39、流行
放課後、いつものように俺は冬華と帰り道を歩いていた。
「そういえば、先輩のクラスって、文化祭で何をするんですか?」
言われてみれば、冬華にはまだ何も話していなかったと思い、俺は答える。
「無難に演劇をすることになった」
「へー、確かに無難ですね」
と笑ってから、
「先輩は何するんですか? なんだかんだ手先も器用ですし、小道具とか得意そうですけど」
と、続けて問いかける。
「……一応、役者だ」
俺が言うと、「またまた~」と鼻で笑った冬華。
冗談に聞こえたのだろう。無理もない。
そう思いつつも、俺が無言のまま微妙な表情を浮かべていると、
「え、マジ!? えー……とりあえず、何をするんですか??」
かなり動揺を浮かべた冬華。
俺の性格を知っているからこそ、ありえないと思っていたのだろう。
……美女と野獣でメインをやる、なんて言えば、どんな反応が返ってくることやら。
「クラスでやるのは、美女と野獣だ。ベタだろう? 冬華のクラスは何をするんだ?」
メインをやることには言及しないまま、冬華のクラスの出し物が何かを聞く。
演劇に関して話題を掘り下げられると、無性に気恥ずかしいしな。
「私たちのクラスも無難に喫茶店です。……コンセプトカフェみたいにはするみたいなんですけど、正直色々決まってないです」
「コンセプトカフェって言うと……メイド喫茶とか、猫カフェとか、そういったのか」
「そうなんですよね。流石に今時メイド喫茶はしないと思いますけど。……まー、優児先輩が見たいって言うなら、先輩のためだけに、メイドさんの恰好をしてあげても良いんですけどねー?」
冬華は揶揄うような口調でそう言いつつ、上目遣いに俺の表情を覗き見る。
冬華にメイド、イメージ的には分からないが、まぁスタイルも良いし、似合うだろうな。
そう応えればきっと調子に乗るので、
「間に合ってます」
と一言答える。
「はぁ、これだから先輩は。あとになって後悔しても、知らないですからね?」
と、呆れた表情で言った。
それから、あれ? と首を傾げてから、
「優児先輩、劇で役者をするなら、放課後も練習をすることになりますよね? それなら、これから一緒に帰りづらくなっちゃいますよね? ……いえ、流石に優児先輩に私のことを優先してほしいなんて重いことを言ったりしませんけど? ただ、やっぱりちょっと寂しいなって思うんですよね」
グスン、と流れていない涙を拭うふりをしながら、俺に言う。
冬華も文化祭の準備が始まれば、その分帰りが遅くなってタイミングは合うだろ、とは思ったが。
結局彼女がしおらしさを装いつつ、何を主張したいのか。
俺にはなんとなく分かっていたため、苦笑しつつ答える。
「ああ、もしかしたら放課後は、時間が合わなくなるかもしれないな。……その分は、土日で埋め合わせる」
俺が言うと、一瞬で下手くそな泣きまねを止め、ニコリと笑顔を浮かべた冬華が言った。
「それなら、早速明日のお休みを利用して、行ってみたい喫茶店があるんですよ! ちなみにそこはコンセプトカフェで、文化祭の出し物の参考にもなるかも、ってところなんです!」
「ああ、そうだな。一緒に行こう」
調子の良い彼女の言葉に答える。
すると、冬華は満足そうに笑い、
「それじゃ、約束ですよ?」
と笑みを浮かべながら言った。
☆
そして、翌日。
今日は土曜日だが、昨日冬華と喫茶店に行く約束をしていたため、早々に家を出た。
それから、待ち合わせ場所である駅に到着した。
以前、朝倉がバレーの指導を行っていた小学校の最寄り駅だ。
「お待たせしましたか、せーんぱい?」
駅に着いてすぐ、冬華に声をかけられていた。
最近肌寒くなってきていたので、以前見た私服姿よりも、厚着をしていた。
「あれ、先輩? 私の私服姿を改めてみて、ドキッとしちゃいましたか?」
「似合ってるぞ」
「そ、そうやってまた、すぐ口説いてくる!」
俺の言葉に、プイと顔を背けた冬華。
いつものやり取り(?)をしてから、俺は冬華の案内に従って駅を出て、道を歩く。
「この間、朝倉先輩の手伝いに小学校に向かう道の途中で見つけてたんですよ。ちょっと行ってみたいなーって思ってたので、一緒に来てもらえてよかったです」
冬華がご機嫌な様子で言った。
「そういえばそのコンセプトカフェって、どんなところなんだ?」
聞いていなかったと思い、今更ながら質問をする。
「それはですねー……」
と冬華が呟いてから、急に立ち止まった。
「どうしたんだ?」
俺の問いかけに、冬華は「えぇ……」とどうしてか引いたような表情をしている。
どうしたのだろうと思い、彼女の視線の先を見る。
そこは、何の変哲もない公園だ。
男子小学生たちが数名、流行のベーゴマのおもちゃを使って遊んでいた。
それだけなら特段おかしな点もないのだが。
……残念ながら、俺は気づいてしまった。
「行っけー、あたしのトライ〇オ!」
男子小学生に混じって遊び、嬉々として叫び声を上げる竹取先輩が、そこにいることに――。






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