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16、主要キャラ?

 翌日の昼休み。


「優児せんぱーい、一緒にお昼食べましょー!」


 と言いながら教室の扉を開けたのは、冬華だ。

 いつも通りの様子で、昨日は別に怒ってはいなかったんだと思い、ホッとする俺。


 呼ばれた俺は立ち上がり、彼女の傍へと向かった。


「さぁ、いつもの場所に行きましょうかー!」


 と、笑顔で言う冬華。

 俺は首肯して、歩き始めようとして……。


「ちょっといいか?」


 背後から、声をかけられた。

 振り返ると、そこには池がいた。


 俺が返答をする前に、


「良くない。てか、学校でしゃべりかけるなって言ったし」


 と、冬華が迷惑そうな表情を浮かべつつ、言った。


 あからさまに困惑を浮かべる池に、俺は問いかけた。


「どうしたんだ?」


「俺たちも、昼飯一緒にしてもいいか? 少し、二人に話したいことがあるんだ」


 穏やかな声で池は言うものの、


「は? 意味わかんない。嫌、マジ無理だから」


 即答する冬華。

 ……これも『お兄ちゃんを嫉妬させるんだから作戦』の内だろうか。

 それにしてはあまりにも攻撃的ではないだろうか。


「ん? ……俺たち?」


 池の言葉に引っ掛かりを覚え、俺は問いかける。


「ああ」


 と頷いた池の背後から、一人の女子生徒が現れた。


「わ、私です!」


 栗色のショートカットをふわりと弾ませたのは、池の幼馴染である葉咲夏奈だった。


「……なんで葉咲先輩までくるんですか、超意味が分からないんですけど」


 不満を露わにする冬華に、葉咲は答える。


「ふ、二人がちゃんと健全なお付き合いをしているか……私が見極めさせてもらうからねっ!」


「はい? そんなの葉咲先輩には、関係ないことですよね? てか、なんで見極められないといけないんですか~?」


 冬華は、呆れたように肩を竦めて、バカにしたように言った。

 随分と温度差があるやりとりだった。


「か、関係あるよ! と、冬華ちゃんのこと、心配だし! そ、それに、と、とと、友木君のことも!」


 ちらり、と俺を伺う葉咲。

 目が合うと、慌てて逸らされてしまう。

 おそらく、俺が冬華に不埒な行いをしていないのか、気になるのだろう。

 冬華は葉咲の言葉に、少し苛立ったように言う。


「えー、葉咲先輩に心配される筋合いは、全くないと思うんですけど? てか、普通にうざいんですけど?」


 その言葉に、うう、と小さく呻いてから一歩後ずさる葉咲。

 池はどうしてか、葉咲をフォローする気はないらしく、無言で見守っているだけだ。


 そうなると、葉咲の味方が誰もいない。

 それは、なんだか気の毒だった。


「いいよ、俺は気にしない」


 俺は池と葉咲に向かって、そう言った。

 すると、意外そうな表情を浮かべた葉咲が呟く。


「え、良いの……かな?」


 その言葉に、俺は無言で頷いた。


 嬉しそうに、「やった!」と葉咲は呟く。


「助かる」


 池は、爽やかな笑顔を浮かべながらそう言った。


「ちょ、ちょっと先輩!? 勝手に決めないでくださいよっ!」


 不満そうな表情を全く隠そうともせずに、冬華は俺に抗議する。


「そんなに嫌がることはないだろ。それに、今葉咲に認めてもらった方が、後々面倒じゃないだろう」


 俺がそう言うと、なぜだか葉咲が衝撃を受けた表情を浮かべた。

 池は、呆れたように肩を竦めていた。


「……分かりました、先輩がそこまで言うなら。今日だけ、特別に」


「ありがとな、冬華」


 俺がお礼を言うと、ふん、とそっぽを向いた冬華。

 残念ながら、彼女の機嫌を少しばかり損ねてしまったようだ。


 


 そして、いつものように中庭に行くと、いつも以上に視線を感じることとなった。


 考えてみれば、当然のことか。


 誰もが憧れる主人公、池。

 その池の妹で、コミュ力抜群、容姿も華やかで人目をひく冬華。

 池の幼馴染にして、アイドル級のルックスを持つテニス少女、葉咲。


 そして、学園一の札付きの悪(と思われている)俺。


 ……俺の場違い感がすごかった。


「と、冬華ちゃんとご飯食べるのって、なんだか久しぶりだねー。小学生の時は、いつも一緒だったのにね!」


「……ていうか、話すこと自体久しぶりですよね」


「あ、あはは。そうだね。でも、冬華ちゃんのことは、結構見かけてたんだよ」


「見かけても声をかけることはしなかったんですねー」


「あははー……」


 どうやら、葉咲はかなり冬華に嫌われているらしい。

 池にちょっかいをかける、敵だとでも思っているのだろうか?


 弱ったように笑いを浮かべた後、無言が流れた。

 葉咲は悲しそうな表情を浮かべつつ、


「は、春馬―……」


 と、さっそく池に助けを求めた。

 はぁ、と池は溜め息を一つ吐いてから、


「夏奈は中学からテニスの実力が一気に伸びてから大会に出ずっぱりで、かなり忙しかったしな。それに、冬華が夏奈を避けていたから、あんまり話せなくなったんだろ?」


 と、冬華に諭すように言った。


「は? 別に避けてないし。自意識過剰すぎキモすぎ。……ていうか、学校では話しかけるなって言ってるじゃん」


 冬華は全力で池を拒絶する。

 池は一瞬悲しそうな表情を浮かべるものの、俺の視線に気づいてから、困ったように曖昧な笑いを浮かべた。


 その表情を見て、どうにか二人を仲直りさせてやりたいと思った。

 ……しかし、一体どうすれば良いものか。


 俺が無言で考え込んでいると、


「あ、あのさ! と、友木くん!」


 上ずった声で、葉咲が声をかけてきた。


「おう、どうした?」


 俺が葉咲を見ると、彼女は顔を真っ赤にしてから視線を逸らした。

 ……顔が怖くてごめんな、別に睨んでるわけじゃないから。と、心中で謝罪する。


「ふ、二人は、本当にお付き合いしているの!?」


 葉咲がそんな問いかけをしてきた。


 中々鋭い質問だ。

 別に、俺たちは恋人同士というわけではない。

 間近で接して、付き合っていないように見えたのかもしれない。


「ああ、付き合っているぞ」


「で、でも……全然そんな感じに見えないよ」


 俺の答えに、懐疑的な声を上げる葉咲。


「はぁ? 葉咲先輩のおめめは節穴なんですかぁ? 私と優児先輩は、超絶ラブラブバカップルなんですけどー? ねー、優児センパーイ♡?」


 全力で煽る冬華。

 表情が硬くなる葉咲。今のは流石にイラっとしたのだろう。

 ぶっちゃけ俺もイラっとする気持ちはわかる。


「そ、それなら! キ、キ、キ……キス! キス位なら、今この場でできるよね!?」


 売り言葉に買い言葉、ということだろうか?

 葉咲はムキになって、俺と冬華に向かってそんなバカげたことを言ってきた。


 本当に付き合っていても、できるわけないだろ。

 ここ学校だぞ……。


「はぁ? なんで今この場でそんなことしなくちゃいけないんですかー? わけわかんないんですけどー?」


「だ、だって! ラブラブカップルなんでしょ!? だったら人目を憚らずキス位できるでしょ!?」


「……本気ですかー? ここ学校なんですけどー?」


「本気だよ、私は! だから、二人の本気も見せてよ!」


「うげ……」


 葉咲の決死の形相に、冬華は引いていた。


「夏奈、少し落ち着け」


「春馬は口出ししないでよっ!」


 池の言葉は、ヒートアップした葉咲には届かないようだった。


 このまま俺と冬華がキスをするまで、葉咲は止まらないのでは、と。

 俺は普通に心配になった。

 しかし、別に俺たちは付き合っていないのだ、キスをするわけにはいかない。


 なら、どうしようか……と考えた時。

 俺にしては最高に冴えた言い訳を思いついた。


「葉咲、悪いが俺は冬華とキスできない」


 俺の言葉に、まず冬華が怒ったように「はぁ?」と呟いた。

 そして、池が怪訝な表情をして、最後に葉咲が嬉しそうに表情を明るくさせた。


「やっぱり! ……って、あれ? それってどういうこと?」


 しかし、喜んだのも束の間。

 不思議そうに首をひねった葉咲。

 

「どういうことも何も、俺は軽い気持ちで冬華と付き合っているわけじゃないんだよ」


 俺が答えると、


「え?」

「はい?」


 と、葉咲と冬華が同時に呟いた。


「だから、俺は冬華と本気で付き合っているんだ。手くらいは繋いだことあるけど、キスなんてしたことがない。……冬華のこと、大切にしたいからな」


 その言葉に、葉咲はポカンと口を開いている。

 俺の考え得る中で、最も誠実な答えだ。

 問題なのは、これが嘘であり、全く誠実でないこと。そのくらいだ。


 俺の言葉を脳内で反芻しているのか、疑問符が浮かんでいた葉咲の表情は面白いように変わっていき。


 ……なぜか、最終的に青ざめた。


 俺が真剣に冬華を好きなのが、嫌なのだろうか?

 そんなことに思い至り、俺は軽く傷ついてしまった。


 一方、葉咲はというと。

 青ざめた顔で、今にも涙を流してしまいそうなほど取り乱した様子だ。


「そ、そんなのって……。う、うぅぅ。は、春馬のバカー!!!」


 そして、大声を上げながら、彼女は駆け出し、中庭からあっという間にいなくなった。


「ええ、俺かよ……」


 葉咲の背中を見送ってから、納得のいかない表情で呟いた池の言葉が、俺の耳に届いた。


「あ、あの。自分で言ってて恥ずかしくないんですか、先輩は?」


 と、俺の隣にいる冬華が、上目遣いにそんなことを問いかけてくる。

 俺は自分の発言をよくよく思い出す……。


「うわ、めっちゃ恥ず……」


 何言ってんの俺、バカなんじゃないの?

 あまりの恥ずかしさに、今晩は夜寝る前に思い出してもだえ苦しむことが確定した。


 そんな俺の答えに、冬華は呆れたような表情を浮かべてから、言った。


「……はぁ。バカですよね、先輩って。めちゃくちゃ、顔赤いですよ?」


「うっせーよ」


 溜め息を一つ吐いてからそう呟いた冬華の頬は。


 照れ隠しを言うのがやっとな俺と同じように、朱色に染まっていた。



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