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10、朝倉の笛

「今日はよろしくお願いしますっ!」


 小学校の体育館に到着をすると、小学生の子たちが出迎えをしてくれた。

 その中で一番背の低い、確か茜ちゃんが代表して言ってきた。


 冬華は「こちらこそよろしくね〜」と朗らかに笑いながら言い、俺も「朝倉の頼みだからな」と答えた。


「それじゃ、高校生組はとりあえず着替えてきてくれ。更衣室は男は右、女子は左だ」


 朝倉がそう言って案内をするが、


「朝倉先輩、ちょっと良いっすか?」


 甲斐が朝倉に待ったをかける。

 どうした、とでも言いたげな表情を見せる朝倉に、


「是非聞いて下さい、甲斐さん」


「俺も、どんな理由があるのか知っておきたい」


「うん、結構重要なことだと思うよ」


 竜宮、池、夏奈が次々と口を開く。


「何だよ、どうかしたのか?」


 朝倉が戸惑いつつも聞くと、甲斐はきっぱりとした口調で問いかけた。


「なんで今どき、あの子たちはブルマなんすか?」


 甲斐の言葉に、池と夏奈と竜宮が高速でうなづいている。


「あー、それはだな……」


 苦心の表情を見せ、言い淀む朝倉に助け舟を出したのは、ブルマを履く当人達だった。

 彼女らは朝倉の両サイドと背後にポジションを取ってから、


「「「善人くんが喜ぶから!」」」


 と、宣言をした。


 見事な天丼を目の当たりにする俺と冬華だった。



 そして、前回と同様に、翠ちゃんによるフォローを受け、無事に誤解がなくなってから、高校生組は着替えた。


 戻ると、小学生達は練習をしていた。

 この間も思ったが、始めて間もないというのに、様になっているように見えた。


 それから、スポーツウェアに着替えた女子陣が現れる。


「よし、みんな揃ったな。どの程度の実力があるか見たいから、ちょっと付き合ってくれ」


 朝倉の指示により、サーブ、トス、レシーブ、スパイクなどの動作を確認してもらう。


「……結構難しいな」


 体育の時間に少しやったことはあったが、積極的に参加をしたことがないため、上手いことボールを扱えない。


 周囲を見れば、完璧超人の池はもちろんのこと、スポーツエリートの夏奈や、甲斐は俺から見ても初心者離れな動きをしているし、なんでもそつなくこなす冬華、竜宮もかなり上手だった。


「友木も、初心者にしてはかなりセンスあると思うけどなぁ。他の奴らが別格なだけさ」


 朝倉が、落ち込む俺に声をかけた。


「なぁ、コツとかあるか?」


 朝倉に問いかけると、手際よくそれぞれの動作のコツを教えてくれた。


 それから、そのコツを意識して、再度動作の確認をしてもらうことに。

 結果は、自分でも驚くほどに良くなった。


 特に、スパイクは性に合った。

 朝倉のトスを、タイミング良く叩きつける。

 ボールと床のぶつかる音がフロア中に響き渡り、振動も感じられた。


 それを見た女子小学生たちが、練習の手を止め、俺の方を見ていた。


「ちょっとコツを教えてもらっただけで、全く違う。朝倉って、教えるのがかなり上手なんだな」


 と俺が笑いかけると、


「いや、そうはならんやろ……。あんなちょっとしたコツでそんだけできるようになるのはあり得ないからな」


 驚愕を浮かべつつ、朝倉は言うのだが、謙遜だろう。

 現に小学生の女の子たちはとても上手に見えるし、俺もすごいスパイクを打てるようになったのだから。


 朝倉は少し考える様子を見せてから、


「よし、それじゃみんな、集まってくれ」


 と言って、小学生達が練習きていたコートに向かった。

 みんな、手を止めて朝倉の元に集まる。


「今からルールを決める。基本的なルールは知っていると思うから、ハンデの説明だ」


 そう前置きをしてから、


「まず、高校生組の男子はスパイクとブロック禁止。高さとパワーが違いすぎるから、練習にならない」


「それで良いんじゃないか?」


 池の言葉に、俺たちは頷く。


「それで、高校生組はローテもなし。前衛は常に女子陣のみ。これはある程度高さを合わせるためだ」


「異議なしで〜す」


 冬華が答えると、夏奈と竜宮も同意を示した。


「それじゃ、ルールは以上だけど、みんなも良いよな?」


「そのルールで良いよ。でも……」


 茜ちゃんがみんなを代表して口を開いた。

 それから!


「お兄さん達、ハンデがいらないって思ったら、すぐに言ってね!」


 と、自信満々に言う。

 生意気なガキどもだぜ……みたいに熱くなる性格のものは、今この場にはいなかった。

 逆に、こういうムキになる子供っぽいところに、俺たち高校生組は思わず頬を緩める。

 ……茜ちゃんはその様子に、少々戸惑っているようだったが、そういうところも微笑ましいと思う。


「それじゃ、5分休憩してから練習試合を始める。ちゃんと水分補給をしておけよ」


 朝倉の言葉に、俺たちは全員、素直に従うのだった。



 そして、試合が始まる。

 サーブ権は相手から、俺たちは構える。


 サーブをするのは、菫ちゃんという悪戯っぽい印象を受ける女の子。ちなみにブルマだ。


 彼女のサーブは、俺の前にきた。

 アンダーでレシーブして、次に冬華がトスを上げる。


 高く大きく上げられたそのトスを、夏奈が強打した。

 ブロックに上がった小学生達の手を弾き飛ばし、コートに着弾。

 高校生チームの得点だ。


 すごい威力だった。

 小学生には厳しいのでは、と思っていると、少女達は深刻そうな表情を浮かべながら話す。


「今の、見た?」

「うん」

「ヤバイよ」

「ありえなくない?」


 夏奈のスパイクの威力に、はやくも戦意を喪失したのだろうか、と思っていると、



「「「「「めっちゃおっぱい揺れたね!!!」」」」」



 戦々恐々とした様子で、彼女達は夏奈のとある一点に視線を集中させた。


「えっ!?」


 と驚きの声を上げてから、自らの胸を手で押さえつつ、振り返って俺を見た。


「ゆ、優児くんにだけ見られるのなら良いけど……他の人にも見られるのは恥ずかしい、かな。これじゃ、私スパイク打てないかな……」


「くそ、小学生チームの精神攻撃か。これじゃ、こっちのチームの攻撃力は半減したようなもんじゃないか……」


「そういう反応をして欲しいわけじゃないんだけど……」


 全力でスルーした俺に、恨めしそうに視線を向けてくる夏奈に、


「葉咲先輩、私のダァに色仕掛けなんて無理なんで、やめてもらっても良いですかぁ?」 


 煽りまくる冬華。

 二人の間にはバチバチに火花が散っている。……ように見えた。


「あれ、朝倉先輩。得点反対になってますよ」


 そんなやり取りをスルーしつつ、甲斐が朝倉に言う。

 見ると、確かに小学生チームに得点が付いていた。


「いや、これで合っている」


 まさか、夏奈がスパイクの時に、ネットに触れていたのだろうか?


「これから試合中にラブコメをした場合、問答無用で相手チームの得点になるので、気を付けてください。特に、池と友木な。ホント勘弁してくれよな」


 ……とんでもない理由で得点を没収されていた。

 あまりの理不尽に、逆に何も言えなくなってしまう。

 朝倉だってすぐに女子小学生とラブコメるのに……あんまりじゃなかろうか?



 内輪もめをするチームメイト。

 完璧に私見と偏見と悪意に満ちた審判。

 

 果たして……これでまともな試合ができるのか?

 

 まだ一点しか動いていない得点板を見ながら、俺は心底そう思うのだった。


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