表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/221

15、見ざる聞かざる

 紅葉ちゃんから相談事を受けた日の夜。

 俺は自室で某バレー漫画を読みながら、


「大王さまカッコいいな……」


 と呟いていると、スマホが震えた。

 見ると、朝倉からの着信だった。

 何かあったのだろうか、そう思って電話に出る。


「もしもし、朝倉か?」


 俺はそういうのだが、電話口から回答はない。

 奇妙な間があったので、もう一度俺は「朝倉?」と、呼びかける。

 すると、息をのむ音が耳に届いてから、 


「……助けてくれ、友木」


 と、唐突に、深刻な声音で朝倉が言った。

 一体、どうしたのだろうか。

 朝倉の身に何かが起こったのか。


「助けてくれって、どういうことだ? 大丈夫か、朝倉!?」


 俺は慌てて事情を問いかける。

 すると。


「全然、テスト勉強してないんだっ! このままじゃマジで赤点とるかもしれない、助けてくれ、友木!!」


 勢いよく朝倉がそう言った。


「……切って良いか?」


 心配して損をした。

 俺はそう思い、朝倉に向かってそう言った。


「ちょっと、待ってくれ友木! 思っているほど深刻なんだよ、これが!」


「……どう深刻だって言うんだ?」


 俺が問いかけると、朝倉は静かなトーンで話し始めた。


「最近、小学生に対するコーチと、部活のことばっかりで、全く勉強をしていなかったんだ。それを親に気づかれてな。……成績が落ちて赤点をとるようなら、小学生のコーチをするのをやめさせる、って言われてな」


「あー……そういうことか」


「ああ。以前学年5位とかいう成績を取ってしまったせいで、変に期待されているところもあるんだが……それ以上に、勉強がおろそかになっていて。やべえよ、今回マジで自信ないんだよ」


 朝倉はやれば異常な程できるやつだから、親としては勉強も頑張ってもらいたいと思っているんだろう。

 朝倉の自業自得な面もあるようだが、それでもこのまま見捨てるわけにはいかないだろう。


「朝倉が部活と小学生のコーチを頑張って大変なのは分かっているからな。一緒に勉強しよう。……ただ、これからは勉強を習慣付ける様に気を付けとけよ」


「おお、助かる、友木!」


「ちょうど、明日は池や夏奈、冬華と一緒に勉強をしようって話をしていたんだ。池もいれば百人力だろ?」


「マジか! それじゃ、学年一位と二位から勉強を教えてもらえるわけだから、絶対結果を出してやる。……ただし、ラブコメは禁止な」


 固い声音で言う朝倉に、「お、おう」と一言応じてから、明日の待ち合わせ時間と場所を伝えて、俺は電話を切った。



 勉強をする場所は、学校近くのファミレスだった。

 待ち合わせは現地集合で、俺は予定時間よりも少し早めに到着をしていた。


 しかし、店内を見ると、既に全員が集合をしているようだった。

 俺の強面にビビる店員が声をかけるのを躊躇っていたので、俺はそのまま池たちと合流する。


「早いな」


 6人掛けのテーブル席。

 そこには、池と夏奈と冬華と朝倉がいる。


 ちなみに、竜宮のことも誘ったが、あいつは今回一人で勉強を頑張るつもりらしい。


「よう」

「急に悪かったな」


 池が気軽に応え、朝倉が申し訳なさそうに言った。


「こんにちわ、優児君」

「どもでーす、先輩。とりあえずドリンクバーは頼んでるので、飲み物はもう取ってて大丈夫ですよ」


 夏奈と冬華も、俺に向かってそう言った。

 俺はみんなに無言で応じてから、荷物だけ置いて、飲み物を取り、席に戻った。


 全員、勉強道具を机の上に広げている。

 俺も筆記具とノートを取り出す。

 正面に座る夏奈が、早速ノートを俺に見せながら、問いかけてきた。


「優児君、私ここ分からないから教えて」


「えー、葉咲先輩私のカレピに色目使うのやめてくれます? ググればいーじゃん」


「良くないよっ!」


 夏奈と冬華が、いつものように言い合いを始めた。

 朝倉をあまり刺激してはいけない。

 そう思い、俺は二人に声をかける。


「おい、二人とも……」


 しかし、俺が言い終える前に、朝倉が動いた。

 何やらカバンの中を物色している。

 どうしたのだろうかと思っていると、


「……大丈夫だ、友木。実は、こんなこともあろうかと用意しておいたんだ。目の前でラブコメが始められたら、こうして……」


 そう言って、カバンから耳栓を取り出して、耳に着けた。


「それから、こうして……」


 今度は、アイマスクを取り出して、目元を隠した。

 その後に、「こうだ!」と弾んだ声で言った。




「これで、お前らのイチャラブを見聞きしなくてすむから、勉強にも集中ができる!」




……。

…………。





「「「「……え!?」」」」




 

 何かオチがあるかと思って、俺たちは1分程無反応のままだったのだが、残念なことに、朝倉は冗談を言っているわけではないようだった。


 この場にいた四人は、深刻な表情を浮かべつつ、驚きの声を上げていた。

 

「朝倉、ごめんな」


 俺は朝倉の耳栓を取り外しつつ、彼の耳元で囁いた。


「良いんだ、朝倉。大丈夫だ、今日は、みんなお前の味方だ」


 池が朝倉のアイマスクを外し、優しい声音で囁いた。


 冬華と夏奈に視線を向けると、彼女らはコクコクと無言のまま頷いた。

 流石の彼女らも、今の朝倉の様子を見た後で諍いを起こせはしないようだ。


「……みんな、すまない。俺、頑張るから!」


 感激に震える朝倉。

 それから俺たちは、これまでの勉強会で最も真剣に、テスト勉強に取り組んだのだった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作投稿中!
タイムリープをした俺、両想いだと思っていた幼馴染に告白した結果、普通にお断りをされたので学校一の美少女と心中する約束をしてみた
ぜひ読んでください(*'ω'*)



4コマKINGSぱれっとコミックスさんより7月20日発売!
コミカライズ版「友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?」
タイトルクリックで公式サイトへ!書店での目印は、とってもかわいい冬華ちゃんです!

12dliqz126i5koh37ao9dsvfg0uv_mvi_jg_rs_ddji.jpg

オーバーラップ文庫7月25日刊!
友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?
タイトルクリックで公式サイトへ!書店での目印は、冬服姿の冬華ちゃん&優児くん!今回はコミカライズ1巻もほぼ同時発売です\(^_^)/!ぜひチェックをしてくださいね(*'ω'*)

12dliqz126i5koh37ao9dsvfg0uv_mvi_jg_rs_ddji.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ