36、新役員
そして放課後。
同じく文化祭の話し合いをクラスでしていた冬華から、HRが伸びていると連絡があった。
冬華のクラスは、あまり団結感がないな……他人事のようにそう思いつつ、彼女に待つことを返信。
それから、
「また明日な、優児」
と、帰り支度を終えた池に声をかけられた。
「おう」と応じてから、
「そうだ、池。生徒会の手伝い、大丈夫か? 新体制になってまだ日が浅いのに、文化祭の仕事まで入ると、大変じゃないか?」
俺の言葉に、池は「大丈夫だ」と答えてから、続けて言う。
「去年から引き続き経験している役員が俺を含めて3人いるからな。竜宮も鈴木も優秀だし、重要な場面でいなくなる竹取先輩もいないし、問題はない」
苦笑を浮かべて言う池。
俺も竹取先輩の扱いに苦笑を浮かべた。
「それに、優児もこれから忙しくなるだろうしな。頼ってばかりもいられない」
きっとそれは、俺も文化祭で忙しくなると言いたいのだろう。
その通りだとは思ったが、
「気にするな、いつでも声をかけてくれ」
池から頼られないというのは、少し寂しかった。
「ああ、ありがとう。また頼りにさせてもらう」
池は微笑みを浮かべてから頷いた。
それから、「それじゃあな」と言って、教室を出て行った。
周囲を見れば、ほとんどの生徒が部活や委員会、或いはすでに下校をしていたのか、人がいない。
俺も、教室を出ることにした。
☆
「あ、友木先輩……」
廊下を歩く俺に、声をかける者がいた。
「黒田と白井か。今から生徒会か?」
俺の視線の先には、新生徒会役員の黒田と白井がいた。
「う、ういす。そうっす」
白井が軽く俺にビビりつつも、会釈をしつつ返答した。
そう悪印象は抱かれてないはず、なのだが。やはり俺の顔が怖いのだろう……。
「友木先輩はこれからお帰りですか、お一人で?」
黒田はそう問いかけてくる。
「冬華のクラスのHRが伸びてるらしいから、それ待ちだ」
「っく、不純異性交遊……っ!」
悔し気に呻く黒田。
そう言えばこういうキャラだったなと俺は苦笑する。
二人とも、あまり急いでいるようには見えなかったため、そのまま俺は話を続ける。
「生徒会……どうだ?」
具体的に何がどう、とは聞かずに、抽象的に尋ねる。
やはりコミュ障感が出てしまうのは、ご愛嬌だ。
「思ってたとおり、忙しいっすわ。先輩たちがいろいろ教えてくれるんで、そんなに負担には感じないっすけど」
「……やはり、手ごわいです。生徒会は」
白井の言葉の後に、黒田が深刻な表情を浮かべて何かを言おうとした。
「手ごわいって、どういうことだ?」
「あ、こいつの話は無視して大丈夫っすよ」
白井がそう言ったが、黒田は構わずに口を開いた。
「池会長が竜宮副会長を生徒会に誘い、再び彼らの愛の巣が作られました。私がただれた生徒会を是正しなくちゃと思っていたんですが、これが中々尻尾を出さない。……私が思うに、他の役員の目を盗んでイチャイチャするというスリルを楽しんでいるのでしょう。あー、本当にいやらしいっ!」
「いやらしいのはお前だろ……」
思春期真っただ中の黒田は、妄想癖があるらしい。
可哀そうに……俺はそう憐れみつつ黒田に言うと、白井が激しく頷いていた。
「わ、私がいやらしい!? そ、そそそ、そんなわけないじゃないですか!」
「ね、こいつの話は無視した方が良いでしょ?」
挙動不審な様子で噛みまくる黒田。
白井はそれを無表情に見ながら俺に言った。
「それにしても、上手くやってるようで良かった」
「今の話を聞いて、どうしてそうなったんすか?」
「人の話をちゃんと聞けってよく言われません?」
二人とも息を合わせて俺に冷たい声音で声をかけてきたので、やはり何だかんだ上手くいっているのだろう。
二人の言葉に答えずにそう思ってると、白井が俺に問いかけてくる。
「そういえば友木先輩て、前期は頻繁に生徒会に来てくれてたんですよね? また遊びに来てくださいよ」
「遊びに行ってたわけではないんだが……」
と念のため訂正してから、
「俺が力になれるようなら、いつでも手伝いに行く」
と伝える。
池がどのくらい俺を頼りにするかは分からないが、俺は今でもあいつはもちろん、この二人の力になりたい。
「友木先輩……」
嬉しそうにいう白井と、何故か胡乱な視線を向けてくる黒田。
「とか言って、白井は雑用手伝ってもらいたいだけでしょ。あんまりこいつを甘やかさないようにしてくださいね、友木先輩」
「……そ、そんなことねーべ」
黒田の言葉に、今度は白井が挙動不審になる番だった。
その様を見ていると、ポケットに入れていたスマホが振動した。
画面を見て通知を確かめると、冬華からのメッセージだった。
どうやら、彼女のクラスのHRが終わったらしい。
「あ、すみません。帰る前に長々と立ち話して」
俺に向かって、黒田がそう言った。
「いや、こっちこそ。生徒会行く前に引き留めて悪かったな」
「大丈夫っすよ」
白井は軽い調子でそう言って、黒田もお澄まし顔で頷いた。
「それじゃ友木先輩、さようなら。帰り道、お気をつけて」
黒田はそう言ってから、ぺこりと会釈をする。
白井も、「お疲れっす」と言って、片手をあげた。
「ああ。またな」
俺は二人にそう伝えると、彼らは生徒会室へと向かって歩いていく。
その背中を見送ってから、俺は冬華と合流するため、校門に向かう。
……そして、後輩と楽しく会話が出来て、内心嬉しい俺だった。