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13、契約

 疑惑の視線を向ける冬華と夏奈。

 苦笑を浮かべる池に、そして、穏やかに笑いかける竜宮。

 ……なんか竜宮だけイラっとしてしまった。


 俺は練習の邪魔にならないように体育館の隅にみんなと共に移動し、それから朝倉から紅葉ちゃんの相談に乗って欲しいと言われたことを説明する。

 

「なーんだ、そういうことだったんですね!」


「冬華ちゃんはどうか分からないけど、私は優児くんのこと信じてたからね!」


「はぁ? そうやって自分だけ良い子アピールとか、ちょー性格悪くないですかぁ?」


「えー、そんなことないよね、優児君?」


 冬華と夏奈は納得をしてくれたようだ。

 夏奈の言葉をスルーすると、二人がまた何かしら騒いでいたが、俺は気にしないことにした。


「優児くんは冬華さんのような素敵な恋人がいるのだから、紅葉さんに変な感情を抱いていないのは分かっていました」


 私分かってましたけど? みたいなドヤ顔を浮かべてる竜宮。

 それでさっき俺に笑いかけてきたのか。イラっとしてごめん。

 俺は心中で謝罪した。


「そういうことなら、俺も何か手伝いをしようか?」


 池が気をつかうように、そう言った。

 

「ありがとう。だけど、まだ大丈夫だ。もう少し、俺に任せてみてくれ」


 俺の言葉に、みんなが微笑んでくれた。


「ダメそうだったら、すぐに助けをお願いするけどな」


 そんな情けない言葉にも、


「もちろん、いつでも頼ってくださいね!」


「任せて、全力でサポートするから!」


 と、心強い言葉を口にしてくれた。


「それじゃあ、練習の手伝いに戻るか」


 池がそう爽やかに笑いながら言い、俺たちは全員頷いた。





 そして、練習が終わった。

 体育館の清掃をしてから、全員が着替えるために、男女別れて更衣室へ。


 制汗シートを使って汗を拭って、運動着から着替えると、


「それにしても友木、早速上手くやってくれたな」


 と、こちらも既に着替えが終わっている朝倉に、嬉しそうに声をかけられた。


「なんのことだ?」


「紅葉のことだ。楽しそうに話していたからな」


「……さっきのを聞いて上手くやっていると思えるのは、逆に尊敬する」


 ひたすら挙動不審だった俺が、女子小学生にダメ出しをされるの図の、どこに上手くいった要素があるというのだろうか?


「紅葉は、桜以外とはほとんど話をしてくれないからな。あんだけ会話をするのは、素直にすごいと思う」


「ひたすらなじられただけだと思うんだが……」


「紅葉は結構、楽しそうに見えたけどな」


 本当にそうなのだろうか……、と俺が思案していると、


『きゃっ!? ちょ、ちょっとみんな、あんまり変なところを触らないで!?』


 という、夏奈の焦った声が聞こえてきた。


『夏奈ちゃんさん、何を食べたらこんなになるんですか!?』

『凄い……! いつか私もこんな風に……!』

『桜には無理だよ。ここまでなれる可能性があるのはきっと、私たちの中で一番ナイスバディな桃(ぴ-ち)だけだよ』

『はぁっ、流石にここまでは……ていうか、ぴーちって呼ぶなって!』


 ワイワイと騒ぐガールズトークに、


「……」


 朝倉は無言で聞き耳を立てていた。

 それから、俺と池は顔を合わせて、気まずさに苦笑をした。


 そして、驚いたことに、



「あ、友木先輩の制汗シート、俺のと一緒ですね。これ、匂いきつくなくって良いですよね」


 と、何食わぬ顔で俺に向かってそう言った。

 池ですら気まずさを隠せないこの状況で、平然とできるのは、凄いな……。


 俺は勝手に、甲斐に対して尊敬の眼差しを送ったのだった。



 それから、更衣室を出て、女子陣と合流をした。

 その時、夏奈は顔を真っ赤にしていた。俺はなんだか照れくさくなり、彼女を直視できなかった。

 

 ついでに、竜宮がどこか不機嫌そうだった。

 恐らくは、夏奈とは逆の理由で、胸の発育の関係を弄られたか……スルーされたのだろう。

 

 ……関わらないでおこう。


 それから、女子小学生を含めて帰り道を歩く。

 

「あ、ちょっと良いか?」


 朝倉が途中、そう言ってコンビニに入った。

 どうしたのだろうか、と思っていると、すぐにレジ袋を下げた朝倉が出てきた。


「今日、初めての試合を頑張ったご褒美と、手伝ってもらったお礼だ。……金はないから、安いものだけど、これで許してくれよ」


 そう言って、レジ袋を広げる。

 中には、人数分の棒アイスが入っていた。


「わー、やった!」

「ありがと、善人くん!」


 女子小学生はそう言いつつ、袋の中からアイスを抜き取った。


「ありがたくもらいまーす!」

「どうもです」


 俺たち高校生組も、遠慮なく朝倉からアイスをもらった。

 すぐに袋を開けて、そのかき氷風棒アイスにかぶりつく。

 練習で熱くなった身体に、冷たいアイスが染みる。


「……あれ、まだ一本残ってるな」


 朝倉が呟いた。


「本数間違えた?」


 夏奈が問いかけると、「そんなことないと思うが……」と朝倉は呟く。


「あ、まだ紅葉ちゃんアイス貰ってないじゃん! ごめんね、好きな味残っていないかな?」


 それから、冬華が申し訳なさそうにそう言った。

 見ると、確かに紅葉ちゃんだけアイスを口にしていなかった。

 ……ちょっと悪いことしたな、と高校生組の面々が思っていると、


「私は、頑張っていないから受け取れないです」


 と、小さく彼女は呟いた。

 それを聞いて、一瞬緊張が走った。


 小学生たちは、自分よりも上手な紅葉ちゃんがアイスを受け取らないことによって、嫌味を言われているんじゃないか、とか練習で手を抜いているんじゃないだろうか、とか、そう言ったマイナスの想像をしてしまっただろう。


 事実、彼女らの表情はこわばっていた。


 しかし、それ以上に。

 紅葉ちゃんの表情の方が硬く、緊張をしているように見えた。


 おそらく、彼女は


『練習で全力を尽くせていない』

『だから、気持ちは嬉しいけど受け取れない』


 そう言いたかったのだろう。

 自分を過小評価した紅葉ちゃんは、その発言が周りにとってどう受け取られるかまで、想像できなかったのかもしれない。

 俺に比肩しうるコミュ障っぷりだ。

 もしや朝倉は、こういうところを、俺と彼女が似ていると言ったのかもしれない。


 俺は苦笑を浮かべる。

 それから、嫌な空気が流れる中、朝倉の持つ袋から、アイスを一本取り出す。


 全員が俺の行動に注視していた。

 俺はそのアイスの包装を解き、


「いらないんなら、俺が食べる」


 そう言ってから、半分くらい一気に齧りついた。

 咀嚼し、飲み込むと……キーンと頭が痛くなった。


「わ、紅葉ちゃんのアイス!」

「顔が怖いだけかと思ったら、やっぱり不良だ!」

「ていうか、私ももう一本食べたかった!」


 と、女子小学生たちからは非難の声が挙げられた。


「今度の試合で頑張ったと思えたら。その時に今回の分も含めて、俺からご馳走してやるよ」


 俺が紅葉ちゃんに向かってそう言うと、初めは驚いていたようだが、どこか恥ずかしがるような表情になっていた。

 高校生組は、みんな優しい微笑みを向けてくれいる。


 そして小学生はというと、


「紅葉ちゃんにアイスを返さないといけないからね、絶対約束だよ!」

「約束って言うよりも、契約です!」

「え、契約って何?」

「私知ってる! 約束よりも上なの、女の子とするときは、愛人契約って言うんだよ!」

「それじゃ、愛人契約だ!」


 興奮した様子でそう言った。

 ……最近耳にした言葉なのだろうが、とんでもないことを言ってくれる小学生たちだった。


「友木、お前……小学生と愛人契約はないだろう」


「……勘弁してくれ」


 朝倉がドン引きした様子でそう言った。

 今の流れを見ていたから誤解はないだろうが、それでも高校生組は生暖かい目で俺を見るのだった。


 そうした犠牲を払ったおかげで、先ほどまでの嫌な雰囲気は、今はあまり感じられなかった。

 だから、良かったな……と思っていると、不意に服の裾を引っ張られた。

 振り向くと、そこには俯きがちな紅葉ちゃんがいた。

 他の皆に見られていないか気にする素振りを見せてから、彼女はぽつりと言う。


「……ありがとうございました」


「こちらこそ、アイス二本食べられて、ラッキーだった」


 俺が言うと、紅葉ちゃんはほんのり笑う。

 それから、今度は真直ぐに俺の方を見てから、ゆっくりと口を開いてから、言う。



「――私の相談に、乗ってもらえますか?」


 不安気な表情の彼女に、


「ああ、もちろんだ」


 力強く頷き、ただ一言俺は答えるのだった。



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