25、応援演説は誰?
そして翌朝。
「……というスケジュールだ。立候補者がいれば、俺に言ってくれ。候補者届を渡す。選挙管理委員からの報告は以上だ」
俺はクラスメイト達の視線を受ける中、昨日の初顔合わせでメモを取ったことを、HRで告知していた。
ほとんどの者が興味なさげに聞いていたが、HRが終わってすぐに、
「優児、候補者届をもらっても良いか?」
池からそう声をかけられた。
「ああ、もちろんだ」
俺は昨日手に入れていたばかりの候補者届を取り出し、池に手渡した。
前期生徒会長の池が立候補することは、すでに聞いていて知っていた。
ありがとう、と池は答えてから、
「まさか優児が選管になるとはな。優児の応援演説をしてみるのも良かったんだけどな」
「冗談きついな」
池の言葉に俺が即答すると、彼は苦笑を浮かべた。
俺は、ふと思ったことを問いかけた。
「池は、誰に応援演説を頼むつもりなんだ?」
順当に考えれば、副会長の竜宮に頼むところだろうが、彼女自身も立候補するのだからそれは出来ない。
「まだ、決めかねている」
池はそう応えた。
……そうは言うものの、人望があつく、慕う生徒も多いのだから、頼む相手には困らないだろう。
「あ、やっぱ春馬立候補するんだ」
そう言って、俺たちの会話に入って来るのは夏奈だった。
「夏奈も、立候補しとくか?」
立候補者届を見せてから言う。
「私は立候補しないよー」
笑いながら夏奈は言った。
冗談ではあったが、容姿端麗、天真爛漫な彼女は立候補すれば、意外と票を獲得できるのでは、と内心思う。
「……あ、夏奈に応援演説頼んだりはしないのか?」
俺は、池にそう言う。
いつも元気で明るい夏奈に応援演説をしてもらえたら、きっとウケが良いだろう。
俺の言葉に、夏奈はうーんと唸ってから、
「私としては、あんまり気が進まないなー。緊張しちゃいそう」
と苦笑しつつ言った。
「テニスの試合で緊張には慣れているだろう」
「それとこれは別だからね!」
俺の言葉に、夏奈は呆れたように言った。
それから夏奈はチラリと池を見た。
「大丈夫だ、夏奈。他の人を当たるから」
その視線を受けて、池は苦笑しつつ言った。
「応援演説はしないけど、応援はしてるから春馬頑張ってねー」
と言ってから、
「優児君も、選管頑張ってね! 聞いたんだけど、副委員長なんだよね、凄い!」
夏奈は俺に向かって笑顔を浮かべた。
「まだまだ他の連中に認められていないから、問題は多そうだけどな」
俺は普通に弱音を吐く。
冬華のフォローもあるだろうが、それでも選挙管理委員の奴らに受け入れられるのは、難しいのではないか……。
そして、選挙管理委員長もお察しの通りだから……。
「そんなに心配しなくても、大丈夫じゃないかな?」
「そうか?」
夏奈はあっけらかんとした様子で言う。
「ああ、優児なら大丈夫だ」
「ちゃんといつも通りでいれば、みんな優児君の良いところに気がつくよ」
夏奈の言葉に、池も頷いた。
「選管のお仕事は、あんまりお手伝いできなさそうだけど。何かあったら、いつでも言ってね! 頑張って力になるから!」
笑顔を浮かべ、夏奈がそう言った。
なんだか最近、色んな人に励まされてばかりで、照れくさいような気もするが。
期待に応えられるように、頑張ろう。
俺は、そう思いつつ、無言で頷いた。