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28、恋愛禁止

 翌朝、登校中のこと。


「あ、せんぱーい! おはよーございます!」


 電車を降り、改札を通ったあと、冬華から声をかけられた。


「おう」


 俺は一言応じ、駆け寄ってきた冬華と隣並んで歩く。

 それからしばらくの間、とりとめのない会話を交わすと、


「そう言えば昨日、白井君選挙辞退しなくて良かったですねー」

 

 にやにやと笑いながら、彼女はそう言った。


「そうだな。……勝ち目があるかは分からないが、やることに意義があるっていうやつだからな」


「勝ち目は……そうですね」


 苦笑しつつ、冬華は続ける。


「でも、あれのおかげで、選管のみんなの、先輩を見る目が変わったのは棚ぼたでしたね」


「……生暖かな目で見られてしまったな」


 良いことなのかいまいち自信がなかった。


「怖がられるよりはよっぽど良いじゃないですか」


「まだ、怖がられてはいると思うけどな」


 そんな風に会話をしていると、いつの間にか学校付近まで来ていた。

 そのまま歩いていると、日頃見ない光景が目に入った。


 というのも、校門でタスキを身に着け、元気よく挨拶をしている女子がいたからだ。

 タスキには「黒田亜衣」と書かれている。

 一年女子の立候補者だ。これも選挙に向けた活動の一環なのだろう。


「おはようございます! 一年立候補者の黒田です!」


 と、校門を通る生徒たちに向かって、挨拶を繰り返している。


「へぇー、やる気満々ですね」


「池や竜宮といった二年の立候補者に比べると、そもそも知名度がないから、有効かもな」


 冬華とそう話しながら校門を通ろうとすると……、


「おはようござ……冬華さんと、友木先輩……!」


 ハッとした表情を浮かべた黒田に、そう声をかけられた。


「おはよー、亜衣ちゃん!」


「……うす」

 

 気にした様子も見せず、冬華は快活に挨拶を返す。

 一拍置いてから、俺も一言応じる。


 そのまま通り過ぎようとしたところで、


「二人とも、少し待ってください!」


 と、黒田に呼び止められた。

 それから、ちょちょいと手招きされ、校門の端へと誘われる。

 俺と冬華は互いに顔を合わせてから首をひねりつつも、黒田の呼びかけに応じることにした。


「どしたの~? 挨拶運動してるんだったら、私らにばっかり構わない方が良いんじゃない?」


 と、猫を被ったまま、冬華がそう問いかけた。

 その問いかけに黒田はムスッとした表情を、何故か俺に向けてから、口を開いた。


「私は、冬華さんを尊敬しています」


 唐突なカミングアウトに、俺は戸惑う。

 

「え、あ。うん。……え、ありがとう?」


 もちろん、冬華も戸惑っていた。


「美人だし可愛いしスタイル良いし優しいし運動もできるのに、勉強しかできない私よりもずっと頭が良くて……。冬華さんは、私の憧れなんです」


 どこか辛そうに、彼女はそう語る。

 冬華は、黒田が結局何を言いたいのかが分からないのだろう、呆けた表情で「ありがと……う?」と呟く。

 しかし俺には、黒田が何を言いたいのかが分かる。

 未だに彼女は、俺に恨めしそうな視線を向けている。

 

 ……つまり彼女は、冬華が俺のような問題児と恋人であることが、許せないのだろう。

 そう考えていると、早速彼女は俺をびしりと指さし、宣言した。


「しかも、彼氏がこんなマッチョでタフなナイスガイなんて……冬華さんは前世で世界でも救ってるんですか!?」


 俺にも彼女が何を言いたいのか分からなくなった。


「あー、亜衣ちゃん結構男の趣味分かってるねー。うんうん、大丈夫、亜衣ちゃんも可愛いし、きっと素敵なカレピ、すぐにできるよ! あ、優児先輩狙うのはNGだけどねー」


 突然マウントを取り出したため、冬華の気持ちまで分からなくなってしまう俺。


 一体、何が起こっているんだ……?

 混乱する俺の耳に、


「か、か、か……彼氏なんて! 恋に憧れる気持ちはわかりますが、学生の身分で恋愛なんて早すぎます!」


 慌てる黒田の声が耳に届いた。

 ……どうやら、尊敬する冬華が問題児と付き合っていることが許せない、というよりも。

 そもそも誰かと恋仲であることが嫌ならしい。


 なるほど、そういうことか。

 ようやく彼女が何を話そうとしているのかわかりそうだ。

 しかし、この令和の時代に昭和な価値観を押し付けてくるのはいかがなものだろうか。


「冬華さん、このまま恋愛に現を抜かしていると、いつか私に学年一位の座を奪われますよ!?」


「えー。でも私、高校入ってからこれまでずーっと、恋愛にうつつを抜かしているけど……いっつも一位だし?」


 冬華が言葉の暴力を振るうと、


「くぅ……何も言い返せない!」


 黒田は悔しそうに言い、分かりやすく落ち込んだ。

 なんか面白いな、こいつ。

 俺が思わず笑ってしまうと、黒田は顔を上げて、恨めしそうに俺を睨んできた。


 それから、彼女は一つ咳ばらいをしてから口を開く。


「私が生徒会長になった暁には……恋愛を禁止します」


「清純派アイドルじゃあるまいし、無理だろ」


 俺が即座に突っ込むと、


「不純異性交遊の禁止の徹底ということです! そもそも、清純派アイドルが恋愛をしていないと考えるなんて、意外と初心なんですね、友木先輩は!」


 と、勝ち誇る黒田。

 言いたいことはわかるが、彼女がドヤ顔をするのは分からない。


 というか、不純異性交遊の禁止、なんて極端な公約を掲げれば、生徒たちはついてこれないだろうに……と俺が呆れていると、彼女は続けて言う。


「そもそも、現生徒会の人たちは、生徒のトップにふさわしくないです……!」


 固い声音で彼女は言う。

 それはつまり……池が生徒会長に相応しくないと言いたいのだろう。


「何が不満だって言うんだ?」


 俺は、自分で思っていたよりもずっと、固い声音でそう問いかけていた。

 彼女は、びくりと肩を震わせてから、俺をまっすぐに見据えて言う。



「現生徒会なんて……池会長と竜宮副会長の愛の巣みたいなものじゃないですかっ!」



 その言葉を聞いて、俺はもしや、と思う。

 こいつ、竜宮に洗脳か何かされているんじゃないだろうか? ……と。



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