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44、何故そこで愛ッ!?

 文化祭準備のため、今日は二コマ割り当てられていた。

 各自担当の班に分かれ、今はクラスメイトそれぞれが劇に向けて準備を進めていた。


 劇で役者をする俺と夏奈、朝倉とその他数人のクラスメイト、そして脚本を担当した山上御大だった。


 山上は【超監督】という、いつの時代のオタクだよと突っ込みたくなる腕章を着け、腕を組んでいる。

 そして、劇の練習をしている俺たちではなく、スマホに向かって厳しい眼差しを向けていた。

 

「八握剣異〇神将魔〇虚羅……この思わず口にしたいネーミングセンス、G〇GAから目を付けていた私の目に狂いはなかったようね……」


 後方師匠面で今週のジャン〇の感想を呟く山上に思わず気を取られてしまい、セリフをとちってしまった。

 

「……悪い」

 

 俺の言葉に、夏奈や朝倉はドンマイと笑う。

 そして山上は電子版週刊少年ジャン〇から視線をこちらに向けなおし、言った。


「うーん、友木君、やっぱりまだ硬いよね。セリフ覚えてないなら、台本見ながらでも大丈夫だよ?」


 今セリフをトチったのは、山上の独り言に反応したせいだが、それとは関係なく、俺の演技はまだまだ固いのは理解できる。


「いや、セリフを覚えてないわけじゃないんだ」


「それじゃあ、緊張してるのかな?」


 今度は、夏奈が首を傾げながら問いかけてきた。


「緊張、しているわけじゃないんだが……こういう形で人前で話すのに、極端に慣れていないから、だと思う」


 高校二年生にして、初めての演劇。誰よりも不自然なのも、仕方がないと思う。

 俺が言葉をそう言うと、


「あー、そゆこと。それなら仕方ないかも」


 と、山上はあっさりと納得した。

 俺の低すぎるコミュ力による信頼と実績の賜物だろう。


「うーん、それじゃ朝倉、何かいいアドバイスとかない?」


「え、俺? 俺も別に演技がうまかったり、喋りが上手なわけではないから、ろくなアドバイスはできないと思うんだけど」


「あ、そっか。朝倉モブが自然体に見えたのは、演技が上手なわけじゃなくて、家来パシリが異常にハマリ役なだけだったね」


 ウフフ、と揶揄うように、山上は言った。


「お前今朝倉と書いてモブとルビ振っただろ? ……俺はいい加減切れても誰にも責められないよな?」


 イラっとした様子の朝倉に、山上はしゅんとした様子で言う。


「ごめんごめん。ただほら、朝倉は特別だから、どうしてもこういうこと言っちゃうって言うか…」


「……まぁ、あんまり揶揄ってくれるなよ」


 朝倉は言った。

 優しいというか……チョロすぎて心配になった。

 2人のコントを見ても、ろくなアドバイスがもらえないということしか分からない。

 どうしたものかと悩んでいると、


「ちょっと休憩しよっか」


 と夏奈が言った。

 気づけば、既に1コマ分の時間が経過していた。


 夏奈の言葉に、異議を唱える者はいない。


「それじゃ、10分休憩ね」


 山上の言葉の後、役者班の多くは一息ついたように、その場に座り込んだ。 

 俺は外の空気に当たろうと思い、廊下に出て窓を開けた。

 吹き込まれた風が、頬をくすぐり前髪を揺らした。


「気持ち良い風だね」


 不意に、隣から声が掛けられる。

 振り返ると、そこには夏奈がいた。

 教室を出た俺の後を着いてきたのだろう。


「そうだな」


 俺の答えに、夏奈はニコリと笑った。その表情を見て、俺は言う。


「……なんか、俺が足引っ張ってるよな。気を使わせて、悪い」


 夏奈が休憩を申し出たのは、俺に気を使ってのことだろう。

 俺の言葉に、夏奈は無言のまま俺の額に指先を向けて、それからためらいなくデコピンを見舞ってきた。

 突然のことに面食らうが、手加減してくれたのか、全く痛くはなかった。


「え、無反応? 優児君怒っちゃった?」


「いや、痛くなかったから、反応できなかった」


「あ、そーゆうこと?」


 夏奈はそう言ってから、


「優児君は、頭が固くなってるのかも、って思って。デコピンしたら、ちょっとは頭もほぐれて、柔らかくなるかな、って」


 背伸びをして、もう一度俺にデコピンをしようと指をはじいてくる。

 だが、来ると分かっていればよけるのは簡単だ。俺は首を傾けて夏奈の可愛らしい攻撃をかわしつつ、答える。


「頭を柔らかく、って言われても……。イマイチよく分からないんだよ。美女と野獣を下敷きにしているから、俺の役ヤンキーは、人を見かけで判断して冷たく振舞う嫌な奴、って設定だろう? される経験は豊富だから、自然に演じられるはずなんだが、真逆だからなぁ……」


 夏奈相手に、俺は弱音を吐く。

 夏奈の指先が、俯く俺の額を優しくなぞる。


「そんなヤンキーも、物語の最後には、人を信じて愛せる美しい心を手に入れる。それって、優児君の周りにもいたんじゃない? 優児君を見た目や評判で判断して怖がって、だけどその後ちゃんと認めて温かく接してくれる人ってさ」


 言われて、俺は考え……そして、とある人物の顔がぱっと思い浮かぶ。

 そう言えば、今は慕ってくれる甲斐も、出会ったばかりの頃は、俺の話を聞かず、見た目とかつて起こしてしまった事件の印象だけで悪者と決めつけるような奴だった。

 それも、正義感故の行動なので、嫌な奴と断じることもできないが、いずれにせよ過激な奴だった。

 顔を上げると、夏奈と目が合った。


「心当たりのある人が、いるみたいだね」


 苦笑を浮かべてから、夏奈は続けて言う。


「その人をイメージしながら、演技をしてみたらどうかな? きっと、これまでよりもずっと役のことが分かるんじゃないかな?」


 言われてみれば、確かにそうかもしれない。

 理解の難しいキャラクターとしてとらえるよりも、親しい後輩を重ねた方が、ずっと理解しやすいはずだ。


「おーい、友木、葉咲! 休憩終わりだぞー」


 タイミングよく、教室の中から朝倉に声をかけられた。

 

「はーい!」


 と夏奈が答え、それから俺に向かって言った。


「よし、それじゃまた頑張ろっか!」



「……なんか、休憩前と違って、めちゃくちゃ自然に演技が出来てないか、友木?」


 教室に戻り、練習を再開すると、驚いた表情を浮かべながら朝倉が言う。

 山上や、他の連中も同じように驚いた表情をしていた。


 ただ一人、夏奈だけが驚きを浮かべず、満足そうに笑っていた。

 どうやら、夏奈のアドバイスのおかげで、上手くいったようだ。


「夏奈と……甲斐のおかげだな」


「葉咲はさっき話してたから分かるけど……何故そこで甲斐ッ!?」


 朝倉の大げさなリアクションを聞いていた夏奈が、笑いながら俺に向かってサムズアップをしてきた。

 照れくさかったが、俺も彼女にサムズアップで返すのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 甲斐と書いて愛と読ませるんじゃぁねぇですよw …良いですよね、ウェル博士
[一言] 超監督の後に朝倉の文字を見ると思い出す。 あの恐怖を。
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