51、おばあちゃんのぽたぽ〇焼き
書籍版最新第3巻、発売中です(∩´∀`)∩
「あ、お帰り優児君。お父さんには会えたかな?」
ツンデレおじさんこと千之丞さんと別れ、夏奈の待つ教室に一度戻った。
「待たせて悪かったな。……まぁ、うん。会えたぞ」
父親ではないと否定したいものの、上手いこと説明できない俺は、歯切れ悪く答えた。
「それよりも、たこ焼き。食いに行くんだろ?」
俺の言葉に、夏奈は笑顔で頷いた。
それから俺と夏奈は、並んで廊下を歩くのだった。
☆
失敗した。
そう思った時には、手遅れだった。
「よう、優児か。お隣さんは、二年のアイドル、葉咲夏奈じゃねーの。……ったく、気が多い奴だな」
たこ焼きの出店を見つけると、そこには竹取先輩がいた。
「……ここ、竹取先輩のクラスの出し物だったんですね」
「いんや、3年は受験勉強が大変な生徒に配慮して、クラス単位の出し物はない。これは、有志の3年生によって運営されてるたこ焼き屋だ」
「……ちなみに、他の3年生は?」
俺の問いかけに、ふっと寂しそうに笑ってから、
「ここはあたしに任せて、先に行ったよ……」
最終回付近で最後の見せ場を与えられる味方キャラみたいなことを言っているが、要するに店番を押し付けられただけだろう。
まだ昼飯には早いからか、混雑した様子はない。一人でも、しばらくは大丈夫だろう。
……俺がいるからここに来たくても来られない、という生徒がいる可能性も、もちろんあるんだが。
「ええと、生徒会長選挙の実行委員長をしていた、竹取先輩ですよね?」
「おう、それで優児は副委員長をしていた。要は、あたしの部下で、パシリだ」
「部下であっても、パシリではないですけど」
俺が無表情のまま反論すると、竹取先輩は楽しそうに笑った。
それを見た夏奈が、
「な、なんか二人は、仲良さそうですね」
と、どこかムスッとした様子で問いかけた。
竹取先輩は、ふぅん、と呟いてから、
「安心しろ、夏奈。確かに優児は一本芯の通った良い奴だと思っているが、あたし的にこいつはただの可愛い後輩に過ぎない。恋愛感情は全くない、これっぽちも、一ミリも!!」
それはなんら都合の悪いことではなかったが、その言いように引っかかった俺は、無言無表情を貫き、遺憾の意を表明する。
しかし、竹取先輩に気にした様子はなかった。
「それなら、良かったです!」
夏奈はとても嬉しそうに言う。
その笑顔を見てから、竹取先輩は言う。
「ここに来たってことは、タコ焼き喰いたいんだろ? 折角だし、焼き立て食わせてやるよ」
ウキウキした様子の彼女を見て、俺は思わず夏奈に向かって言った。
「夏奈、たこ焼き以外のところに行かないか?」
「え? もしかして優児君、たこ焼き苦手だった?」
「たこ焼きなら良いんだが……竹取先輩のことだから、調子に乗ってよくわかんない具材を入れてる可能性がある」
「あたしが何を入れるってんだよ?」
竹取先輩は無表情でそう言った。
「……例えば、おばあちゃんのぽ〇ぽた焼きとか」
「大学生が最大限悪ふざけをしたタコパでも、チョイスしなさそうな具材だな」
竹取先輩は不満そうに言ったが、内心『その手があったか!』と喜んでいるに違いない。
「ったく、優児よぉ、ごちゃごちゃ言ってないで、大人しく喰いな。これがあたしのオ…」
そう言ってガスで火力を調整し、タコ焼きを焼き始めた。
数分、彼女は無言のままたこ焼きをひっくり返しながら、様子を見ていた。
それから、完成したのかプラスチックのパックにたこ焼きを8個つめ、マヨネーズ、ソース、鰹節を振りかけて、
「あ、青のりはかけないでください」
夏奈が恥じらいつつ言った言葉に大きく頷いてから、爪楊枝を適当にタコ焼きに3本ほど挿してから、
「光ん力だアアアアああ!!」
テンションをめちゃくちゃ上げた竹取先輩が、急にそう叫んだ。
そして、「ぎゃああああアア!!」と言いつつ、どや顔でたこ焼きを差し出してきた。
「想像以上にヤバい奴……」
「……うん」
滑り倒すことを一切いとわない雑なボケ。
彼女のメンタルの強さと頭のぶっ飛び具合に恐れおののきながら俺は呟き、夏奈は真顔で頷いた。
「はぁ? あたしが優児の心のヤバい奴? ははーん、とうとうあたしまで攻略対象にする気か? 一筋縄じゃ、行かないんだからなっ!」
ふんっ! と腕を組んでそっぽを向いてから、竹取先輩は言った。
ここまでぶっ飛んだ様を見せつけられたら、流石に畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
「熱っ! あ、でも美味しー」
竹取先輩のあまりの凄みに意識がもうろうとしていた時、夏奈の嬉しそうな声が聞こえた。
どうやら彼女は、竹取先輩の奇行については無視することを決め込み、早々にたこ焼きを食べたようだ。
「ほら、優児君も食べてみて、美味しいよ!」
夏奈がそう言って、爪楊枝にさしたたこ焼きを俺の口元に運んだ。
俺は少しだけ躊躇ってから、「わ、落ちちゃう、早く早く!」と夏奈に急かされ、それからたこ焼きを頬張る。
「あっつぅう!」
出来立てのタコ焼きのあまりの熱さに、悶える。
「あ、ごめん優児君っ」
慌てた様子の夏奈に、悶えつつも大丈夫と伝える。
外はかりっと中はとろーりとしたタコ焼きは、取扱注意の危険物ではあるが……かなり、美味かった。
「ああ、めっちゃ美味いな……!」
「ね? あ、もう一個食べる?」
夏奈が嬉しそうにそう言ってから、もう一度たこ焼きを差し出そうとしたので、俺は彼女の手を押さえてから言う。
「その前に、飲み物買ってこないか?」
「え、あ……う、うん。そ、そうだねっ」
視線を泳がせつつ、夏奈はなぜだか照れくさそうにそう言った。
どうしたのだろう、そう思ったが、理由にすぐ気が付いた。
俺が夏奈の手を握りしめていたのだ。
「わ、悪い」
慌てて、俺が夏奈から手を離して言うと、想定外の言葉が耳に届いた。
「いるよ、竹取先輩はここに……、だからシームレスに二人だけの世界に入るのは、やめてくれるか?」
――その声に振り向くと、竹取先輩が悲しそうな表情でこちらを見ていた。
流石に悪いことをした気になった俺と夏奈は、
「たこ焼き、美味いっす」
「友達にもお勧めしときますねっ!」
と早口に言い。
いたたまれなくなって、その場から立ち去るのだった――。
「友人キャラの俺がモテまくるわけないだろ?」書籍3巻が発売中です!
愛花、1,2巻以上の加筆修正頑張りましたっ(`・ω・´)ゞ
具体的には、真桐先生とのエピソードの追加、優児君に対する想い、書籍版オリジナルキャラクターの『優児の親父』登場、そしてWEB版では描かれていない優児君の一年生の頃の事件のことなど、見所盛りだくさんでお送りしてます(*'ω'*)!
各専門店さんでは書下ろしのSSもついてくるので、専門店さんで紙の本を購入すると、ちょっぴりお得かもしれません(∀`*ゞ)エヘヘ
【重要】書籍3巻以降、WEB版からエピソードが分岐していきます(予定です!)
これまで手に取っていなかった読者のみんなも、この機会にぜひご購入いかがでしょうか♡
最後に、コミカライズ&書籍3巻発売を祝してブックマーク登録や評価をしてもらえると、とっても嬉しいのです(*'ω'*)