40、再会
「……何かの見間違いだな行こう」
「そうですね……」
俺と冬華は竹取先輩らしき人が楽しんでいるその光景から目を背けようとしたが。
「あたしのト〇イピオがー!!」
と、一際大きな声を放つ彼女の声に、思わず足を止めて様子を見てしまう。
周囲の男子小学生たちが、うな垂れる竹取先輩を囲み、強めの語気で言う。
「姉ちゃんのベイブレ〇ド弱すぎ」
「ていうか、そんなのコロ〇ロでもアニメでも見たことないよ」
「パチモンじゃん」
小学生男子になじられる竹取先輩。
悔し気に歯噛みする彼女を、俺と冬華は呆然と眺めていた。
「確かにあたしのトライピオは、第1世代のベ〇ブレードだ。正直言って生まれた前後に出たやつだから、思い入れがあるわけでもないし、正直あたしもこいつはクソ雑魚だと思っている。……だがな、こいつをバカにするのは、これを見てからにしろ!」
そう言って竹取先輩は、トライ〇オのパーツを外して、上の部分だけをゴーシュート!した。
すると、恐ろしい勢いで、上部パーツが竹とんぼのように空を飛んだ。
とてもシュールな絵面だった。
「え、なにそれ、すげー!」
「おもしれー!」
「でも意味わかんねー!」
飛んでいったトライ〇オを見て、ぎゃははは、と笑う男子たち。
竹取先輩はその様子を眺めつつ、を勝ち誇ったように鼻の頭を指でこすった。
「どうだ、凄いだろ? あたしのトライピ〇は」
竹取先輩の言葉に、「でもパチモンじゃん」と答える男子。
竹取先輩は、「そう……」としょんぼり肩を落としていた。
それから、飛んでいったトライ〇オのパーツを取りに行くためだろう。
公園の入り口付近にいた俺と冬華の方向にトボトボと歩いてきた。
やばい、見つかる。
そう思った時には、既に遅かった。
俺と竹取先輩は、バッチリと目が合った。
「おー、優児と冬華か。こんなところで何をしてんだ?」
「そっくりそのままお返しします」
恥じらうこともなく、平然とした様子で竹取先輩が俺たちに声をかけてきた。
俺の問いかけに、
「あたしは、あたしよりも強い奴に会いに来ただけさ」
とドヤ顔で告げた竹取先輩。
その表情に、俺は苛立ちが隠せない。
叶う事なら↓タメ↑+Kを食らわせてやりたいと思った。
「俺が言いたいのは、受験で忙しい三年が、受験を目前に控えて昼間っから公園で何をしてるんですかってことなんすけど?」
「はぁ、優児、お前大丈夫か……?」
やれやれ、と溜め息を吐きながら、竹取先輩は言った。
まさか、ただ遊んでいるだけにしか見えないのに、何かしら重要なことをしているのだろうか、そう思っていると……。
「見て分からないのか? ベ◯バトルに決まってるだろ?」
「見たまんまだった……」
彼女の答えに、俺は心底残念な気持ちになった。
「ちょっとこの人、頭いっちゃってますね」
隣で冬華が呆然と呟いた。
俺は無言で頷いた。
「ま、受験生もいろいろあるってことさ。たまの息抜きくらい、見逃してくれ」
「もっと女子高生に相応しい息抜きの仕方があるように思うんですけどね」
「ほぅ。それはこの竹取先輩に、あんたらのように不純異性交遊をしろ、と。そう言いたいわけだ。全く、あたしだから許してやるが、そういうことを他の女子に言うなよ? セクハラで一発アウトだからな」
やれやれ全く、しょうがない。
そう言いつつ、肩を竦める竹取先輩。
揚げてもない足をとって、息を吐くように人をイラつかせるなんて、やはり天才か……。
あきらめの境地に至った俺は抗議もせずにそう思っていると、不意に冷たい視線を竹取先輩から受けた。
「……どうしたんですか?」
俺が彼女の言葉をスルーしてイラっとしたのだろうか。
そうであればなんて面倒臭い奴なんだと思っていると、彼女はふぅと小さくため息を吐いてから、いつもの調子に戻って言った。
「なんでもねーよ。あたしはあの砂利ボーイどもをボコボコにしないといけないんでな、ここら辺で失礼する」
愛と真実の悪を貫くラブリー・チャーミーな敵役っぽさを不意に出した竹取先輩。
なんかもう……なんも言えねぇ。
俺と冬華が黙って彼女の背を見送ると、
「あれ、冬華ちゃんと優児くんだー! こんなところでどうしたの?」
不意に、背後から声をかけられた。
振り返ると、そこには朝倉にバレーを教わっている女子小学生の桜ちゃんが、瞳を輝かせながら立っていた。
「もしかして、また練習を手伝ってくれるのー!?」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
俺がそう答えると、
「そっかー。優児さん、これからもあたしのこと見てくれるって約束してたから、ようやく様子を見に来てくれたかと思ったのになー」
ふてくされた様子でそう言ったのは、桜ちゃんの双子の紅葉ちゃんだった。
彼女とは特に仲良くなっていて、バレーの大会以降会う機会はこれまでなかったが、メッセージのやり取りは続けていた。
「いや、最近忙しいから中々練習の手伝いに行けないってメッセージ送っただろ?」
「知ってる、言ってみただけですよ」
俺の言葉に、ニコリと笑って答える紅葉ちゃん。
あの暗かった彼女が冗談を言えるほどまで、心を開いてくれているのが嬉しい。
文化祭が終わったら、また練習を時々手伝いに行こう。
そう思っていると……。
「え、ちょっと先輩?」
固い声音で、冬華が俺に問いかける。
「今のどういうことですか? 私、紅葉ちゃんと先輩がメッセージのやり取りしているって、知らなかったんですけどー?」
笑顔を浮かべているが、冬華は硬い声音のまま。
仄暗い闇を宿した眼差しで、俺を見つめるのだった。