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28、勝負

 午後に入り、一つの目玉である応援合戦も無事に終わり、残る競技種目もわずかになった。

 紅組白組の得点を確認する。

 俺たち白組の方が、やや高い。

 次に行われる、1・2年合同の騎馬戦の結果次第では、このまま勝敗が決まる可能性もある。


「よし友木。ここで勝負をつけるつもりでやろうぜ!」


 今回、騎馬になってくれる朝倉が言った。

 後ろには同じく騎馬となる体育祭実行委員の彼と陸上部がいる。


 

 この騎馬戦は、10分という競技時間でどれだけ多くの鉢巻きを、相手チームから奪えるかという非常にシンプルなものだ。

 俺たちの白組には池がいるが、単騎の活躍だけで勝てるような競技ではない。

 だが、一組の頑張りは決して無駄にもならない。


「ああ、頑張ろう」


 そう考えて、俺は朝倉の言葉に頷いて応える。



「それではみなさん、準備をお願いします」


 アナウンスが聞こえ、騎馬を組んでもらい、その上に俺はまたがった。

 周囲の用意ができたころ、


「それでは、よーい……」


 ドン


 という音が響き、競技が始まった。


 俺たちは一気に駆け抜け、相手チームへと向かう。


「え、と、友木せ、先輩!?」


「に、逃げろーー!」


 俺の姿を見て動揺しまくる対戦相手の鉢巻きをサクッと取る。


「よし、流石友木だ!」


 朝倉が嬉しそうに言う。

 その流石はもしかして、俺の強面のことを言っているのではないか……?

 と一瞬考えたが、すぐに切り替えて競技に集中する。


 次の相手を探していると、


「そこまでですよ、友木さん」


 挑戦的な声が聞こえる。

 振り返ると、そこにいたのは竜宮だった。


「池の方にはいかないで良いのか?」


「心配はご無用。会長には足止めを向かわせていますから」


 乱戦の中、視線を巡らせる。

 すると、視線の先に4組に囲まれている池の騎馬があった。


「……四組だけなら、すぐに池が片づけるぞ?」


「会長は確かに驚異的な身体能力を持っていますが、その騎馬まで突出した能力値があるわけではありません。……が、確かに四組程度ならいずれ打ち破るかもしれませんね」


「……その前に、竜宮が加勢に行くつもりってわけだ」


 俺の言葉に、竜宮はニヤリと頷き、


「弱い駒が強い駒を押さえる。それだけで十分な仕事を果たしているんですよ」


 ドヤ顔でそう言った。

 どこかで聞いたようなセリフ……おそらく彼女は最近、ワール〇トリガーを読んだのだろう。

 ラノベやラブコメを読んでいたり、意外にも俺と竜宮の漫画の趣味は合うようだった。


「舐められたもんだな」


 俺の言葉に、竜宮は悪戯っぽい笑みを浮かべてから、


「まさか、舐めるだなんてとんでもありません。私はあなたを警戒しています。それに前も言いましたが……私はあなたにも、勝ちたいんですよ?」


 ……これは、まさか。

 

「さて、それでは……会長メインディッシュの前に、まずは前菜あなたから頂くとしましょう」


 やはり、そうか。

 残念なことに、未だに変なテンションが継続中の竜宮は、カッコいい首の角度を維持しつつ、そう言って迫ってきた。

 俺はやや気恥ずかしい気持ちになりながらも、その挑戦に応え、受けて立つのだった。



 数分後、俺と竜宮はいまだに対峙していた。

 様子がおかしい。

 ……竜宮が口ほどにもない。


 竜宮は積極的に攻めてくるかと思いきや、様子を見つつ、防戦に回るばかりだった。

 女子と男子のリーチ差のせい、といえばそれまでなのだが、彼女は不敵な笑みを浮かべているのが不気味だ。


 しかし、こいつは一体何がしたいのだろうか?

 このままでは池のところに行くどころか、ただ時間が過ぎ去るばかりだ……。

 と、そこまで考えたところで、思い至る。


「時間稼ぎが目的か……」


 俺の言葉に、竜宮は視線を動かしてから、満足そうに頷いた。


 ……竜宮にとって、開幕で速攻複数の鉢巻きを取った俺と、言うまでもなく要注意である池の組は、放っておけないはずだ。

 そんな俺を、たった一組で足止めができたなら、紅組にとっては十分にプラスな働きをしていることになるのだろう。


 池の方を見る。

 あちらを見ても、周囲の四組はほぼ防御に徹していた。


 ――彼女の言葉を思い出す。


『弱い駒が強い駒を押さえる』

『舐めるだなんて、とんでもありません』


 全く、なんてことだ。

 竜宮は最初から俺を強い駒だと言い、最大限の警戒をしていたわけだ。


 ……買いかぶりな気がするほどだ。

 

「今更気づきましたか。ですが、もう十分時間は稼がせていただきました。残り時間は3分程度。……ここからが本当の真剣勝負です」


 俺の言葉に、竜宮がクスリと笑い、それから勢いよくこちらを向かってきた。

 華奢な腕を必死に俺の鉢巻きへ向けて伸ばす。


 その鋭い攻撃を見て……俺は好機と悟った。


 作戦が成功した油断か、攻撃にしか意識が向いていない、ほとんど捨て身の攻め。

 伸ばされた腕を掴み、引っ張るとバランスを崩した竜宮。

 

 俺はそのまま、彼女の頭に巻かれた鉢巻きを、あっさりと掴み取った。

 彼女と目が合う。


 悔しげな表情、だがどこか勝ち誇ったようなその笑み。

 その表情の意味を、俺はすぐに理解した。


「すみません優児先輩っ! ……鉢巻き、もらいまーす!」


 背後からそんな声が聞こえ、反応をした時にはすでに手遅れ。

 上機嫌の冬華が俺の鉢巻きを奪い去り、そのまま去っていった。


「……やられた」


 竜宮の鉢巻きを握りつつ、そう呟く俺。


「冬華さんには、始まる前から打ち合わせをしていました。会長か、あなたの鉢巻きをとる協力をして欲しい、と。先ほど、あなたが時間稼ぎに気付いた際、タイミングよく冬華さんが視界に入りました。だから、仕掛けるならここ、と思ったんです」


「負けたよ、竜宮」


 騎馬から降りて竜宮に歩み寄り、俺はそう言った。

 勝ち誇って何事かを言うかと思いきや、竜宮はプイと視線を逸らしてから、


「……友木さんの鉢巻きは私が取る予定でしたし、私の鉢巻きを取られる予定もありませんでした。これは、完全な痛み分けです」


 と、つまらなさそうに言った。

 その様子が負けず嫌いの子供のようでほほえましく、俺は微かに口元を緩めるのだった。



 結局、騎馬戦は白組の敗北になり、点数も逆転された。


 池がほとんどの時間、四組を相手に時間どったせいだろう。(最終的に四組の鉢巻きを取ったのは、流石と言うほかないが)


「いやー、面白かったですね、騎馬戦!」


 上機嫌の冬華が、俺に向かって話しかけてきた。

 彼女は最後まで生き残り、多くの鉢巻きを取っていた。

 

「ああ、そうだな」


 俺は冬華にそう答えた。


「……あれ、私思いっきり不意打ちをしちゃったんで、ちょっと文句を言われるかなって思ったんですが」


 きょとんとした表情で、冬華は言う。

 

「文句なんて言わないっての。それにしても、大活躍だったな、冬華」


 俺の言葉に、冬華は「そうですか、それなら良いんですけど」と、どこか腑に落ちないような表情でそう言うのだった。


 だが、俺にとっては不思議な話でもない。

 どれだけ活躍できたとしても、最初に鉢巻きを取った数組のように、怖がられて逃げ続けられるよりも、竜宮や冬華のように立ち向かってくれる相手がいた方が、よっぽど楽しいに決まっているのだから――。


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― 新着の感想 ―
[一言] 騎馬戦のチームの単位は「組」ではなく、「騎」のほうが分かりやすいかなと思いました。組だとクラスや紅組・白組と混同しかねないので……。
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