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13、初デート

「さて、先輩。これからどうしましょうか?」


 駅前を歩きながら、冬華が問いかけてきた。

 落ち着いて、いつも通りの雰囲気に戻った彼女。


「……映画を観るのはどうだろうか?」


「映画ですか。悪くないですけど、普通ですね」


「普通じゃダメなのか?」


 俺の問いかけに、


「まぁ、良いですけど。無難ですよね」


 と、肩を竦めながら答える冬華。

 少々イラっとした。


 俺たちは並んで、繁華街にある映画館へと向かった。


「さて、映画を観るのは良いのですが、今って何か面白いのやっていましたっけ?」


 そして、映画館前に掲示された上映中のポスターを見て、冬華は続けて言う。


「……あら、先輩? もしかしてこの【love letter】っていう恋愛映画を私と観に来たかったんですか? やだもー、ホント先輩ってば気を抜くと私を口説いてくる―」


 イケメン俳優と若手女優がデカデカと写ったそのポスターを指さして、彼女はにやけた笑い顔を浮かべた。


「俺的には、冬華はこっちの方が好みだと思ったんだがな」


 世紀末世界でタフガイが美女と共に旅をしながら、ヒャッハーな雑魚どもを爽快に蹴散らす映画だ。

 かなりのロングヒットで、昨年の冬から公開が続いている。


「もしかしたら、冬華はすでに観たかもしれないがな」


「いや、ちょっと待ってください先輩? こんなに可愛い女の子を捕まえて、なぜこんなバイオレンスな映画を好みだと思われたんですか?」


「無論。性格が割と暴力的だと思ったからだ」


「ムカつきます……」


 と、不満そうな表情を浮かべたものの、


「……確かに、テレビのCMで見て、面白そうだとは思いましたが」


 と、彼女はそう続けた。

 というわけで、俺たちは血飛沫と悲鳴が絶えない映画を共に観賞することになったのだった。



 上映中の映画を観て、やはり評価が高いだけあって迫力もあるし、アクションもカッコいいなと思っていた。

 隣を見ると、冬華は瞳をキラキラさせて、笑顔を浮かべていた。



「面白かったな」


「そうですね、先輩と恋愛映画を観ないで良かったです」


 ふん、とそっぽを向きながらも、冬華は肯定した。

 ファーストフード店でドリンクを飲みながら、映画の感想を話していた。


「んじゃ、次は何をしようか」


「えー、エスコートを続けてくださいよー」


 不満そうに唇を尖らせて、冬華は言った。


「……ゲーセンとか?」


「ゲームセンター……ということは! もしかして先輩のカツアゲが見られるんですか?」


「見られねぇよ。しねぇから」


 俺は溜息を吐いてから、答える。


「はい、知ってます」


 あは♡と、悪びれもせずに笑顔を浮かべた冬華。


「でもー、連コイン・台パン・灰皿ソニックからのリアルファイトの四連コンボは……見られるんですよね?」


 そんなお手本のようなムーブ、原作「遊☆〇☆王」の初期で見たことがあるような気がするくらいだぞ。


「マジで俺のことなんだと思ってんの?」


 つぶらな瞳で俺を見つめる冬華に、嘆息しつつも俺は応えたのだった。



 そして、近場のゲームセンターに移動した。


 一通り店内に入っている筐体を見てから、


「どうやら先輩の相手になるような輩はいなさそうですね」


 と、どや顔を浮かべて胸を張った。


「意味が分からん」


 と言いつつも、これだけリアルファイトのネタで弄るというのは、おそらく『さっきの喧嘩は気にしていない』というアピールをしているのだろう。


 なんだかんだでコミュ力が高いし、気遣いもやろうと思えばできるのだろう。

 もっと普段から気を使ってほしいと思わなくもないが、嬉しい配慮だった。


「さて、それじゃ私と何かで対戦しましょーよ!」


 その言葉に、俺は頷いた。


「このレーシングゲームで対戦しましょー!」


 冬華と対戦モードでゲームをスタートした。

 彼女は、操作自体は手慣れたものだったが、それでも何度かこのタイトルをプレイしている俺には及ばず。

 俺は冬華にかなりのタイム差をつけて勝利した。


「ぐぬぬ……次は、この格ゲーです!」


 有名タイトルの台が空いていたので、俺たちはそこに座る。

 冬華は意外と器用にキャラクターを操作したが、俺はHPを全く削られないまま冬華に勝利を収めた。


 連コインも台パンも、灰皿ソニックもリアルファイトももちろんしなかったが、冬華はかなり鋭い目つきで俺を見ていた。


「……今度は、これです。エアホッケー。絶対負けませんから」


 今度はエアホッケーの前に移動した。

 コインを投入してから、対面で向かい合う。


 彼女はなかなか上手かった。が、俺の運動神経と動体視力は、自分で言うのもなんだがなかなかのものだ。

 冬華は結局俺から得点を奪うことができなかった。


 最終的に表示された11-0のスコアを見て、半泣きになっていた。


「……キモ」


 と、対戦が終わってから、半泣きの冬華は呟いた。


「普通、彼女とこういうところに来たら少しは手加減するもんですよ!? 弱い者いじめをして、楽しかったんですか、先輩は!?」


 軽蔑の視線を俺によこしながら、冬華は言った。


「楽しかった」


「ムキィー!!」


 と、悔しそうに歯噛みする冬華。

 負けず嫌いなのだろうか? ちょっと引くくらい、悔しがっている。


 その様子を見て、俺は気が付いた。


「あ、悪い。そういうことじゃなくて。誰かとゲーセンに来て遊ぶのは、初めてだったから、それで楽しくてな」


 誰かと仲良くなれないものかとゲーセン通いをしていたことはあったが、俺に怯えて逃げられてばかりで、結局成果は一切なかった。


「だから、悪いな。自分ばっかり楽しんで」


 俺の言葉に、冬華は面食らったような表情を浮かべた。


「そんなこと言われたら、キモイとか言えなくなるじゃないですか……先輩のバーカ」


「悪いな」


「……もう対戦は良いです。次は、一緒にあれ行きましょっか」


 そう言って指さしたのは、


「プリクラ? 俺と冬華で? 正気か?」


「嫌がられるとは思ってましたけど、正気まで疑われるとは思っていませんでした! ……良いじゃないですか、スマホケースに張り付けとけば、クラスメイトにばっちりアピールできますし♡」


「なるほど、そういうことか」


 俺は納得する。

 男避け効果は抜群かもしれないな。


「分かった、撮ろうか」


「そんじゃ行きましょうか!」


『男性のみの立ち入り禁止』の注意書きがある区間に入り、冬華の選んだプリクラの筐体の中に入る。

 

 硬貨を入れると、『モードを選択してね』というふざけた声音の案内音声が流れる。


「こっちで設定しますねー」


 テキパキと設定を進める冬華。


『ポーズを決めよう♪』


 という音声を聞いてから、


「さぁ、先輩! バカップルっぽいポーズをとりましょうか! もちろん、ボディタッチは禁止、ですよ♡」


「良く分からないな……任せる」


「ふふ、任せてください!」


 自信満々に応える冬華の指示に従い、


パシャッ


 と撮られる。


 冬華の割と厳しめの指示に従うこと、数回。

 撮影が終わり、俺は解放された。


「落書きはお任せあれ!」


「頼む」


 俺の言葉に、力強く頷いた冬華は筐体の側面で落書きなるものを始めた。

 その隣で、俺は彼女の手元を覗き込む。


「……なんか、顔おかしくないか?」


「そうですね、このデカ目補正を用いれば、先輩の顔も多少は怖さを紛らわせることができるかも思いましたが……」


「失敗だな」


「はい、正直これでは物の怪の類にしか見えませんね」


 はぁ、と深くため息を吐いてから冬華は呟いた。

 おい、もっとオブラートに包んで言え。


「……こんなもんですかね」


 作業を終え、プリントされたシールを眺めつつ、冬華は言った。


「はい、それじゃスマホを出してください、先輩」


「スマホか? 良いけど……」


 言われるがままに取り出すと、


「はい、剥がしちゃだめですからね、せーんぱい♡」


 俺のスマホの背面に、無断でシールを張った後に、剥がすなとまで言った冬華。


 背面を見ると、白飛び補正をされた美少女と、物の怪の類がそこに映っていた。


 ……良く見るまでもなく、本物の冬華の方がプリクラで写っているよりも可愛い。

 つまり、俺も本物の方が怖くない。

 そのはずだ。……そう信じたい。


「……気を付けるよ」


 俺の答えに、冬華は満足したように微笑んだ。


「ゲームセンターデート、結構楽しかったですよ。お腹もすきましたし、ご飯でも食べて今日は帰りましょうか」


「そうか。俺も、楽しかった」


 満足そうに微笑む冬華に、俺も不器用な笑みを作って、答えた。


 待ち合わせ時にちょっとしたアクシデントはあったものの、初めてのデートにしては、上手くいったのではないだろうか。


 俺は、心中でほっと一安心をするのだった。


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