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21、バトンパス


 それから、綱引き、騎馬戦の練習をして、授業時間も残り少なくなったところで。


「それじゃ、男女混合リレー、一度走ってみよーか!」


 大声でそう告げたのは、体育祭実行委員だ。

 出場するメンバーは本番同様トラック内の各スタート位置につき、そしてあらかじめ決められていた順番に並んだ。


 ちなみに俺は、運動神経を買われ、第一走者に選ばれている。

 合同練習中の2-Bのスタート走者が隣にやってきて……。


「……A組は、と、友木君が走るの?」


 怯えた表情で俺に問いかけてきた。

 俺は申し訳なくなりつつも、無言で首肯。

 すると、「ひっ、ごめんっ!」と短く悲鳴を上げられた。


「良いぞー、友木君! B組ビビってるー!」

「友木君を第一走者にして他のクラスをビビらせて一番とる作戦は成功しそうだな」


 ……そんな作戦だったのか!?

 運動神経を買われて選ばれたわけではなかったのかと、俺は少々凹みつつ、


「優児君、頑張って!」


「友木、任せたぞ!」



 夏奈や朝倉、他のクラスメイト達の応援の声が耳に届き、俺の身体にはやる気が満ちる。


 それから、いよいよスタートの合図が聞こえ、俺は走り始める。


 勢いよく俺は駆け出す。

 隣の走者をグングンと突き放し、圧倒的な差をあっという間に付けた俺。


「良いぞー、友木君!」


「すっげ、はええ!!」


 ギャラリーの応援を聞きつつ、握りしめていたバトンタッチをしようと次の走者に向か……!?


「ぎゃーーーーーー!!」


 と叫びながら全力疾走をして俺から逃げるのは、なんと次の走者だった。

 俺は走る速度を緩めないまま、疑問を口にした


「ちょ、なんで逃げるんだ!?」


 俺はバトンパスをできないまま、走り続け……


「ひぃぃぃぃいいい!!」


 怯えてへっぴり腰になってしまった走者が転んだ。

俺は彼を助け起こそうと立ち止まりかけたが、


「と、とりあえずそのまま走れ、友木―!」


 と、朝倉の声が聞こえた。


転んだ彼は、別に怪我をしているわけではなかったし、俺が手を差し伸べても怯えるだけかもしれない。

 ……自分でも何が何だかわからなかったが、こうなっては仕方ない。

 次の走者にバトンパスをするために、俺は走り続けるのだった――。





 そして結局、ラスト二人目の走者の夏奈に、バトンタッチをするまで俺は走り続けたのだった。

 体育祭のリレーで中距離を走ることになって俺は普通にしんどかった。


「……いや、すまん友木。真剣に走るお前の鬼気迫る表情が怖すぎて、つい逃げてしまった。いや、仲良くしても、怖いもんは怖いんだな」


「朝倉……」


 無言で全力疾走をし、俺から逃げていた朝倉は、申し訳なさそうに苦笑していた。

普段は普通に接してくれる朝倉まで逃げるとか、どんだけ怖かったんだよ、俺は……。


「それにしても、困ったことになったな……」


 俺たちに向かっていうのは、体育祭実行委員だった。

 実は第二走者だったお前が俺のバトンを受け取っていれば、困ったことにはならなかっただろうに。

 俺は彼に向かってジト目を向けた。


「に、睨むなよ友木……」


「す、すまん」


 怯えた表情を浮かべる体育祭実行委員に、なぜか謝罪する俺。

 気が付けば、周囲にはクラスメイトが集まってきていた。

 そうして、どうしようかと頭を悩ませる彼らに、


「順番を変えるしかないだろう」


 と、池が至極真っ当な意見を述べた。


「夏奈なら優児の前後になっても問題ないだろ?」


 池の問いかけに、夏奈が頷く。


「当たり前でしょ! それなら、私の前後どっちかに、優児君が走ったら良いよね、そっちの方が、私もやる気出るかも、だし……」


 恥じらうように言った夏奈の最後らへんの言葉を聞いて、


「ぐやじい……なんで友木ばっかり、ぢぐじょう……」


 と、殺る気をだしてしまう朝倉をはじめとしたクラスの男子たち。


「それなら、決まりだ。第一走者を陸上部の彩木さいきにして、最後三人を夏奈、優児、俺の順番に変えよう」


 池の言葉に、体育祭実行委員が答える。


「だけどそうしたら、友木君で他の走者をビビらせて独走作戦ができないぞ?」


 そのような作戦実行者の俺に全く情報が入っていなかったその作戦を聞いた池が、堂々と答える。


「そんな小細工、必要ないだろ? 優児は一位で俺にバトンを繋いでくれるし、俺も一位を譲らない」


 普段は言わないよう強気の言葉。

 それが、俺を気遣ってくれての言葉だと、すぐに察せた。


「確かに、池と友木がいれば、普通にやっても余裕だよな……」


「池はもちろん、友木もめっちゃ速かったしな!」


「池の言う通りだ!」


 クラスの連中の表情が明るくなる。


「ていうか、友木には悪いことしたな、ごめん」


 と、体育祭実行委員が俺に向かって頭を下げてきた。

 バトンを受け取らず、逃げ出したことを謝罪しているのだろう。


「いや、気にするな」


「そっか、ありがとな。やっぱ友木は、顔は怖いけど、良い奴だな。……体育祭、ガンバローな!」


 そう言って、俺に向かって手を差し出す実行委員。

 俺は彼の手を握り返しつつ、「ああ」と答えるも、気まずい気持ちになる。


 ……こいつ、なんて名前だったっけ。

 なんて、今更聞けないし。


 俺が愛想笑いを浮かべていると、


「優児君! 順番入れ替わって、良かったね!」


 夏奈が俺の近くにまで歩み寄ってきた。


「そうだな。これからよろしくな」


 名前も知らない体育祭実行委員から視線を外し、それから夏奈に向かって答える。

 すると、「うん!」と、大きく頷いてから、


「私のバトンと気持ち、ちゃんと受け取ってね?」


 と上目遣いで夏奈は言った。


 返答に迷い、曖昧な表情をしつつ、俺は視界の端でみんなに囲まれる池を見た。


 あっという間にクラスをまとめた池に対して、やっぱりこいつには敵わないな、と。

俺はそう思うのだった。




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