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22、応援団のヤバい奴


「それにしても、暑いですよねー。体育祭、こんな猛暑の中やるとか、マジ罰ゲームじゃないですかぁ~?」


「当日もだけど、練習中から熱中症には気をつけないといけないな」


 相も変わらずきつい日差しを受けながら、うんざりしたように言う冬華に、俺は答える。


「なんか今の言葉。先生っぽいですね、先輩」


 部活に励む生徒たちが光り輝く汗を流しているさまを横目にしながら、俺と冬華は帰路につこうとしていた。

 俺は冬華の言葉がただの揶揄いではないかと警戒しながら応える。


「そうか?」


「そうですよ。ていうか、先輩って結構、先生に向いてるかもですね」


 と、冬華は閃いたように言った。

 何を根拠に冬華はこんなことを言ったのか謎だ。

 俺は少しだけ考えて、


「いや、向いてないだろ」


 生徒想いで、厳しさと優しさを兼ね備えたオンタイム時の真桐先生のことを考えつつ、俺はそう答えた。

 ……ポンコツな真桐先生のことは、あえて考えないようにした。


「えー? 任侠映画とかで、雇った用心棒のことを『先生』とかっていうじゃないですかー?」


「え、先生って、そういうことを言っていたのか?」


 俺は冬華との認識の差に驚くと同時に、彼女が任侠映画を観ている事実に震えた。


「冗談ですよ。先輩は確かに顔は怖いですけど、慣れてくると大型犬みたいな愛嬌もあるってわかりますから」


 ニヤニヤと笑いながら、冬華は言った。

 俺は無言で彼女を見る。

 またからかってんじゃないだろうな……。


「あ、ただ学校の先生に向いてるかもっていうのは、本音ですよ?」


 俺は油断せずに冬華を見る。

 彼女は、真顔のまま口を開く。


「先輩、面倒見は良いし、勉強を教えるのも上手ですし」


「そう……か?」


「そうですよ。それになにより……」


 彼女は俺を上目遣いに伺いつつ、口を開いた。


「生活指導の先生とか、超似合うんじゃないですか~? 竹刀とか持ってたら、超ヤバ谷園なんですけどー」


 アハハーと、大口を開けて笑う冬華を、何だこの野郎と言う思いで見る俺。

 ちなみにウチの高校の生活指導は、竹刀を標準装備していない。

 

 俺は溜息を吐きつつ、歩を進める。

 それから、何とはなしに校庭の方を見ると、普段見慣れない光景を目にした。


「ん、あれって、応援団の練習、だよな?」


 俺が呟くと、冬華も視線をそちらに向けた。

 

「げ……」


 と、なぜだか彼女は呟いた。


 体育祭の目玉の一つに、各組の行う応援団の演武がある。……らしい。

 らしい、というのも、去年の俺は体育祭を普通にサボったからだ。

 だから、目玉と言われてもいまいちピンとは来ないのだが。


 それでも俺は、今年の応援団の演武を、楽しみにしている。

 何故かというと……。


「アニ……友木先輩! お疲れ様っす!」


 前髪を上げた短髪、日に焼けて浅黒くなった肌。

 以前よりも数段逞しくなった腕を振りながら、俺を見つけた彼は、人懐こい笑みを浮かべながら、声をかけてきてくれた。


「ああ、甲斐もお疲れ」


 俺が応援団を楽しみにしている理由。

 それは、俺を慕ってくれる後輩、甲斐烈火が応援団に所属をしているからだ。

 

「そんな、もったいないお言葉!」


 と、恐縮する甲斐。

 

「うんうん、よくわかってんじゃん。優児先輩があんたと話す時間は、本当にもったいないの。だから、はいさようなら! 私たちは帰るんで、甲斐君は応援団頑張ってください」


 固い声音でそう宣言し、俺を引っ張ろうとする冬華。


「少しくらい立ち話したって良いだろ?」


 が、俺くらいの大柄な男を力づくで引きづることは出来ない。

 俺はその場から不動を貫く。

 冬華からは不満気ににらまれる。


「お、冬華もいたのか。お疲れ」


 と、甲斐はテンション低く答えた。


 っち、と小さく冬華が舌打ちをした。

 ……俺と仲良くしている希少な後輩二人が、不仲であることが俺のささやかな悩みだったりする。


「応援団の練習はどんなもんだ?」


 少しの気まずさを感じつつも、俺は甲斐へと問いかける。

 彼は嬉しそうな表情を浮かべながら、


「そうですね、みんな結構やる気があるし、先輩後輩の仲も良いんで、雰囲気は最高ですね!」


 と、元気よく答える。

 

「へぇ、そうだったのか。なら、本番が楽しみだな」


「うっす、俺も本番友木先輩を応援するのが楽しみっす!!!」


 と全力で応える甲斐。


「いや、私たちと先輩、違う組だし。バカなの? 死ぬの?」


 と、冷ややかな視線を向けながら、罵倒をする冬華。


「少しくらいの障害はつきもの……ですよね!?」


 と、上目遣いに俺を見ながら、甲斐は言った。

 ……障害物競争の話だろうか? いきなりどうしたのだろうか、と思いつつも、


「ああ。そうかもな」


 とりあえず話を合わせる俺に、


「せ、先輩……!?」


 と驚愕の視線を向けてくる冬華と、


「せ、先輩……!!」


 と、恍惚の表情を浮かべる甲斐。


「くぅ、絶対なにか勘違いしている、この先輩……! とにかく、もうあんたは応援団の練習に戻りなって、いつまでもここにいたら、サボってるって思われるし!」


 冬華は、しっしと甲斐に向かって手を振った。


「そう、だな。今日のところは……これで、失礼します、友木先輩!」


 と頬を真っ赤に染めた甲斐が、俺に向かって頭を下げてから、応援団へと合流するのだった。


 それから、


「さっきのは、いろいろ勘違いしているとは思いますし、あれも別にいきなりどうこうなるわけではないとは思うんですが、とりあえず」


 いつになく真剣な表情を浮かべつつ、真直ぐに俺を見つめる冬華が、口を開いた。


「あいつが背後にいるときは、気を付けてください……」


「なんだそれ。命でも狙われてるってのか、俺は?」


 苦笑しつつ、冬華の不思議な冗談に応えると、


「……はっきり言って、命と同じくらい大事なものが狙われています」


 と、またしても真剣な表情で、冗談を続ける冬華。

 ……ギャグのつもりで言ってるんだろうけど、よくわからないな。


 こういう時、どうフォローすればよいか分からない俺は、


「え、ああ。……気を付けることにする」


 と、とりあえず答える。


「マ・ジ・で! 気を付けてくださいよ?」


 頬を膨らませて、胡乱気な視線を向けつつ念押しをしてくる冬華に、俺は降参するように両手を上げて頷く。

 

 冬華の良く分からない忠告に頭を悩ませるよりは、甲斐と彼女の関係をどうにか修復できないかと考える俺は、なんだかんだ、本当に面倒見が良いのかもしれない、なんて思うのだった。


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