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26、恋する副会長

 真桐父娘とのやり取りの後、俺はクラスのテントに戻ることに。


「あれ、友木。戻るの遅かったな。なんかあったのか?」


 俺を見つけた朝倉が、即座に声をかけてきた。


「知り合いとたまたま会って、少し話していただけだ」


 俺の言葉に、「おー、そうだったのか」と答える朝倉。

 義理の父を名乗る知り合いとは、流石に言わなかった。


「お、次は一年の種目か。えーと、……何やるんだっけ?」


 朝倉は運動場を見ながら、プログラムに視線を落としつつ、俺に問いかける。


「借り物競争、だったんじゃないか?」


 運動場に長机が運ばれ、その上にプラカードが配置されているのを指さしながら言う。

  

「あ、そうみたいだな」


 朝倉の言葉に頷きつつ運動場に視線を移すと、後輩たちが何組かに分かれて待機をしている。

 その待機列を見ると、3組目に甲斐が、そして6組目に冬華が待機をしているのが分かった。

 どうやら二人も参加するらしい。


 それからほどなくして、一組目が走り出した。

 慌ただしく客席から色々な物を借りつつ、順次ゴールをしていった。


 一組目、二組目が無事に終わり、三組目の選手がスタートラインに並んでいると、


「お、甲斐だ」


 と朝倉が呟いた。


「張り切っているな……。あいつ、何を借りることになるんだろうな?」


 何とはなしに言うっていると、スタートしてプラカードを甲斐がめくっているところだった。

 それからきょろきょろと周囲を見てから、


「ん? 甲斐の奴、こっちに向かってきていないか?」


 甲斐は俺たちのクラスのテントに向かって走り出した。


「お、ホントだ」


 朝倉が呟いていると、甲斐がとうとうテントの前にまでたどり着いた。

 それから甲斐は、


「朝倉先輩、スンマセンがついてきてもらえませんか!?」


 一年だというのに、物おじせず二年のテントにやってきて、堂々と言った。


「え、俺か? 別に良いけど」


 朝倉は立ち上がり、


「んじゃ、ちょっくら行ってくる」


 と俺に向かって言い、甲斐と共にゴールに向かって走った。

 他の奴らはいまだに借り物を探しているらしく、結局二人はトップでのゴールとなった。



「それで、甲斐の借り物って結局何だったんだ?」


 5組目が走り出してからテントに戻ってきた朝倉。

 俺が彼に尋ねると、どこか腑に落ちないような表情を浮かべつつ応えた。


「それが意味わかんなくてよー。『小学生は最高だぜ!』って言いそうな人、ってのがお題だったんだ。コロコロコミックを愛読していそうな人って意味かと思ったが、俺はどう見たって週マガを愛読している顔だろ? ……友木はお題の意味わかるか?」


「あー……」


 意味が分からないところは多々あったが、甲斐もラノベを嗜むという事実と、このお題を考えた体育祭実行委員の中に、ふざけたやつがいることは分かった。

 夏休み、海での一幕が俺の脳裏をよぎる。

 おそらくこのお題を引いた甲斐も、同じ場面を思い起こしていたのだろう。


「面倒見が良い、って意味じゃないか?」


 俺は真実を告げるのが憚られ、適当なことを言った。


「うーん、そういうことなのか……?」


 と、未だ納得していない様子の朝倉に、


「お、そんなことより冬華が走り出したぞ」


 と、話題を変える。


「お、本当だ。……彼氏として、応援しなくちゃいけないんじゃないか?」


 ニヤニヤしながら言う朝倉。

 確かにそうしなければいけないかも、と一瞬脳裏をよぎったが、


「冬華はそんなこと気にしないだろ」


 と朝倉に応える。

 それから運動場を見ると、プラカードを手にした冬華がこちらにやってきた。

 ……デジャブだ。

 もしかして、また朝倉ロリコ……がお題なのだろうかと思っていると、


「優児先輩、来てくださーい!」


 と、冬華が俺に声をかけたてきた。


「俺か? ……行ってくる」

 

 一体どんなお題なのだろうかと戦々恐々しつつ、俺は立ち上がってから朝倉にそう言い、冬華と一緒に走り始めた。


「なぁ、冬華、お題って何なんだ?」


 と俺が尋ねると、


「先輩、後ろから追いかけられているんで、ちょっと急ぎますよ!」


 そう言って彼女は俺の手を引いて、勢いを緩めないまま走り、一着でゴールをする


「あの、お題、確認させてもらっても良いですか……?」


 恐る恐る、と言った様子で、冬華に尋ねる、体育祭実行委員の女子。


「はいはーい」と、冬華は応えて、手にしたプラカードを見せた。

 

『強面の先輩』とか、『犯罪者顔の人』とかでないことを祈りっていると、実行委員の女子が、俺と冬華を交互に見てから、


「あー、『好きな人』。……あ、そうですね、オッケーです」


 と言った。

 ……俺と冬華のような「ニセモノ」の恋人関係がある人間か、公然と付き合っているような陽キャ以外には、あまりにも残酷で無慈悲なお題だった。


「いやー、ラッキーでした。とっても簡単なお題で。……ご協力ありがとうございました、優児先輩」


 と、悪戯っぽく微笑んだ冬華。


「お、おう……」


 確かに、冬華にとっては相当イージーなお題だったろうが、俺としてはやはりどこか気恥ずかしいのだった。




 それから、午前中は何事もなく体育祭は進行した

 去年は体育祭なんて参加していなかったからわからなかったが、多くの人間が楽しそうにしていた。


 田中先輩は最後の体育祭だからか、普段以上に張り切っていたし、そんな田中先輩を見て、鈴木は一生懸命応援をしていた。

 

 ただし、やはり、全員が楽しんでいるというわけでもなく、例えば竹取先輩は相当だるそうに参加をしていた。


 俺はというと……まぁ、そこそこ楽しめていたと思う。



 昼食をとってから休憩をしていると、池から声をかけられた。 


「すまん、優児。午後からの競技で使う道具が体育倉庫前に置いてあるから、それを取りに行ってもらって良いか? 今、手が離せなくてな」


 当たり前のように体育祭実行委員の手伝いをしている池の頼みを、


「ん、おう。任せておけ」


 と、素直に応える。


 昼休み中ではあったが、体育祭実行委員はそれぞれ忙しそうだったし、もちろん池もそうだ。

 俺に手伝えるような単純作業であれば、何も問題ない。


 そう考え、校舎裏にある体育倉庫に俺は向かった。



 そして、体育倉庫近くに辿り着いた俺は、池の言っていた道具を探すのだが、そこで、男子生徒数人がたむろしているのを見つけた。


 俺が急に出て行ったら、きっと驚かせてしまうだろうな、と考えていると、


「つうかさ、あのヤンキー張り切りすぎだよなー」


「ああ、友木だろー? マジ萎えるよな」


「あいつらのクラス、何考えてんだろうな、あんなヤンキーと楽しく体育祭とか、出来るわけないっつの」


「あいつ、池の前では大人しくしてるだろ? 池が言ったらクラスの連中も表面上は仲良くしなくちゃいけないんじゃねーの?」


「あー、あり得るな。あいつらも大変そうだよなー」


「あんな完璧超人に仕切られたら、たまったもんじゃねーよな。気の毒に」


「ったく、あいつらのせいで、マジで体育祭シラケちまったよな」


 なんていう会話が聞こえてきた。


 ……極悪なヤンキーだと思われている俺が体育祭を楽しんでしまえば、こんな風に思われても仕方がない。

 俺が楽しんでいるばかりに、彼らに不愉快な思いをさせてしまって、申し訳ないと思う。


 ……だが、善意で行動してくれている池や、クラスメイトのことまで悪く言われているのは、気分が悪い。

 一言だけ文句を言ってやろうと思い、俺は彼らの前に出ようとしたのだが、




「……今の話、聞き捨てなりませんね」



 背筋も凍るような、冷ややかな声が聞こえた。

 訝し気に、男子たちがその声の主を見る。


 俺もつられてその声の主を見た。


「お話、詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 冷徹な表情を浮かべるその声の主。

 それは、池に恋する生徒会副会長、竜宮乙女だった――。


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