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14、俺は友達が少ない。

 紅葉ちゃんから相談を聞いてほしいと言われた俺は、彼女に連れられて近くの公園に来ていた。

 周囲には、誰も来ていない。

 みんな、俺に任せてくれたようだった。


 紅葉ちゃんはブランコへ座る。

 俺もその隣に座った。小学生の隣でブランコに座るこの図は、冬華が見たら爆笑するかもしれない。


 ゆっくりとブランコをこぐ紅葉ちゃんは、口を開く。


「相談、と改めて言っても、大したことじゃないんです。結局、私はどうしたらみんなと仲良くなれるか……それが、知りたいんです」


 ……。



 俺が知りたいんだが?



 と、思わず言ってしまいそうになったものの、寸前で思いとどまる。

 こういった人間関係の相談は、本当に申し訳ないが俺に解決できる領分ではなさそうだ。

 ……が、流石にそんな風に突き放すことは出来ない。

 俺なりに、彼女の悩みを解決できないか、考えていこう。


「みんなって言うのは。つまり、茜ちゃんたちのことだよな?」


「うん、そうです。桜みたいに、私もみんなと仲良くしたい。……けど、私はどうしてもバレーのことになるとムキになって、言い方も乱暴になるから。器用に気を遣うことが出来なくって、結局何も話せないまま、なんですけど」


 皮肉に口元を釣り上げてから、紅葉ちゃんは言う。 

 彼女の言っていることに、とても共感してしまう。


「桜ちゃんとは、仲が良いのか?」


 俺の問いかけに、「うん」と頷いてから、


「桜は、いつも私を助けてくれる。明るくて、誰とでも仲良くできる、凄い子」


「桜ちゃんみたいになりたいのか?」


 俺の問いかけに、首を横に振ってから、


「桜みたいになりたいわけじゃない。すごいとは思うけど、なれるわけないし。……ただ、今は。せめて自分に好意的に接してくれている人たちとは、仲良くなりたい、って。それだけですけど」


「みんな、優しいよな」


「うん。喧嘩とか、怒られたりとか一度も……あ、ももちゃんのことをぴーちちゃんって呼んだら、怒られたんだった」


「あのあだ名、本当に嫌なんだな」


「ううん、ぴーちが本名で、ももは自称。お姫様みたいだって、クラスの男子に揶揄われてから、そう呼ばれたくないみたい。……でも、最近。善人くんにだけは、言われても怒らないんですけどね」


 ぴーちというのが本名だったという驚きよりも、着実に朝倉が女子小学生相手にフラグを立てている事実に、俺は驚愕を隠せなかった。

 

ももちゃんも、やっぱり普段は優しいから。結局、優しくなれないのは、私だけ」


 一人驚いている俺をよそに、紅葉は浮かない様子だった。

 何か相談に応えられないかと思い、


「一つ、良いか?」


 と、俺は言う。

 彼女は期待したようにこちらを見た。


「実は結構前から気づいてはいたんだが……。俺は友達が少ないから、人間関係についてアドバイスができることは少ない」


「何となく雰囲気でわかります」


 真顔で答える紅葉ちゃん。

 俺はメンタルに少々ダメージを食らいつつも、続けて言う。


「だから、紅葉ちゃんの悩みを途端に解決できるアドバイスはできない。……何だったら、俺も絶賛同じように悩んでいるところだ」


 俺の言葉に、紅葉ちゃんは返答する。


「優児さんみたいなコミュ障でも友達が出来ているので、その方法を教えてもらえると、凄く嬉しいです」


「紅葉ちゃん全然オブラートに包まず言うな……」


「私よりも口下手そうな優児さんに善人くんをはじめとしたお友達を作れたその裏技は、どこで仕入れたんですか? ワザップとか?」


「失言を畳みかけてくるな、この子……」


 俺は思わず呟いた。

 ここまでくると、この度胸は逆に凄いと思う……と、いうか。


「ああ、紅葉ちゃんはこんな感じで、誰に対しても遠慮せず言っちゃうから。だから、けっこう敵を作ったことがあるってことだな」


 俺が問いかけると、彼女は恥ずかしそうに俯き、それから無言のまま頷いた。

 俺は、微笑ましくなって、頷いた。


「裏技なんてないさ。ただ俺は、運が良かっただけだ」


「運?」

 

「ああ。皆いい奴なんだ。俺はあいつらの好意に甘えて、ようやく友達と呼べる関係になった。……こういう言い方は、かなり他人まかせで申し訳ないが、紅葉ちゃんの周りにいる子たちも良い子たちばかりだから、みんなを信じてぶつかってみても良いんじゃないか?」


 俺の言葉を聞き終えた紅葉ちゃんは、「それは、どうなんだろう……」と、どこか釈然としない様子で呟く。


「……高校生に、イケメンの短髪の甲斐ってやつ奴がいたんだが、分かるか?」


 無言で頷いた紅葉ちゃんに、


「あいつは、最初は俺のことをめちゃくちゃ嫌っていたんだ。でも、大げんかをしてお互いに認め合った今では、お互いにとって良い先輩後輩関係を築けている」


 かつての甲斐との関係を話した。


「そうだったんだ……。喧嘩したのに仲良くなるなんて。漫画みたい」


 半信半疑なのか、彼女はそう言った。

 確かに、あまり参考になるアドバイスではなかったかもしれない。

 俺と甲斐の関係は、割と特殊だろうしな。


 しかし、そうなると。

 俺から彼女にできるアドバイスは――と考え、思い至った。


「俺も、人と話すのは苦手だし、自分の気持ちを伝えるなんて上手くできたためしはない。だから、ためになるアドバイスが出来なくて申し訳ない。ただ……」


「ただ?」


「紅葉ちゃんの行動を見てくれる人はちゃんといる。……この言葉は受け売りなんだが、間違いないから」


 かつて、俺が真桐先生に言われた言葉だ。

 俺自身の言葉ではない。

 だけど、俺がこれからも大切にしていきたい言葉を、同じように悩む彼女にも、知ってもらいたかった。


「だから、胸を張れるような行動を意識してみたら、きっと周りからも認められるはずだ」


 俺の言葉を聞いて、紅葉ちゃんは考え込む様子を見せる。

 それから、「信じてぶつかる。……行動を見てくれる人はちゃんといる、かぁ」と、呟いた。

 自分の中でかみ砕いて解釈をしようとしているのだろう。


 それから、彼女は俺を見る。

 そして互いに目が合うと、プイとそっぽを向いた。


 どこか意地っ張りな表情を浮かべてから、


「みんなと仲良くなれるかは分からないけど。……優児さんとは仲良くなれそうって、思ったんですけど」


 そう言ってから、俺を恐る恐る、上目遣いに窺う。

 

「そうだな。……人間関係については、ろくなアドバイスはできないと思うけどそれでも良いならよろしくな」


 俺が答えると、彼女はホッとしたように一息ついてから、これまで見たこともないような柔らかな表情を浮かべて、言った。


「ううん、アドバイスはすごく良いなって思いました。これからよろしく、優児さん」


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