握った拳を差し出してきた。


 今この満ち足りた気持ちを抱いているのは、誰よりも何よりも、池のおかげだ――。

 と、無粋なことは言わず。


「うるせーよ」


 軽口に応え、差し出された池の拳に、自らの拳をぶつけるのだった。




 一度クラスの連中と解散し、これから冬華と一緒に文化祭を回る予定だ。

 待ち合わせ場所の正門付近へと、俺は向かう。

 

 劇は、大成功だったようだ。

 廊下を歩いていると、立ち話をしている2年の会話が耳に届いた。


「2-Aの劇、見たか?」


「見てないんだけど、なんかめっちゃ面白かったって聞いたわ」


「そうそう、マジでめちゃくちゃで笑えたんだよ。てか、うわ、勿体ねー。葉咲のあのコスプレ、超可愛かったのになー」


「え、葉咲の!? ……どんなコスプレ!?」


「スケバン」


「……スケバン?」


 どうゆうこと……? と呟く2年を、苦笑を浮かべつつ眺めていたところ、、


「……ひっ!」


 彼は俺の視線に気づいたようだ。

 無駄に怖がらせてしまったようだ、俺は咳ばらいをしてから、その場を立ち去ろうとして。


「あの、友木くん。劇、めっちゃ面白かったよ」!」


 と、先ほど劇を見たと話していた男子が、そう声をかけてくれた。

 俺は驚き、振り返る。


「ちょ、おまっ!?」

 

 隣の男子は、俺以上に驚いていたが、俺に声をかけてくれた奴は……真直ぐに、こちらを見てくれていた。


「おう、ありがとなっ!」


 俺がその男子に答えると、彼は笑顔を浮かべ、隣の友人は驚きのあまりだろう。白目を剥いていた。

 ――こんな風に、普通に声をかけてもらえて、俺は無性に嬉しかった。



 待ち合わせ場所の正門付近についたが、冬華はまだ到着していなかった。

 俺はしばらく待つことにする。


「あっ、友木君!」


 声をかけられ、振り向く。

 一瞬、冬華かと思ったが、彼女が俺を友木君と呼ぶわけがない。


「素敵な劇だったわ、友木君」


 俺に声をかけたのは、見回り中の真桐先生だった。

 息が弾んでいる、俺を見つけて、駆け寄ってきたのかもしれない。


「ありがとうございます」


「あの脚本は、誰が考えたのかしら?」


「山上が美女と野獣を下敷きに考えてくれました。ラストだけは、夏奈が変えたいと言って。そこから、少しずつみんなでアレンジの案を考えて……最終的に、ああなりました」


「そう、葉咲さんや、皆が……」


 すこしだけ、寂しそうな顔をする真桐先生。

 どうしたのだろう、と考えていると「私も……」と彼女は呟く。


「私も?」


 俺の問いかけに、真桐先生は首を振り、「いいえ、気にしないで」と言ってから、


「素敵な友人に囲まれたわね」


 と、彼女は言った。

 それから、真桐先生は俺の手を、自分の手でギュッと握りしめる。


「え、真桐先生!?」


 俺の言葉に、彼女は答えない。

 ただ、顔を真っ赤にし、……目尻から、一筋涙をこぼした。


「あ、あの俺なんかやっちゃいました……!?」


 と慌てすぎて最強系主人公みたいなことを問いかけてしまった俺。

 その問いかけに、真桐先生は両手を離してから、自分の涙を指先で拭う。


「ごめんなさい。……自分のことのように、嬉しいの。あなたが、たくさんの人に受け入れられることが、本当に」


 彼女は優しい声音でそう告げてから、柔和な微笑みを俺に向けてきた。

 真桐先生には、これまで迷惑を掛けてきた。

 だから、そんな風に言ってもらえて……。

 こんなにも、想ってもらえて。

 俺も、目頭が熱くなった。


「真桐先生……」


 だけど、涙を見せるのは、やはり恥ずかしい。

 俯き、目元を押さえてから、俺は再び彼女を見た。


 彼女は、尚も優しい微笑みを浮かべ、こちらを見ていた。

 ……俺は真桐先生と目を合わせることが出来なかった。


 それは、照れくさかったから。

 ……だけでなく。

 


 背後から満面の笑みで忍び寄る、千之丞さんの存在に気づいてしまったからだ――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作投稿中!
タイムリープをした俺、両想いだと思っていた幼馴染に告白した結果、普通にお断りをされたので学校一の美少女と心中する約束をしてみた
ぜひ読んでください(*'ω'*)



4コマKINGSぱれっとコミックスさんより7月20日発売!
コミカライズ版「友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?」
タイトルクリックで公式サイトへ!書店での目印は、とってもかわいい冬華ちゃんです!

12dliqz126i5koh37ao9dsvfg0uv_mvi_jg_rs_ddji.jpg

オーバーラップ文庫7月25日刊!
友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?
タイトルクリックで公式サイトへ!書店での目印は、冬服姿の冬華ちゃん&優児くん!今回はコミカライズ1巻もほぼ同時発売です\(^_^)/!ぜひチェックをしてくださいね(*'ω'*)

12dliqz126i5koh37ao9dsvfg0uv_mvi_jg_rs_ddji.jpg
― 新着の感想 ―
[一言] ジョーンズのテーマ曲流しておきますね~
[一言] やった!四巻も楽しみに待ってますよ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ