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恋愛心理戦

 これは、友木優児が選管になった翌日の、とある一年生の教室での出来事。


「それじゃあ、一応確認なんだけど。選管に立候補したいって人いる? このままじゃ、明日くじ引きで決定になるけど?」


 クラス委員長である甲斐烈火が、どこかうんざりした様子でそう告げた。

 その言葉に、クラスメイトは無言で応じる。

 誰も彼もが、この面倒な役回りを押し付けられたくない、早く帰りたい、誰でも良いから頼むよ……、と。

 そう思っているのだろう。

 

 しかし、このネガティブな思考が渦巻く中、たった一人の少女は……、


(やった、誰も立候補しないし、先輩と一緒の選管確定じゃん!)


 内心はしゃいでいた。

 その少女は、池冬華。成績優秀、容姿端麗。

 学内でもカースト最上位に位置するパリピで陽キャでウェイ系なくせに好きな人の前では急に乙女になってしまうことがある、めんどくさい美少女だ。


 彼女は内心の喜びを表情に出さぬように、わざとらしく渋面を作ってから、挙手をする。

 誰もが、彼女を見た。

 その視線を受けてから、冬華はゆっくりと口を開く。


「このままじゃ、くじ引き確定だし。部活動やってる子がなっちゃったら可哀そうだから、私がしても良いよ?」


『私のカレピが選管だからー。私が立候補しまーす』みたいな、猛烈カレピアピールバージョンも考えていたが、流石にそれははたから見て『痛い』のではないかと思った冬華は、そう言った。


 彼女の言葉を聞いて、クラスメイト達の間に弛緩した空気が流れる。


「冬華なら任せても安心だねー」

「そういえば池は、生徒会の手伝いとかもしてたし、勝手も分かってそうだな」

「ていうか、冬華ちゃんは生徒会選挙に立候補しなくていいのー?」


「つか、生徒会で候補者になれって祭り上げられるよりはマシかなー、っていう打算込みだから、これ」


 クラスメイト達の言葉に、冬華は調子よく、冗談っぽく返す。

 その言葉を聞いて、「なんだよそれー」「うわ、なんかズルくね、それ!?」等々、教室のあちこちから明るい声が上がる。

 それを見て、大勢は決したと確信する冬華。


(選挙管理委員として一緒に仕事すれば、葉咲先輩に邪魔されずいちゃつけるだろうし、周囲にも先輩自身にもアピールできるチャンスは増えるし……最&高じゃない!?)


 と、優児との選挙管理委員ライフを存分に妄想する恋する乙女の思考を中断したのは、


「いや、そういうことなら、クラス委員として、俺がこの仕事を引き受ける。……くじ引きになるようだったら、元から言うつもりだったんだけどな」


 クラス委員である、甲斐烈火の言葉だった。

 綺麗な顔に微笑みを浮かべつつ、烈火はクラスメイトを見る。


「いや、烈火くん部活あるでしょ?」


「放課後全ての時間を取られるわけじゃないだろうし、そんなに気を使わなくっても大丈夫だ。むしろ、自分のスキルアップに生かせるだろうしな」


 その言葉に、クラスメイト達は「流石は甲斐だな」「かっこいい……」と口々に言う。

 クラスメイトを気遣うその自己犠牲の精神に、誰も彼もが彼を称賛する。


 しかし、冬華は気づいた。

 その爽やかな笑みの裏にある、どす黒い思惑を……! 


(このヤンホ〇坊主、私が手を挙げたことで、先輩がすで選管に所属していると感づいた……っ)


 冬華はヤン〇モ坊主を見る。

 その視線に気づいた彼は……、口端を釣り上げて、愉快そうに嗤う。


(冬華、友木先輩ファーストである君がここで手を挙げるということは、選管に先輩が所属していることは間違いないだろう。……初手を誤ったな、誰にも気づかれないように、担任に直接話を持ち掛けるべきだった……)


 立候補者が二名。

 しかし、冬華は冗談ぽく言ったこともあり、心象的にはそうでもないが、消極的な理由での立候補。

 反対に甲斐は自ら積極的に参加する理由を明示している。


 クラスメイト達の心は、今やすっかり『甲斐に選管を任せよう』となっていた。


(ここからの逆転は……、普通に『実はカレピが選管で~』と言えば可能だけど……。それは、『痛い』!)


 ぐ、と唇を噛みしめる冬華。

 その事実を、烈火も勿論承知している。


 これは、彼にとって負けても失うもののない賭けだった。

 冬華がその恥ずかしさを恐れて何も言わなければ、友木先輩との仲をより深めることが出来る。

 冬華が恥ずかしさを許容すれば、友木先輩とのイチャイチャ選管ライフは過ごせないが……元々、そういった予定はなかったため、損はしない。むしろ、クラスメイト達からの好感度が上がったため、得ですらあった。


 冬華が優児のことを話すか、しばし甲斐は彼女を見る。

 そして、覚悟を決めた表情を浮かべた冬華が口を開こうとして……。


「てか、冬華さー。ぶっちゃけ友木先輩が選管にいるから立候補したんでしょ?」


 クラスメイトの女子が、おもむろにそう言った。

 その女子はかつて、優児に隣に立たれたら怖すぎて漏らすと言っていた、冬華にとってはそこまで仲が良いと言えない少女だった。


「「へ!?」」


 その言葉に、冬華と烈火はほとんど同時に、呆けた声を漏らした。


「ナカムーの言うとおりでしょ。冬華ちゃんはそれっぽい言い訳考えてたみたいだけど?」


 と、ナカム―と仲の良い少女、村中が言う。

 その言葉に、クラスメイト達が「なるほど」「そういうことなら冬華ちゃんがやれば良いよね」「烈火は譲ってやれよ」と、口々に言う。

 烈火はこの時点で、自分が選管になるのは無理だと判断し、潔く諦めた。


 そして、自分の考えを見透かされた冬華はというと……。


「いやいや、さっき私が言ったことも、嘘じゃないからね!? 割合的には、2パーセントくらい占めてたから、勘違いしないでよねっ!」


 と、顔を真っ赤にしながらツンデレっぽいセリフを口にしていた。


「2パーって、少なくない!?」「でも、正直に言ったから良いじゃん」という反応があったが、2%どころか真っ赤な嘘であることに気づいている者は烈火以外にはいなかった。


「ていうか、友木先輩って、ヤンキーって言われてる割には、こういう行事に熱心に参加してるよな」


 誰かが、ふとそう言った。

 

「確かに」

「ていうか、そもそもヤンキーなの?」

「いや、去年は事件起こして謹慎食らったのはホントだってさ」

「でも、今年入ってからそんな話聞かなくない?」

「やっぱ生徒会長が更生させた?」

「それはありえる」


 冬華のことはお構いなしに、クラスメイト達が口々に噂し合う。

 しかしその内容は……彼を恐れているようなものではなかった。

 どちらかというと――。


「体育祭も、友木先輩のクラスは楽しそうだったよな」

「部活の先輩は、優しい奴って言ってて、その時は信じなかったけど。案外本当なのかもな」


 友木優児を受け入れるような、そんな話になっていた。


 自然と、冬華の表情が綻ぶ。


 それを見た烈火は、クラスメイト達に向かって言う。


「それじゃ、このクラスの選挙管理委員は、冬華に決定、ということで」





「無事、選管になれました!」


 俺が選管になって翌日の放課後。

 冬華のHRが終わるまで教室で待っていたのだが、普段より十数分ほど合流が遅れていた。


「割と遅かったみたいだが、結構話が長引いたのか?」


 俺が聞くと、「とある男の妨害によって、面倒なことになりそうでしたよ……」と、忌々しそうに呟いた。

 それから、「ま、別にそれはどーでもいいんですけどね!」と、明るい様子で言った。


 ……さっきから思っていたのだが、なんだか今日は冬華の機嫌がすこぶる良い。


「何かいいことでもあったのか?」


 なんだか気になった俺は、直接そう問いかけた。

 しかし彼女はもったいぶった様子をみせてから、


「私からは言いませんが。多分、すぐに実感することになるんじゃないですかぁ?」


 ……良く分からないが、冬華が話そうと思わないのなら、無理に聞くほどでもないか。

 なんだかとても幸せそうな冬華の横顔を見つつ、俺はそう思うのだった。


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