47、朝倉ガールズ
とある日の放課後。
劇の練習も終わり、部活に向かう朝倉と一緒に靴箱に向かっていた。
「それにしても、友木はマジで上手になったよな、演技」
「まぁ……演技と言えるかは分からないけどな」
快活に笑いながら言う朝倉に返答すると、
「……山上曰く、俺も演技をしていないみたいだけどな」
と苦笑を浮かべた。
「山上は、きっと素直に朝倉のことを褒められないだけだと思うけどな」
「そ、そうだったら良いんだけどな」
と鼻頭を指先でこすりながら、あからさまに照れた様子で朝倉は言った。
それから、俺は少し気になっていたことを、朝倉に問いかけた。
「最近夏奈の様子が変……というか、なんだか焦ってるように見えないか?」
夏奈は、テニススクールの関係で、放課後に練習がほとんどできないでいる。
練習時間が少ないせいで、思ったように演技が出来ず焦ってるのでは……と少々心配になっていた。
「そうか? ……言われてみれば、いつも早く帰るから練習時間少なくて焦ってるのかもしれないけど。セリフも覚えているし、演技も問題ないから、俺はあんまり分からなかったな」
俺の気にしすぎだったのだろうか、と朝倉の言葉を聞いて考えていると、
「気になるんだったら、今度友木から一声かけてみたらどうだ?」
と、彼は笑顔でそう言った。
「そうだな、そうする」
朝倉の言う通り、今度声をかけてみよう。
何もなければそれで良いし、何かあれば話くらいは聞ける。
朝倉に話してみて良かった、そう思っていると、
「あ、友木先輩! ……と朝倉先輩、お疲れっす」
廊下の向かいから歩いてきていた男子生徒に声をかけられた。
「おう、お疲れ」
「甲斐も今から部活?」
俺たちに声をかけてきたのは、一年の甲斐だった。
「そうです、クラスにはまだ残っている奴らもいますけど、俺は部活もあるんで先に上がってきたんです。……冬華はまだクラスの連中に捕まってますよ」
俺に向かって、甲斐は苦笑を浮かべた。
「ああ、そうらしいな」
冬華からも、先ほどメッセージを受けていたので、遅くなるのは分かっていた。
「そう言えば、冬華ちゃんと甲斐のクラスは、文化祭の出し物は何をするんだっけ?」
朝倉が甲斐に尋ねた。
「俺たちのクラスはコンセプトカフェっす」
「へー、どんなコンセプトなの?」
「それはっすね……」
と一度考えてから、
「実際にご来店してのお楽しみってことで」
そう言ってから、甲斐はカバンからあるものを取り出した。
「これ、割引券なんで、是非お越しください」
そして、俺と朝倉に取り出した割引券を渡す。
「……商売上手だな、甲斐」
「これで2人は客確保ってわけだしな」
俺と朝倉の言葉に、甲斐は首を振ってから答える。
「それ一枚で同じグループなら何名でも割引が効くんで、ぜひ朝倉ガールズと一緒に来てください」
「……その呼び方はイメージ悪いからやめような、甲斐君?」
甲斐の言う朝倉ガールズとは、朝倉が指導しているバレーボールチームに所属している女の子たちのことだろう。
彼女らは文化祭のことは既に知っているようだったので、甲斐の目論見はきっと成功するだろう。
「何にせよ、ありがとうな。使わせてもらう」
「そうだな、誰と行くかは未定だけどなー!」
俺と朝倉の言葉に、甲斐は微笑みを浮かべて応えた。
「うっす、お待ちしてますんで!」