1、友人キャラの俺がモテるわけないだろ?
俺のこれまでの人生は、紛れもなく最悪だった。
――そんな過去も、今はどうでも良い。
そう言える日々が来るとは、きっとあの頃の俺は想像もしていなかっただろう。
全てのきっかけは、この世界の主人公である池春馬と出会ってから。
俺を取り巻く世界と、俺自身は、そこから変わっていった。
池や真桐先生、冬華に朝倉や甲斐。
そして生徒会の田中先輩、鈴木。
池に近しい人物や、直接かかわり合った人物は、俺を認めてくれた。
それだけでも凄まじい進歩だったが、つい最近には、ほとんど話したことのないクラスメイト達ですら、俺のことを色眼鏡なしで見てくれるようになっていた。
俺のことを目の敵にしていた竜宮乙女とさえ、今では良好な関係を築けている。
この関係性を、これからも俺は大事にしていきたいと、改めて思う。
――そんな、俺のことを受け入れてくれた生徒会の面々の中には、未だに良く分からない人がいた。
彼女の名は、竹取輝夜。
小柄で可愛らしい見た目ながらも、実際に話した印象は意外にも粗野。
そんな彼女は、池の前任の生徒会長である、三年生だ。
つまり、彼女も一年生ながら生徒会長を務めた、非常に優秀な人物。……のはずだが。
現在はどうしてか、生徒会の活動には消極的(なんなら、俺の方が積極的に参加している)であり、池ですらフォローができないような、いい加減な性格をしている。
直接的に関与したことがほとんどない彼女。
故に俺は、彼女のことをほとんど知らない。
だからといって、積極的に知っていきたいとは思わない。俺には、今の人間関係を大切にするのが、手いっぱいだから。
ただし。
これから先、彼女と深くかかわる機会がもしあるのだとすれば――。
その時は、先輩後輩として、仲良くできたら良いな、と。
俺はそう思っていた――。
☆
生徒会選挙が近づき始めたとある日のこと。
俺はどうしてか竹取先輩に呼び出され、二人きりの状態で、思いがけない言葉を告げられた。
「……何を言ってんすか、無理に決まってるじゃないすか」
俺の言葉に、竹取先輩は酷くショックを受けた様子を見せながらも、尚も食い下がってきた。
「いや、だから無理っす。何言ってんすか」
俺は硬い声音で彼女の言葉を拒絶する。
俺の言葉に絶望を滲ませた表情を浮かべる竹取先輩。
膝をつき、蹲りながら、悲痛な声で彼女は呟く。
「……ここまで言ってるのに。なんで、付き合ってくれないんだよ……」
震える声と、華奢な身体。
……そんな風に弱っている風な様子を見せられても、俺は彼女の気持ちには応えられない。
「……俺は、冬華の恋人なんで」
俺は彼女にはっきりと伝えた。
竹取先輩はその言葉に反応し、顔を上げて真直ぐに俺を見据えた。
「本当に。どうしても……ダメ、なのか?」
彼女の哀願に、俺は力強く首を縦に振った。
俺の返答に、一筋の涙が頬を伝いながら――。
竹取輝夜は慟哭する。
「どうして! 春馬と田中と甲斐と朝倉からの好意を一身に受け、ホ○ハーレムを作らないんだ!? あいつらの好意にはとっくに気づいているくせに……どうしてみんなと付き合わないんだ!? 冬華のことがあるのもわかるが、あたしは……あたしは!」
ガチなトーンで叫ぶ竹取先輩の醜態にドン引きする俺をよそに、彼女は大きく息を吸ってから、宣言した。
「優児っっっっっつ!!! あたしは、あんたの総受けが見たいんだぁぁぁあーーーーーーー!!!!!」
声を枯らして宣言した彼女は、鋭い視線を俺に向けていた。
俺は、彼女の視線を真っ向から受け止めつつ、返答する。
「あ、そういうの無理なんで」
人とコミュニケーションをとるのって、やはり難しい。
最近、人との関係が好転していたから、俺はすっかりそのことを忘れてしまったのかもしれない。
友人が増えたからといって、俺のコミュ障が直るわけではない。勘違いをしていては、いけないな。
目の前で嘆く少女を見て見ぬふりをしながら、俺は割と本気で、そう反省をするのだった――。