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34、友人キャラと主人公


「それじゃあ優児さん。これ以上こんなところでサボっていては他の方々に迷惑を掛けてしまいますので、戻りましょうか」


 気持ちを切り替えた様子の竜宮は、そう言って立ち上がった。

 俺はその言葉に頷いて、立ち上がる。


「ああ。その前に、俺は少しトイレに寄ってから行く。先に戻っててくれ」


「そのまま、またサボるつもりは……ないですよね」


 俺の顔を覗き込みながら、冗談っぽく彼女は言った。

 呆れたように頷くと、竜宮は「それでは、さきに戻っておきます」と言って、校庭の方へと戻っていった。


 俺はその背中を見送ってから、校舎へと向かった。

 竜宮にはサボるつもりはない、と言ったが、実のところ嘘だった。

 俺には、片づけよりも優先したいことがあったからだ。



 校舎内の生徒会室前で、俺は立っていた。

 外で片づけをしている様子はなかったし、池はおそらく、未だにこの生徒会室にいるだろう。

 一度深呼吸をしてから、目の前の扉をノックする。

 すると、「はい」という声が聞こえてきたため、俺は扉を開けて部屋の中に入った。


「……優児か、どうした?」


「うす」


 ノートパソコンを広げている池が、入室した俺の顔を見て、声をかけてきた。

 

「池がいないことに気が付いて、一人で作業でもやっていると思ってな。手伝うか?」


 俺の言葉を聞いて、池は「ああ、そういうことか」と苦笑してから、


「いや、問題ない。来年以降の引継に、体育祭のスケジュール感や問題点を当日のうちにメモしておこうと思ってな。それも、もうすぐ終わる……片づけについては、他の生徒に任せきりになっていて申し訳ないな」


「それも必要な仕事なら、気にすることはないだろ」


 俺の言葉に、彼にしては珍しくいじわるな笑顔を浮かべて池は応える。


「そうだな、肉体労働だけが仕事ではないしな。……そういう優児は、このままではサボりになってしまうな」


「確かに、そうだな」


「冷蔵庫に、スポーツドリンクが入っているから、良かったら取ってくれないか? 俺のアシスタントをしていれば、サボりの言い訳になるだろう」


「お言葉に甘えて、そうさせてもらうよ」


 それから、冷蔵庫を開けて、机の上にスポドリを置いた。

 池はそれに手を付けないまま、


「優児、今年の体育祭はどうだった?」


 と、問いかけてきた。


「……楽しかったよ、おかげ様でな」


「そうか、それなら良かった。俺も、今年の体育祭は久しぶりに燃えたな」


 柔らかな口調で、池は言った。

 もしかしたら、竜宮との騎馬戦のことを思い出しているのかもしれないなと思った。


 それから、少しの間、お互いに会話はなかった。


 どこか、緊張感が漂っていたが、俺は決意してから口を開いた。


「……余計なことをした。悪かったな」


 俺の言葉を聞いた池は、少しだけ作業を続けた後、ふぅと息を吐いてからノートパソコンを閉じた。

 それから、俺の方に目を向けて「なんのことだ?」と問いかけた。


「……竜宮のことだ。あいつに頼まれて、ではあるが。余計なお節介をしたかもしれない。……うっとおしかったんじゃないか?」


「竜宮、か。優児が俺に好きな人を聞いてきたのは、そういうことだったんだな。……それじゃ、もう知っているよな?」


 池が言っているのは、おそらく竜宮の告白を断ったことだろう。

 俺は、無言のまま頷いて応えた。


「気にするな。優児が悪いことをしたわけではない」


 竜宮に協力を求められたとは言え、大したことはしていないし、確かに、俺が謝るようなことではなかったかもしれない。

 ただ俺は、冬華のことを除き、池に隠し事をあまりしたくない……だけなのかもしれない。


 無言でいる俺に、池は続けて言う。


「それに。竜宮が俺に好意を抱いていることは、元々知っていた」


「……は?」


 その言葉を聞いて、俺は呆気にとられた。

 

 池春馬は、文武両道の完璧超人。

 唯一の弱点は……他人の好意に対して鈍感であること。

 そのはずだった。


 実際に、夏奈からのアピールにも気づいたことは……って、そうか。

 夏奈は、そもそも池を友人以上に見ていない。決して、惚れてはいない。

 それであれば池は、本当に、他者からの好意に鈍感ではない、のか?


「でも俺は、竜宮の気持ちに応えられない。……俺が欲しいのは、きっと。『理解者』だ」


「『理解者』? ……それが、以前言っていた、池の好きな人、なのか?」


 俺の言葉に、池は肯定も否定もしなかった。

 ただ、ゆっくりと言葉を続けた。



「優児は、どんな時に孤独を感じる?」


 

 急な質問。

 さっきから、何か池の様子がおかしいように感じた。

 だけど、どんなふうにおかしいのか……上手く言葉にできなかった。


「孤独……」


 俺は、池の言葉を反芻する。

 夏奈と疎遠になり、池に出会うまで、俺はずっと一人だった。

 それまで俺は、間違いなく孤独と言って良いだろう。


 だけど今は……一緒にいてくれる友人がいる。

 孤独を感じることは、もうほとんどなかった。


 一人でいるときさえも、誰かとの確かな繋がりを感じることが出来る様になっていた。

 だから、きっと……。


「誰かと一緒にいたい時に一人でいるとき、俺は孤独を感じていた」


 俺の答えに、池はゆっくりと頷いた。

 それから、彼は口を開く。



「俺は、大勢に囲まれているときに――孤独を感じる」



 池はどこか諦めたような、弱々しい表情を浮かべて言った。

 

 ……俺は、何を言われたのか全く分からなかった。

 大勢に囲まれているのに、孤独?

 なんで今そんなことを言った?

 

 いや、違う。

 そもそも――池が孤独を感じることがあるというのが、信じられなかった。


 あからさまに動揺を浮かべ、何も答えられない俺を見て、池は――


「アハハッ、冗談だ、優児。そんな複雑に考えるな」


 嫌に爽やかに笑った。


「は、冗談?」


「ああ。優児が俺に黙って、竜宮に協力していたのが面白くなくてな。ちょっとした意趣返しさ」


 そう言ってから、彼は席を立つ。

 そして、俺の背中を軽く叩いてから、


「それじゃ、校庭に戻ろう。片づけはもう終わっているかもしれないけどな」


 そう言って、俺の先を歩いて行った。

 俺は彼の言葉と態度に困惑しつつも、


「お、おう」


 と、彼の後をついて行く。


 その背中を見て、俺は思う。

 底知れない奴だといつも思っていたけれど、ここまでつかみどころのない奴だっただろうか……? と。


 そんなことを考えていると、不意に前を歩く池が振り返り、そして言う。


「優児、本当に気にするなよ? 最近、あんまり構ってもらえてなかったから、ちょっときつめの冗談を言っただけだから」


 少し慌てたような口調だが、いつも通りの様になる爽やかな笑顔を浮かべつつ言った池。


「ああ、別に気にしてるわけじゃない」


 池が言うのなら、そうなんだろう。

 わずかに引っかかる違和感、それはきっと、俺の気にしすぎなだけだろう。


 俺は池の肩を叩きながら、そう考えるのだった。


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