27、週刊少年竜宮
「うわ、副会長。……何でもないよ」
男子グループのうち一人が、あからさまに気まずそうに応えた。
彼らは決して不良ではないので、『ああん、うるせーな。天下の副会長様が何の用だ、ハーン?』みたいなことはならないが、雰囲気はかなり悪かった。
「何でもないというのなら、こんな人気のないところで何をしていたというのでしょう?」
「休み時間に何をしていたって、そんなもんこっちの勝手だろうが……」
ぼそり、と一人の男子が呟く。
「そうそう。それとも善良な生徒である俺たちが、隠れて煙草でも吸ってるって言いたいのか?」
挑発的な男子生徒の視線。
竜宮一人に対して、男子複数。
精神的な有利があると思ったのか、早速どこか余裕を見せ始めている。
「いいえ、煙などは見えなかったですし、そんなことをしているとは思っていません」
きっぱりと竜宮は言う。
その言葉を聞いて、男子たちはニヤリと口端を吊り上げる。
「だったら……「ですが」
反論しかけた男子の言葉を遮って、竜宮は続けて言う。
「人気のないところで人の悪口を嬉々として話す、あなたたちのどこが善良な生徒なんでしょうか?」
竜宮の言葉を聞き、何事かを言いかけて、再び口を閉じる男子たち。
「言うまでもないことですが、会長は人気取りのために人付き合いをするような方ではありません。根拠のない誹謗中傷は、この私が許しません」
ジロリ、と男子を睨みつける竜宮。
怯んだ彼らに対して、竜宮は少し間を開けてから、再び告げる。
「それに……あの友木さんも。理由なく人を傷つけるような人ではありません。噂話に踊らされず、今の彼をその目でちゃんと見るべきです」
そして、
「私の友人を侮辱することも、決して許しはしません」
と、耳を疑う言葉を告げた。
……俺はてっきり、竜宮から良く思われていないと、そう思っていたから、正直言ってかなり驚いた。
男子生徒はそれぞれ顔を見合わせてから、
「……っち、うぜー」
「なんか白けたな」
「さっさともどろうぜ」
そう言い残して、急ぎ足でこの場から立ち去った。
「はぁ」と、竜宮は小さくため息を吐いた。
俺はそんな彼女の前に姿をひょいと現し、
「よう、竜宮も午後の準備の手伝いか?」
そう声をかけた。
竜宮は振り返り、俺を見て顔を青くし、
「と、友木さん!? ……もしかして今の会話を、聞いていましたか?」
「何のことだ?」
「いえ、聞いていないなら良いんです。……私は午後からの競技に使う道具出しがあるので、これで失礼します」
「それなら、俺も手伝う」
俺が言うと、竜宮は不承不承頷いた。
それから倉庫でコーンなどを見つけて、取ってきた。
赤いコーンを担ぐ竜宮は、意外と似合っていた。
「それでは、行きましょうか」
竜宮がそう言い、倉庫を出る。
俺は彼女の後をついて行きながら、その背を見て、口を開いた。
「なぁ、竜宮。俺ほどじゃないかもしれないが、お前も結構敵が多いだろ?」
「しっかりと聞いてるじゃないですかぁっ!」
竜宮が慌てて振り返り、怒ったように言った。
「『何のことだ?』とは言ったが、聞いていないとは言ってないだろ?」
「屁理屈じゃないですか……」
胡乱気な眼差しを向けてくる竜宮。
「池のことはわかるんだが……どうして俺のことまで庇った? 不良と思われている俺まで庇ったら、他の生徒に反感を持たれるのは当然だろ?」
ふと気になったことを問いかける。
俺は彼女に好かれてはいないだろうから、俺のことも庇ってくれたことを、意外だと思っていた。
俺の問いかけに、彼女は「はぁ」とため息を吐いてから、
「そもそも、友木さんは不良ではないですよね?」
と、きっぱりと言った。
「だが、他の生徒が俺を不良だと思っていることに間違いはないだろう?」
「だとしても、私はあなたがそんな人間ではないと知っています。そして、私は他人の言葉よりも、自分の判断を信じます」
先ほどの男子に言った際と同様に、今度は俺自身に対し、当然のことのように、彼女はそう言ってくれた。
それから、少しだけ恥ずかしそうに、彼女は続けて言う。
「それに、友人の悪口を言われたら、良い気持ちにならないのは当然でしょう」
「友人……」
彼女のその言葉に、俺は小さく呟いて応える。
「……え。あれ? え、私たち、もう友人……じゃなかったですか?」
不安気にこちらをちらちらと伺う竜宮。
「いや、そうだな。友人、だよな。……いつも張り合われていたから、面食らっていただけだ」
俺の言葉を聞くと、一瞬安堵を浮かべてから、すぐに不敵な笑みを見せる。
「友人とは言っても、所謂好敵手、ですから。むしろ、友木さんに張り合いがなければ、困りますよ?」
少年漫画の登場人物のようなセリフに、俺も感化されてしまったのだろうか?
「午後からの騎馬戦、負けるつもりはないからな」
挑発的な俺の言葉に、
「望むところです……っ!」
と答えた挑発的な表情を浮かべる竜宮もまた、ちょっと変なテンションになっていたに違いないだろう……。






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