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27、やっぱやめるのやめます

 翌日の放課後。


「立候補者が揃い、選管もこれから忙しくなります。が、残念ながら委員長は不在です。……なので、今日は俺が皆さんに指示を出します」


 俺は選挙管理委員のみんなの前で、緊張を隠し切れないままそう言葉にする。

 昨日、竹取先輩に頼まれたように、俺は選管のまとめ役を進めているところだ。

 しかし、俺が真面目に話しているのが不思議なのか、全員が驚愕を浮かべていた。


「選挙運動中の不正がないかの監視、選挙ポスターの作成補助・掲示、新聞部へ号外の発行依頼に原稿執筆業務、それとたすきやのぼりの作成補助、校内放送の段取り……等、いろいろありますけど。とりあえずは割り振りをしておきましょうか」


 苦笑を浮かべつつそう言うのは、俺の隣に立つ、書記の冬華だ。

 

「担当したい希望の業務がある人は、挙手をして教えてくれると助かりまーす」


 冬華の言葉に、


「俺、新聞の原稿担当して良い?」

「私は校内放送関係、良いですか?」


 などなど、口々に反応をしている。

 それらの意見をまとめて、適性や人員を割り振りしていく冬華を見ると、あれ、俺いらないんじゃないか……? と普通に思った。


「それじゃ、各々仕事をすすめていきましょー」


 話がまとまり、冬華が言うと、それぞれの役割に応じたグループに分かれた。


「それじゃ、私たちはどうしましょっか、先輩?」


 冬華が俺に向かって問いかける。


「それぞれのグループから上げられる書類等の確認と、タスク管理がメインの業務じゃないか?」


「それじゃ、まずはスケジュール表でも作っておきます?」


「そうだな」


 冬華とそう会話をしてから、PCを立ち上げる。

 表計算ソフトを起動させていると、パソコン室の扉が開かれた。

 竹取先輩が来たのかと思い、そちらへ視線を向けると……立候補者の一年男子だった。

 その男子はキョロキョロと室内を見た後、恐らく同じクラスと思われる選挙管理委員の男子に声をかけた。


 何か話をした後、選管男子が困惑の表情を浮かべてから、こちらに来た。


「あ、あの。ちょっと良いですか、友木先輩?」


 恐る恐るといった様子のその男子に、「ああ」と応えて、先を促す。


「え、と。立候補者の白井しらいが、話があるようで……」


 かなり言いづらそうにしている。

 どんな話なのだろうか?

 とりあえず、本人に聞くしかないか。


「それじゃあ、こっちで本人に話を聞かせてもらう。連れてきてもらって良いか?」


 俺の言葉に、「あ、はい」と応えてから、そそくさと扉で待つ白井ところに向かった。

 そしてすぐに、彼を連れてきた。


「とりあえず、座ってくれ」


 俺が白井に言うと、「う、うぃす」と俺と目を合わさないまま、彼は椅子に腰を下ろした。

 

「とりあえず自己紹介だが。俺は、選管副委員長の友木、こっちは書記の池冬華。選管に話があるらしいが、聞かせてもらえるか?」


 俺たちのことを知っているかもしれないが、とりあえずは自己紹介をしてから、話を促す。

 

「えー……、俺は1年A組の白井君人しらいきみとっす。話って言うのは。……立候補、取りやめにしたいんすけど」


 俺や冬華と視線を合わさないまま、前髪を弄りつつ言った白井。

 そう言った彼の、気まずそうな表情を見て、俺はなんとなく察したものの、まずは理由を聞くことにした。


「どうしてだ?」


 俺が責めていると思ったのか、びくりと肩を震わせてから、彼は訥々と語り始める。


「……そもそも、立候補じたい。その場のノリと勢いでやっただけなんで、俺。色々メンドクセーし。他の立候補者、池先輩と竜宮先輩だけじゃなく、黒田くろだもいれば、俺が当選できるなんて無理だし、つーか恥かくだけだし、ダサいし……だからっす」


 白井は、一度として俺や冬華と視線を合わせることなく、そう言った。

 ……言い方は悪いが、冬華から聞いた彼の評価と、今の話を聞くに。

 白井は、キョロ充という奴なのだろう。

 良し悪しはともかく、彼の言い分は分かった。


「てゆーかさ、白井君」


 俺が口を開く前に、冬華が白井に向かって言う。


「そんなん最初っから立候補しなければ良いじゃん、って私はちょっと思ったけど、それ以前に。ちゃんと、目を見て話そうよ」


 はっきりと、冬華はそう言った。

 その言葉自体は厳しいようだったが、声音自体はとても柔らかかった。

 

「先輩、めっちゃ顔怖いけど。別に怒ってるわけじゃないから。むしろ、機嫌良いまであるよ」


 と、冗談っぽく笑いながら、彼女は続けた。

 白井は、その言葉に、真偽を確かめる様に俺の表情を窺ってきた。

 冬華のフォローは、とてもありがたい。

 俺も、彼女を頼ってばかりはいられない。そう考えて、答える。


「お、おう。ご機嫌だ」


 俺の表情を見て、そして言葉を聞いた白井は口を引き攣らせた。

 冬華は無表情で俺を見た。

 俺は慣れないことをするべきではないと即座に反省した。


「……まぁ、立候補の辞退は、可能だ」


「それなら――」


「だけど、今やめたって恥ずかしいし、ダサいと思うけどな」


 俺の言葉に、白井は顔を赤くし、それから俯いた。

 

「そりゃ、分かってますけど。……でも、どっちにしろ恥かくなら、省エネで行きたいって話っすよ」


「違うだろ」


 俺は即座に断言すると、彼は顔を上げて、俺の顔をまじまじと見つめた。


「確かに、白井がどんだけ頑張ったとしても。池や竜宮……黒田は良く知らないが。そいつらに勝って当選するのは無理だと、俺も思う。だけどな」


 俺の言葉に、白目を剥く白井。

 ……心がぽっきり折れてそうな彼に、俺は続けて言う。 


「頑張ることは、恥ずかしいことでもダサいことでもない。……というのも、俺もノリと勢いで選管になったからだからな。そういう事にしていてくれ」


 俺の言葉を聞いた白井は、どこか悩んでいるようだった。

 

「……鬼っすわ、友木先輩」


 鼻頭を指先でこすりつつ、白井はそう言った。

 それから、「すんません、立候補の辞退は、なしでオナシャス」と言ってから立ち上がり。


「とりあえず……友木先輩と一緒に、俺も頑張ってみますわ」


 白井はそう言い残して、くるりと背を向け、それから出口に向かって歩き始めた。

 どうやら、頑張る気になったらしい。


「やりましたね、先輩」


「ああ。やる気になってくれたようで良かった」


 俺が言うと、冬華は満足そうに周囲を見た。

 俺もつられてみると、選管の視線がこちらに集中していた。


 多くの選管が、生暖かな視線をこちらに向けていて。

 ……俺は妙に気恥ずかしい気持ちになるのだった――。 

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