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33、悪手

「……悪い、なんて言ったんだ?」


 池の言葉を聞き返す。

 彼はふぅと息を吐き、それからもう一度ゆっくりはっきりと告げる。


「生徒会役員になって欲しいんだ、優児に」


 もう一度聞き、聞き間違いでなかったことに、俺は驚いた。

 まさか、竹取先輩の言っていた通りになるとは思わなかった……。


「なぁ池。なんで俺なんだ?」


「優秀な人材は何人いても困らないからな。選挙管理副委員長としての手腕を、生徒会でも発揮してもらえればいい」


 池に買われていること自体は喜ぶことだが、俺は戸惑う。

 そんな様子を見て何を思ったかは分からないが、彼は続けて言う。


「生徒会業務で冬華と一緒にいられる時間が少なくなるのを心配しているのだろうが、それは無用だ。冬華の事務処理能力も是非欲しいからな、役員になってもらうよう、声をかける予定だ」


 池はニヤリと笑う。

 普段通りのその様子に、俺は逆に心配になる。


「副会長は竜宮、会計は引き続き鈴木に依頼し、そして書記には冬華だ。最後の庶務のポストは優児だ」


 そう言ってから、池は俺に向かって手を差し出す。


「俺たちでこの学校をよりよくしていこう」


 差し出された手に視線を落とし……俺は軽く首を振る。

 

「……今回ばかりは、お前の考えが分からない」


 俺の言葉に、首を傾げる池。

 まるで自分の言葉におかしさがないと信じているような態度だ。


「随分とマシな扱いになったとはいえ、俺は多くの生徒や教師から問題児扱いされているような人間だ。それが生徒の代表である生徒会に所属するとなったら、嫌な顔をする人間は多いはずだ」


「そんなことか。選挙管理副委員長を経験して分かったと思っていたが。優児、お前が真面目に仕事をすれば、そんな偏見はすぐになくなる。それは、俺が保証する」


 俺の言葉を即座に否定し、そして断言した池。 

 それは……まぁ、確かに嬉しいとは思うが、選挙管理委員と生徒会役員では、話が違うのでは、とも思う。


「そんな縁故採用みたいな人事をすれば、池の支持率も下がるだろう」


「二人に声をかけるのはあくまで能力を評価してのことだ。そう思わせたい奴には、成果を以て応えてやればいいさ」


 俺の指摘にも、池は爽やかに笑う。

 ……そう言い張ってしまえば、ここまでは池の言葉に正当性があるように感じる。

 しかし、俺が彼の誘いを受けられないのには、もう一つの決定的な理由があった。


「……今年の生徒会が前期から続投する役員が多く、業務に余裕がでそうならば、来期に向けて、後任の育成に力を入れるべきじゃないか? 次期は三年になって続投がありえない俺や、生徒会長を志すとは思えない冬華を、いくら優秀な人材だからって、貴重な経験を積める役員のポストにあてるわけにはいかないだろ」


 そう告げてから池を見て、俺は驚いた。

 池が意表を突かれたように、呆然とした表情をしていたからだ。

 まさか池がこのことに気が付いていないはずはないだろうし、一体どうしたのだろうかと思っていると……。


「……確かに、優児の言う通りだな。生徒会長と副会長が二期連続というのはこれまで一度として無かったことだ。後進の育成をしつつ、一年だけの任期ではやれなかったことを行う必要がある……な」


 その表情を見て、俺は驚いた。


「俺に言われるまで、気づいていなかったのか?」


「ああ。俺なりに最善を考えていたが、今回の場合の最善は……次を見据えることで間違いがないな。短慮だった、済まない優児。気づかせてくれて、助かった。書記と庶務は、黒田と白井に頼んでみる」


 池はそう言って、俺に弱々しい笑みを向けながら言う。


「いや、それは良いんだが……大丈夫か? 生徒会選挙は、思いのほか負担になっていたのか?」


 俺は池を心配になって覗き込む。

 彼は、「大丈夫だ」と小さく呟いてから、続けて言う。


「俺がいつも正しいことを言うと、優児は思っていたか?」


「俺から見た池は、いつも正しかったように思うぞ」


 俺の言葉に、池は空虚に笑った。


「……そんなことはない。そうであれば、俺と冬華は長いことすれ違ったりすることも無かっただろうしな」


 その表情を見て、俺は自分の中に、言い知れない感情が生まれたような気がした。


「だから、俺が間違った時は。優児が殴ってでも正しい道を教えてくれ」


 そう言って、池は再び手を差し伸べた。

 胸の内の感情が、膨れ上がった気がした。

 しかし、それは言語化するのも、整理するのも難しく。


「……こんな程度のことなら、いつでも言ってやるから。安心して、池はみんなを正しく導いてくれ」


 結局、何もなかったふりをして。

 俺は池に向かって告げ、彼の手を握り返すのだった――。



 二人の少年のそのやり取りを、壁越しに聞いていた一人の少女が、嗤う。


 どこか辛そうな表情で……そしてまるで、自分に言い聞かせるように。


「……めんどくさ」


 彼女はそう、言葉を吐き捨てたのだった。

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