23、友人キャラが副委員長
各クラスの選挙簡易が決定した放課後のこと。
選挙管理委員長である竹取先輩が招集を掛けたことにより、初の会議が行われることになった。
複数の書類の作成を行うことから、活動拠点となるのはパソコン室だった。
招集に応じた俺と冬華は、一緒にパソコン室へと入る。
気だるげな雰囲気のその室内にいたやつらの視線が、一斉に俺たちへと向けられた。
そして――、
「え?」
「友木じゃん」
「マジ? なんで?」
「おい、目合わせんな。殺されるぞ……」
と、急に緊張感に満ちる室内。
……やり辛い、俺がそう思っていると、
「あ、あそこ並んで座れますね!」
と、冬華が横並びで開いている席を指さし、明るい調子で言った。
俺は「そうだな」と応えつつ、冬華の、おそらくはあえてそうした明るさに、助けられた気持ちになる。
他の連中も、冬華に応答する俺の様子に、どこか緊張感をやわらげていた。
――とはいうものの。チラチラとこちらに注がれる視線に、やはり辟易していると、
「そんなに気にしなくても。先輩は、普段通りでいいんですから」
と、隣に座る冬華が優しい声音でそう言った。
……昨日から本当に機嫌が良いな、と思いつつ。
「ああ、ありがとう」
その気遣いが、素直に嬉しかった。
「どういたしまして」と冬華が何でもないように応えると、大きな音を立てて扉が開かれた。
見ると、竹取先輩が入室するところだった。
「おう、全員揃ってるみたいだな!」
自分から招集をかけたにもかかわらず、一番最後に到着したことを気にも留めない様子の竹取先輩は、威勢良く言った。
「今日は集まってくれてありがとう。知っているとは思うが、改めて。選挙管理委員長の竹取輝夜だ。そう長い期間ではないけど、これからよろしくな」
竹取先輩の言葉に、話を聞いていた連中が拍手を送る。
「それじゃ、今日はとりあえずおおまかな今後のスケジュールと連絡事項……を言う前に。まずは自己紹介だな。名前も知らないような奴と一緒に仕事なんかできないだろうしな」
竹取先輩は、そう言ってから、「大海ちゃんからな」と、窓際の席に座っていた三年の女子生徒に呼びかけた。
呼ばれた彼女は、「は、私から?」と戸惑っていたようだったが、それ以上の文句は言わずに、自己紹介を始めた。
「大海凪、3年F組。あー……好きな物とか、趣味でも言っとけばいいの?」
「言っとけ」
「うぃ。えー、好きな物はイケメンとお金。趣味はご縁があるように五円玉貯金。以上、よろしく」
ダウナー系っぽい雰囲気をひしひしと感じる大海先輩は、言い終えると着席した。
えらい反応に困る自己紹介だった。
「おう、それじゃ次、隣の奴な」
しかし、それを意にも介さない様子の竹取先輩が、次を促す。
それからしばらく、当たり障りないも面白味もない自己紹介が続き……。
「んじゃ、次友木な」
ラスト二人目、というところで俺の名が呼ばれた。
俺は応じて、立ち上がる。
すると、教室の連中が、怯えたように目を伏せる。
……すでに自分のクラスではこういった扱いをされていないが、慣れてはいる。
「2年A組、友木優児。よろしく」
俺は淡々と、当たり障りも面白味もない自己紹介をすませた。
さすがにぶっきらぼうすぎたか、表情を辛そうに歪める奴らが何人かいた。
何かフォローの言葉を言っておくべきか……と思うものの、何も思いつかずに困っていると、
「1年E組池冬華でーす! みんなで一緒に頑張りましょーね!」
隣の冬華が立ちあがり、明るい声音で言った。
その声と、華やかな容姿に、多くの連中が緊張を和らげた。
先ほど俺が作ってしまった妙な空気は、若干だがマシになった。
「はい、みんな自己紹介お疲れさん、今日からよろしくな。……そんで、これから副委員長と書記を決めたいんだんだが、立候補なければあたしの指名で決めても良いか?」
竹取先輩の言葉に、皆無言のままだが同意を示した。
「それじゃ、まずは書記は冬華な」
「えっ!? 私がですか?」
竹取先輩は軽い調子で冬華を指名した。
驚いた様子の冬華だったが、それは当人だけ。
周囲の人間は、みな納得している表情だった。
冬華が中心メンバーであれば、他の連中としては安心なのだろう。……俺の通訳としても、活躍するだろうしな。
「良いんじゃないか? 俺もできる限りサポートする」
困惑を浮かべていた冬華に向かって俺は言う。
すると彼女は、「先輩がそう言うなら……」と照れくさそうにはにかんだ。
冬華も、他の連中からの期待に感づいて、それが気恥ずかしかったのだろう。
「書記、やります」
冬華の言葉に、拍手が起こった。
その拍手がやんでから、竹取先輩は副委員長を指名した。
「それじゃ、副委員長は友木な」
「は、俺?」
あまりにもあっさりした指名。
俺じゃなくても聞き間違いだと思っちまうね。
そう考えつつ周囲を見ると、彼女の言葉に反応した様子の連中が一斉に俺を見た。
そして、俺はその視線に驚き、思わず怪訝そうな表情を浮かべる。
すると、俺の表情を見た連中が一斉に俺から目を逸らした。
……ここにきてまで天丼っ!
いつ!
お前らは!!
打ち合わせをしたんだぁっ!?!?
と、ガラにもなく内心でテンション高く突っ込む俺。
やはり、少なからず動揺しているのだろう……。
「返事はどうした、副委員長?」
にやけた面でそういうのは、何を隠そう竹取先輩だった。普通にイラっとした。
なんといって断ってやろうか、そう考えていると、冬華に制服の裾を引っ張られた。
それから、彼女は俺に耳打ちをしてきた。
「今はまだ、私以外の誰も、先輩のことをちゃんと見ていないですけど。生徒会選挙が終わったときに、みんなから認められるように……一緒に、頑張ってみませんか?」
彼女は言い終わると、真直ぐに俺を見つめ……そして、微笑んだ。
さっきまで、なんて情けないことを考えていたんだろうと、俺は自覚した
確かに、ここで副委員長としての存在感を発揮すれば、朝倉やクラスメイト達のように
俺のことを見直してくれる者もいるかもしれない。
なら、俺の答えは決まっている。
「ありがとな、冬華」
「どーいたしまして」
俺は冬華に一言礼を告げてから、竹取先輩に応える。
「副委員長、やります」
俺の言葉にどよめきが起こる中。
「おっしゃ。楽しくなりそうだな、選挙管理委員」
と、本当に楽しそうに、竹取先輩はそう言うのだった。