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17、手伝いの約束

「……夏奈のことは、とりあえず一旦忘れよう」


 遠い目をした池が、そう呟いた。


「お、おう」


 俺は少し葉咲のことが心配になったものの、池がそう言うなら放っておこうと思った。

 そして、冬華は全力で池の言葉を無視しつつ、手にしたサンドイッチに齧りついていた。


「次は、俺の話を聞いてもらいたいのだが」


「ああ、そういえば池も話があるって言ってたな」


 俺の言葉に、彼は一つ頷いてから、口を開いた。


「今度の勉強会の手伝いを、優児にしてもらいたくてな」


「勉強会? なにそれ?」


 池の言葉に、冬華が尋ねた。


「ゴールデンウィーク初日、有志の新入生を対象にした、生徒会主催の勉強会だ。先輩から後輩、もしくは同級生同士で勉強を教えることによって、学習への理解と親睦を深めることが目的となる」


「うっわ、つまんなさそー。私は絶対行きたくない」


 無表情で言う冬華に、池はニヤリと口端を歪めて、続けて言う。


「……というのは建前で、生徒会から新入生に一年の定期テストの過去問を配布。テストの傾向と授業対策を伝えたあとは、体育館を使って軽音楽部のミニライブや、調理部の振舞う料理を食べたりするイベントだ。……新入生を歓迎するための、ちょっとしたお祭みたいなものだ」


 得意げに話した池だったが。


「へー。めんどくさそー。ていうか、学校では話しかけるなっていってるし」


 冬華の対応は厳しい。

 全ての説明を聞いてから、無慈悲にそう言った。


 ……そりゃないだろ。池も流石に、あからさまに落ち込んでいた。


「良いよ、手伝う」


 俺がそう答えると、池は柔和な笑顔を浮かべた。


「そうか、いつも悪いな。助かる。直前の一週間は、放課後空けていてくれると助かる」


「はぁ!? ダメに決まってるじゃないですか! 私たちは恋人なんですから、放課後はイチャイチャしないといけないんです、手伝っている暇なんてないですから!」


 と、怒りをあらわにするのはもちろん冬華だ。

 俺が勝手に池の手伝いをするのが、たいそう不満なようだ。


「悪い冬華。池の頼みは断れない」


「な、なんですかそれ……恋人の私よりも、兄貴からのお願いの方が大切なんですか?」


 不安そうな表情で、冬華が尋ねてくる。

 そもそも恋人じゃないだろ、と言いそうになるが、ここには池がいる。

 不用意な発言は控えなければ。


「それとこれとは話が別だ」


 悔しそうな表情を浮かべる冬華に、続けて言う。


「それに、入学してからほとんどの昼休みと放課後、冬華は俺と一緒に過ごしてばかりだよな? 同級生と過ごして、親睦を深める時間を作ってみても良いんじゃないか?」


「良いんですよ、そんなこと。私は可愛いし、勉強もできるし、コミュ力も高いので、既に学年の人気者の地位を確立していますから。ていうか、そんなことしちゃったら、暴走する男子に告られまくっちゃいますし?」


 自信満々に応える冬華。

 俺とは住む世界が違いすぎて、想像もできない。


「自分でそれを言うとか、すごいと思う……」


「事実ですし」


 ふん、と鼻を鳴らした冬華。

 困った俺は、助けを求める様に池に視線を送った。


 池も、困惑した笑みを浮かべつつ、冬華に言葉をかける。


「悪いな、冬華。優児は借りていくぞ」


「はぁ? クソ兄貴に謝られる筋合いはないんですけど? ……ていうか、先輩。ホントに手伝う気なんですか?」


「ああ、そのつもりだ。だから、その間の放課後はこれまでみたいに一緒にいられないな。………すまない」


 俺の言葉に、冬華は深々と溜め息を吐いた。

 そして、うんざりしたような表情を浮かべて、


「もう、分かりましたよ! 滅茶苦茶めんどくさいけど、私もそれ手伝いますからっ!」


 と、彼女は言った。


「え?」

「は?」


 俺と池は彼女の言葉に驚き、同時に呟いていた。


「良いのか? 本来なら新入生を歓迎するイベントだから、運営には全くかかわる必要はないんだぞ?」


 池が冬華に説明をすると、


「何? 生徒会でもない先輩には手伝わせて、私が手伝うのは困るわけ?」


 冬華は厳しい視線を池に向けながら尋ねた。

 問われた池は、ふむと考えてから、答える。


「悪くはない。……冬華さえよければ、ぜひ手伝ってくれ」


「だけど、本当に良いのか?」


 池の言葉の後に、俺は冬華に問いかける。

 手伝いをすることに、何かメリットがあるのだろうか? 俺には全く分からなかった。


「だって、そうしないと先輩と一緒にいられませんし。それに、恋人の先輩が運営の手伝いをして、私が不参加って、それってなんだか不自然じゃないですか?」


「……そうまでして一緒にいなくても良いだろ? 昼休みまで拘束されるわけではなさそうだし。それに、当日だけでも参加すれば、特に不自然でもないだろ」


 冬華の説明に納得のいかなかった俺は、再び問いかけた。

 精々1週間、放課後にニセ恋人のアピールができなくなるだけだ。


 俺の言葉を聞いた冬華は、少し怒ったような表情を浮かべてから、大きく深呼吸をした。

 そして、満面に笑顔を浮かべてから、


「もう、優児先輩ったら! こーんなに可愛い恋人が、一緒に勉強会のお手伝いをしたいって言っているのが、そんなにダメなんですか? 私、すっごく悲しいですぅ」


 と、甘ったるい猫なで声で言った。

 ちなみに可愛らしい笑顔を浮かべてはいたが、目は全く笑っていなかったので、謎の迫力があった。


「……分かった、光栄だよ。彼氏冥利に尽きる。それじゃ、お互い手伝いを頑張ろう」


「ありがとう冬華、よろしく頼むぞ」


 池の言葉に、冬華はつまらなそうに肩を竦めた。


「別に? クソ兄貴のために手伝いをするんじゃないし。勘違いしないでよ」


 分かりやすいツンデレセリフを吐いた冬華。

 だが、その表情と声音は俺が想像するツンデレキャラの表情からかけ離れていて、かなり冷たい印象を受けた。


「ま、精々手伝いを頑張ることにします。よろしくお願いしますね、せーんぱい?」


 俺に向かって上目遣いで楽しそうに言った冬華を見て、俺はようやく気付いた。


 確かに、手伝いに参加していた方が、俺と一緒にいるのを見せびらかしやすい。

 ……なるほど確かに、池の嫉妬心を煽ることはできそうだな、と。


「こちらこそ。……お手柔らかにな」


 俺がそう答えると、冬華はキョトンとした表情を浮かべて、首を傾げるのだった。


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