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19、甲斐烈火について

「なんだ?」


 俺は甲斐へ視線を向ける。

 てっきり視線を逸らされるものだと思ったが、甲斐は今も俺を睨み続けている。


「……どうして、先輩がここにいるんですか?」


 甲斐は再び俺に問いかけた。

 ……良い根性をしている。

 いや、悪い意味ではなく。

 

 俺と目が合うと、視線を逸らしてひたすら謝り続ける人間ばかり。そして、陰から聞こえる俺の悪口。

 あからさまに敵意を向けてきているとは言え、正面から向かってきてくれている分、俺としてはやりやすい。

 

 俺は甲斐の問いかけに答えようとしたのだが、


「兄に手伝い頼まれた私と一緒に、優児先輩も手伝ってくれてるんだよねー! 優しい彼氏でしょー♡」


 と、冬華が俺が口を開く前に言った。


「は? 冬華が手伝い? なんでそんなことを……」


「知らなーい。兄に頼まれただけだしねー、私は。それじゃ、甲斐君。私たちこれからお仕事あるからー」


 冬華はそう言ってから、俺の腕を引っ張り廊下へと出た。

 甲斐は背後から、冬華に声をかけてくる。


「あ、ちょっと待ってくれ、冬華!」


「バイバーイ、また明日―」


 冬華が告げ、俺たち二人は印刷室に向かって廊下を歩く。

 俺は振り返るが、甲斐が追いかけてくる様子はなかった。

 ただ、じっと俺を睨み続けていた。


「あー、感じ悪っ、うざー」


 冬華が忌々しそうに言った。


「……そうか? 中々肝の据わった好青年じゃないか」


「先輩、それマジで言ってるんですか?」


 呆れたような表情で、そう問いかけてくる。


「もちろん。……半分はな」


「半分でも十分おかしいですからねー」


 やれやれ、と冬華は肩を竦めつつ言った。


「……嘘をついてまで助けてくれるとは思っていなかった。ありがとな」


 そんな彼女に俺は礼を言う。

 冬華が生徒会の仕事を手伝っているのは、池に頼まれたわけじゃない。俺に巻き込まれたようなものだ。

 にもかかわらず、彼女は俺が絡まれているところを見て見ぬふりをせずに、助けてくれた。

 

「……別に、お礼とか良いんですけど。あいつがウザかったから、言っただけだし」


「そうか。それでも、ありがとな」


 俺の言葉に、冬華は無言だ。

 照れているのだろうか?

 それとも、本当に俺を助けるつもりなど無く、私怨でしかなかったのだろうか?

 彼女の表情を伺っても、それは分からなかった。


「そういえばさっきの奴、同じクラスの奴なんだよな? どんな奴なんだ」


 話題を変えるための俺の問いかけに、悪戯っぽい笑みを浮かべる冬華。


「知ってますよー。早速あれですか? いつ体育館裏に呼び出そうか、計画を立てるために聞いておきたいんですか? それとも、家族構成を聞いて弱みでも握ろうっていうんですか?」


「ホントに俺をなんだと思ってんだよ……」


 俺は冬華の言葉に引き気味で答えた。


「冗談ですよー、半分は」


 半分でも十分おかしいよな……。


「彼は、一年一組クラス委員長の甲斐烈火かいれっか。爽やかなイケメンで、男女誰とも分け隔てなく接するモテモテ男子です。噂によれば入学してから二週間ほどで、既に3人の女子から告白をされているようです。しかも、入試の成績もトップレベル。すごいですねー」


「俺の隣にそのモテモテ男子よりもよっぽどすごい奴がいるよな」


「やだもう、先輩! すぐそうやって私を口説こうとする! 私が可愛すぎるのがいけない、って分かってますけど? もうちょっと、タイミングを考えてくださいっ♡」


 冬華は、俺の呆れた顔を見てからつまらなさそうな表情を浮かべた。


「それに、一年生にしてサッカー部のエースとか言われてますし、コミュ力も高いですし。既に一年のカーストトップって、周囲から認識されてるみたいですねー」


「へー、一年の池みたいなもんか」


 容姿端麗、文武両道。しかも、人望もある。

 池程突き抜けてはいないが、それでも、大したもんだと思った。


「……正しくは、クソ兄貴の下位互換みたいなもんですね」


「……辛辣な評価だな」


「妥当な評価だと思いますけどね」


 冬華は、つまらなさそうにため息を吐いた。


「それにしても、なんでいきなり睨まれたんだろうか? 新入生に恨まれる覚えは……ないんだがな」


「あいつが私に惚れちゃって、先輩を逆恨みしてるんじゃないですか?」


「自分で言うところが冬華らしいが、それが一番ありえるな」


 俺が言うと、冬華が神妙な表情を浮かべてから言った。


「……先輩、モテモテでごめんなさい」


「すごい謝罪だな」


 むしろこれは謝罪と呼べるものだろうか?


「……私がモテモテだと、恋人として先輩は不安になりませんか?」


「そうだな、俺の身の安全にかかわる問題だ。気にはなる」


「別に期待したわけではないですけどー、その反応はちょっぴりムカつきますねー」


「ああ、ここは恋人として、『冬華がモテモテだと嫉妬してしまう』と言っておいた方が良かったのか?」


「そうですよ! 他の誰かがいるときに、こういった話をしたら、ちゃんとそう答えてくださいね! ただ、実際に強面の先輩に言われると……マジじわるんですけどー」


 きゃは♡と嬉しそうに笑う冬華。

 こいつはホント、良い性格してるよな。……良い意味ではなく。


「ま、あんなの放っておいても問題ないですよ。実際に何かする度胸なんて、どうせありませんよー」


「……そう、かもな」


 冬華の言葉に、俺はそう答えた。

 確かに、実力行使をされる確率は低いだろう。

 しかし……あの怒りに満ちた眼差しを正面から受けた俺は、彼が何も出来ないとも思えなかった。


 話をしているうちに、印刷室に着いた。

 俺は過去問が入ったかごを、一度机の上に置いた。


 冬華は、指示の書かれた紙と、過去問の内容を見比べていた。


「……ちなみに。去年の勉強会はどんな感じだったんですか?」


「参加してないから、知らん」


「愚問でしたね」


 愚問とまでは言うなよ、傷つくだろうが……。

 内心凹んでいる俺に、冬華は可憐な笑顔を浮かべて微笑みかける。


「それなら。今年は運営側って言っても、折角参加できるんですから。楽しくなると良いですね」


「……つまらないよりかは、楽しい方がよっぽど良いよな」


 過去問の束をかごから取り出しつつ言った、俺のなんの面白味もない返事を聞いて、冬華は再び、優しく微笑んだのだった。


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