38、企画
「さて、ウチらのクラスでは演劇をやることは決まったけど、具体的にはまだ何も決まっていません!」
HRにて、このクラスの文化祭実行委員である木下が、教壇に立ち、みんなの前でそう言った。
木下の言葉に、クラスのあちこちから「ベタに白雪姫とか?」「天気〇子とか端折って劇に落とし込めたら面白そうじゃね?」「アル中カラ〇ラ~!」などと意見が飛び出し……いや、なんか関係ないこと言ってるやついるな。
木下ははぁ、と溜め息を吐いてから、山上に目配せをした。
山上は頷き、そのまま教壇に立った。
どうしたのだろうか、そう思っていると、木下が口を開いた。
「ここで意見を募集しても、グダグダになるのが目に見えているので、ここはスペシャルアドバイザーの山上先生から企画を三つ、作ってもらっています」
木下に紹介された山上が、小さな体に似合わない仕草で、うむと頷いた。
「いや、なんで木下が決めるんだよ~?」
誰もが疑問に感じたことを、クラスを代表して朝倉が聞いてくれた。
木下はクスリと笑い、
「先生は中学生の時ライトノベルのし「ちょっと待って、それ言うのマジやめて!?」
親友の黒歴史を暴露しようとしていたが、すぐに真っ赤な顔になった山上が止める。
クラスの連中は、山上が企画だしをすることに、誰も反対をしなくなった。
……流石にかわいそうと思ったのだろう。
「では先生、お願いします!」
木下が頭を下げると、涙目のままコホンと咳ばらいをした山上が、黒板に文字を書いた。
『①、美女と野獣』
……普通だ、きっと誰もがそう思った。
「文化祭の劇で、高いクオリティの脚本を完全オリジナルで創るのはほぼ無理だと思うから、やっぱりベタでも安定感のある、有名なお話を尺に収まるように多少アレンジを加える……くらいが無難かなと思います」
それから、山上は俺を見た。
「ちなみに、野獣役は友木君。配役でインパクトを出して、後は無難にまとめる感じ? その場合、美女役は夏奈とかだと、見てる人も楽しそう」
「は、俺がそんなメインの役どころをやるのか!? 確かにこの間、悪くはないと言ったかもしれないが……」
山上の言葉に俺が反応すると、彼女が応える。
「まぁ、相談もせずに企画立ててごめんって思うし、ホントにダメなら無理は言わないけど……」
その言葉の後に、朝倉が続ける。
「友木は、自分がやりたくないんじゃなくて。友木が舞台の主役級をすることで、俺たちのクラスが変な目で見られないかって言うのを気にしてるんじゃないか?」
その言葉に、俺は頷く。
ピンポイントのちょい役であれば、ちょっとしたサプライズくらいに思われるかもしれないが、俺が延々と舞台に立っていても、不愉快に思う人間の方が多いだろう。
だから、それは避けたかった。
「気にしないで良いよ、優児君!」
反応したのは、夏奈だった。
「この前春馬は、投票で一位を取りたいって言ってたけど。それよりも私は、みんなと一緒に……優児君と一緒に、楽しく文化祭を成功させたいから。そんな外野のことなんて、気にしないで楽しんだらいいんだよ。私も、美女とか言われても困るけど……優児君と一緒なら、楽しいと思うし! みんなも、優児君と一緒に、劇を楽しみたいよね?」
夏奈は、そう言ってから、周囲を見た。
俺もつられて、クラスメイトの顔を見る。
誰もが、夏奈の言葉に頷いていた。
……そうか、楽しんで良いんだな、と励まされた気になると同時に。
「それはそうとして、なんで友木ばっかりモテるんだ?」
「これ文化祭でイメージ変わったらさらにモテまくるのか?」
朝倉を筆頭に、池を除くクラスの男子が俺に向かって、殺意の篭った視線を送ってくる。
夏奈のケースは激レアだし、冬華とはニセモノの恋人関係である。
友人キャラの俺がモテまくるわけないだろ?
……と思いつつ、そんなことは口に出せないので、代わりに俺は言う。
「……まぁ、他の二つの企画次第だとは思うが。断る理由はなくなった」
俺の言葉に、クラスの皆が笑顔を浮かべたのが、無性に気恥ずかしい。
「それじゃ、本人の許可も取れたことだし、次の企画ー」
木下の言葉の後に、山上が黒板に文字を書いていく。
『②美女と野獣先輩』
そしてすぐに木下が黒板の文字を消した。
それから山上に、やたらキレのあるチョッピングライトを食らわせてから、いつもの調子で言う。
「はーい、どうやら先生は不調で、企画を二つしか出すことが出来なかったみたいでーす」
「面目ない……」
チョッピングライトを食らった場所に片手をあてて言いつつ、空いたもう片方の手で黒板に書き、三つ目の企画を発表する山上。
『③ロミオとジュリエット』
やはり、ベタなタイトルだ。
だが、先ほどの山上の言葉には説得力も有り、クラスメイトからは特に異論はなさそうだった。
「ロミオとジュリエット、これもベタなお話だよね。これは美女と野獣と違って、ハッピーエンドじゃないから、ちょっとアレンジをしたらどうかなって思ってます」
「どうアレンジをするんだ?」
池が問いかける。
クラスの皆も、うんうんと頷いていた。
その問いに、山上は胸を張って答える。
「これは私のオリジナルのアレンジなんだけどね。まずロミオとジュリエットは寄宿学校の学生なんだけど」
これオリジナルじゃないわ。
一瞬でその事実を看破した俺は、山上に向かって言う。
「山上、評価シートの『オリジナリティ』の項目がやたら低い点数なのは、そういうところだぞ」
「友木君は私に殺されたいの……!?」
喧嘩を売られたことはしょっちゅうある俺も、クラスメイトの女子に殺害予告(?)を受けたのは、これが初めてだった。
「それって、どういうこと?」
話の流れを理解していない木下が問いかける。
俺は彼女の問いに答える形で、山上の問題行動を説明したのだった――。
☆
……と、いうわけで。
俺たち二年A組は、演劇「美女と野獣(仮)」をすることに(消去法で)決まったのだった。






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