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53、こんなに可愛い子が女の子のはずがない


「いらっしゃいませ、お席に案内します」


 喫茶店に入ると、俺に物怖じすることもなく、長身・長髪で切れ長の瞳、モデルと言われても信じてしまうような美人に案内をされる。やたらとハスキー……というか、低音ボイスが印象的だった。

 服装は、萌え萌えキュンなメイド服ではなく、クラシックなロングスカートタイプで、それがまた似合っていた。


 席に着いてから、朝倉が言う。


「いや、あんな美人一年にいたっけ?」


「俺は知らないな。……けど、見覚えがあるような」


 俺と朝倉が会話をしていると、


「私も、なんだかどこかで見たような気がする……」


 夏奈も、同じように見た覚えがあるようだった。


「ご注文をお伺いします」


 その言葉に、一時思考を中断させられた。

 その声の主は、先ほどの美人だった。


「えっとー、あたしはー……」


 小学生組から注文を行い、俺、朝倉、夏奈も注文を終えたところ……。


「あ、優児先輩っ! 来てくれてたんですね、嬉し―!」


 と、聴き馴染みのある声が耳に届いた。

 その声の主を見ると、そこには冬華がいた。


「おう、冬……華っ!?」


 彼女の服装を見て、俺は言葉に詰まった。

 完璧に似合っているメイド服姿の冬華……ではなく。

 どうしたわけか、冬華は執事服を着ていた。


 本格的な男装をしているわけではない。

 あくまで執事服を着ているだけの冬華だった。

 しかし、後ろ髪を一つに束ねて流した髪形といい、普段と印象が違っていて、虚を突かれたのだ。


「あれれ~先輩? どうしたんですか、固まっちゃって。もしかして……私に見惚れちゃいましたぁ?」


「……いや、まぁ。似合ってるな」


 俺の言葉に、


「素直でよろしいっ」と満足げに冬華は微笑み、


「なんかズルい……」と夏奈は頬を膨らませた。


 そして、何故だか紅葉ちゃんには無言で不満そうな視線を向けられた。


「ていうか、なんで冬華が執事服を着ているんだ?」


 俺の質問に、冬華は「それはですね」と前置きをし、


「単純に、女子は執事服を着て、男子がメイド服を着てるんですよ」


 と説明をした。


「へー、なるほど」


 そう呟いてから、あれ、それじゃさっきの美人は……と考えていると、本人が飲み物をテーブルに持ってきた。


「お待たせしました、お飲み物をお持ちしました」


 やはり、聞き覚えのある声だった。

 そして、男子がメイド服を着ている、といことであれば……。



「……お前、甲斐か?」



 ナチュラルなメイクを施して、やたらと美人なメイドにしか見えない彼女……いや、彼は。

 俺の質問に、「うっす」とはにかんで笑いながら、そう答えた。



「え、甲斐なのか!? うわっ、甲斐だ! マジかっ!? ……マジかー」


 朝倉が動揺を見せる。

 それから、分かりやすく落ち込んだ。

 その様子を見ていた小学生組が、


「なんで落ち込むの!?」


「背が高くて美人系が善人君のタイプなの!?」


 と声を荒げる。朝倉は、「ぶっちゃけ割と好みでした……!!」と悔しげにつぶやき、女子小学生たちはぶーぶーと可愛らしく文句を言っていた。


「ちなみに、優児先輩的にはどうなんですか……っ!?」


 冬華が鬼の形相を浮かべ、問いかける。

 

「いや、すごい美人だと思うぞ。メイド服も、長そでロングスカートだから、筋肉質なのを上手く隠せているし」


 俺が言うと、甲斐が、


「友木先輩に褒めてもらえるのが一番うれしいっす……」


 と呟いてから、照れくさそうに笑った。

 社交辞令と分かっていても、そう言ってもらえるのは嬉しい限りだった。


「……くぅっ!」


「これは……」


 冬華が呻き、夏奈が動揺を浮かべる。


「……そう言う事なんですか?」


 鋭い目つきで、紅葉ちゃんが冬華と夏奈に問いかけた。

 夏奈は頷いてから冬華を一瞥。

 冬華は二人の視線を受けつつ、ゆっくりと頷いた。

 それから、無言のまま三人は手を重ね、深く頷きあった。


「……どうした?」


 俺の問いかけに、


「優児先輩は知らないで良いんです」


「優児君、私……頑張るね!」


「優児さん、負けないから、私」


 と、各々決意に満ちた表情で、そう言った。


「……なんなんだ、一体?」


 俺の呟きに、三人は答えることは無かった。



「そろそろ時間だな」


 しばらくの間、喫茶店で話をしていたのだが、クラスの劇の準備に向かう時間になった。

 

「あ、じゃあ、移動だ」


 桃ちゃんが言い、俺と朝倉、夏奈が頷く。

 それから、全員で席を立ち、会計をする。


 そこで、甲斐と冬華に声をかけられる。


「先輩方、観に行きます。楽しみにしてるんで!」


 甲斐の言葉に、


「あんまりプレッシャーかけるなよなー」


 と朝倉は言い、


「ありがとー、頑張るよー」


 と夏奈は笑って答える。


「期待しすぎるなよ」


 俺が苦笑を浮かべると、甲斐はぐっと拳を握って笑う。

 ……その仕草が可愛らしくて、俺は無駄に焦った。


「……優児先輩?」


 冬華が、胡乱な眼差しを俺に向ける。

 俺は一つ咳ばらいをしてから、「なんだ?」と真剣な表情で問う。


 しばらくの間彼女は何も言わなかったが、ふぅ、と一息ついてから口を開いた。


「……絶対に観に行くので、頑張ってくださいね!」


「おう、やるだけやってみるさ」


 冬華の言葉に、俺は答える。


「冬華ちゃん、俺は?」


「あ、朝倉先輩も頑張ってくださいねー」


「軽い……」


 落ち込む朝倉に、「私たちが応援してるからね!」「頑張ってね、善人君!」と小学生Sに励まされる朝倉。……モテモテだな、と思っていると、


「優児さん、楽しみにしてるから」


 と、紅葉ちゃんが俺に向かって言った。


「おう、ありがとな」


 俺が答えると、紅葉ちゃんは満足そうに微笑んでから、頷いた。


「ちなみに冬華ちゃん、私は?」


 夏奈が自らを指さし、冬華に問いかける。


「葉咲先輩は、胸しか見られないと思うので、頑張っても頑張らなくても変わらないんじゃないですかぁ?」


「えー、何か冬華ちゃん、考え方がセクハラ親父っぽいねー」


 冬華と夏奈は、互いに笑顔のままガンくれ合っていた。


「修羅場だ……」「負けないで紅葉!」

 とどういうわけか小学生たちが紅葉ちゃんを鼓舞しているようだが、


「……このレベルでは張り合いたくないんだけど」


 引き気味に、紅葉ちゃんは呟いた。

 

 どういう意味か、いまいちわからなかったが。

 紅葉ちゃんの判断は多分正解だな、と俺は思うのだった。

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