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18、メンバー選出

 竜宮に絡まれ、それから冬華から愚痴っぽいメッセージを受け取った後、本日最後の一コマは……。


「それでは、今日は体育祭の各種目の出場者を決めようと思う」


 教壇に立ち、司会進行をする池が議題を告げる。

 言葉の通り、体育祭にはいくつかの種目があるが、強制出場の種目以外は、各クラスの代表選手が出場することになるため、その選出をするようだ。


 ちなみに。

 本来は各クラスに体育祭実行委員がいるため、そいつが司会進行をするべきなのだが、当然のように池がその役目を行っていた。

 ……実行委員の奴には悪いが、池がやった方が話が早いし、クラスメイトもまとまるから仕方ないな。


 こういった行事ごとは基本的には多くの人間が積極的に参加をするのだろうが、どうしたって一部の人間は消極的になるものだ。

 現に今も、壇上で話す池の話を聞きつつ、周囲はどこかかったるそうな表情を浮かべる文化系のクラスメイトもいた。

 基本的には体育祭に向けて盛り上がるクラスの連中だが、そんな奴らがいることに、もちろん気が付いている池は、爽やかな笑みを浮かべつつ口を開いた。


「これから各人の参加種目を決めていく前に、一つ話しておきたいことがある」


 池の言葉に、クラスの全員が彼を見た。


「特に出場回数制限は設けられていないから、クラスによっては運動神経が良い体育会系の部活に所属している生徒で固めるところもあるが……正直言って、このクラスは運動神経が良い奴が揃いすぎている。ガチのメンバーを揃えたら、他のクラスに引かれてしまう」


 肩を竦めて、池は言う。

 ……確かに、このクラスには運動神経抜群で、運動部のエリート連中にも何ら引けを取らない池がいるし、女子にも全国区のテニスプレイヤーの夏奈もいる。

 それに、朝倉をはじめ、各運動部のレギュラーもたくさんいる。

 池の言う通りなのだろう、このクラスはスポーツエリート揃いだ。ガチのメンバーを揃えたら、空気が読めないと他のクラスから引かれることもあるんだろう。


「そういうわけで勝ち負けのことは気にせず、全員で気楽に体育祭を楽しんで行こう」


 その言葉を聞いて、クラスの雰囲気が弛緩した。

 池の『楽しんで行こう』という言葉に、みんなが共感したのだろう。

 誰一人として、反対意見を言わない。


 方向性は決まった。

 バリバリの体育会系も、楽しむことを優先することに同意をしている。

 ……怪我でもして部活動に支障が出ても良くないし、それは当然のことかもしれない。

 

 それから、早速競技種目ごとの参加選手を選出に移った。

 まずは立候補制を採用し、それから参加者が足りない競技については他薦といった進め方だ。

 玉入れなどの、あまり体力を使う必要のない種目は、文化系の部活動に所属する奴があっという間に埋めていき、残りは騎馬戦やリレーなど、体力や身体能力がものを言う種目ばかりが残っていた。

 

 ……ちなみに、俺はどの種目にも参加していない。

 池には悪いと思うが、俺が参加してしまえば、楽しい体育祭の気分も台無しになる俺を怖がる連中も多いだろうしな。 


「……さて、未だに参加者が固まらない種目が結構あるな」


 池がそう言うと、


「……あ、おい池! 友木が全く参加してなくないか!?」


 黒板に書かれた種目と名前を見比べて朝倉が、そう言った。

 ……その瞬間、教室内に緊張が走った。


 クラスメイトが、俺に視線を向ける。

 俺は反応に困り、ただ無言を貫くと、クラスメイト達はさっと気まずそうに視線をそらした。

 天丼である。お約束である。

 もはやウケ狙いであると俺は確信していた。


「本当だな。それじゃあ、優児は俺と一緒に、まだ出場選手が固まっていない種目に参加するか」


 ……驚いたことに、池がそんなことをクラスメイトの前で言ってきた。

 いやいや、池よ。何を血迷っている?

 俺がやる気満々で体育祭に参加してしまえば、それこそ他のクラスに引かれるだろう。


 そう思い、無言のまま彼を見るが、池は爽やかな笑みを浮かべたまま、俺の答えを待っていた。


 一体、何のつもりだと思いつつも、俺は彼に向かって答える。


「俺は参加しない。……こういうのは、苦手だからな」


 俺の言葉に、クラス中の視線が集まる。

 しかし、いつもとは違い、俺はその視線に応えることが出来なかったし、他のクラスの連中も、俺から視線を逸らすようなこともしなかった。


 ……いたたまれない。


 静寂が支配する中、そんな風に俺が思っていると。


「良いんじゃなーい?」


 と、教室のどこかからそんな声が聞こえた。

 俺はその声の主へ視線を向けた。

 その声の主は、女子バレー部に所属している身長の高い、確か大井という名前の女子だ。


「友木君、運動神経良いんだし、運動部に所属もしていないから、最悪怪我するくらい頑張ってもらっても、大丈夫っしょー」


 と、間延びした声で、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべつつ大井は言った。


「確かに、八木の言う通り、友木君にも参加してもらった方が良いよなー。騎馬戦とか、めっちゃ強そうだし」


 今度は野球部の野……原だったか野崎だったかが言った。

 俺は衝撃を受けて、何も言えなくなっていた。


 別に、大井だと思っていた女子の名前が本当は八木だったとか、クラスメイトの名前すら全然覚えられていないという事実に打ちひしがれているとか、そういうのは別にして、俺は動揺していた。


「そーだな、友木は遊ばせとくにはもったいない人材だからな。精々頑張ってくれよ!?」


 朝倉が明るく言う。

 それに伴って、他のクラスメイトも、動揺を浮かべる俺に向かって、様々な声をかけてきた。

 そんな言葉を聞いて、俺は……。


「良いのか?」


 そう呟いていた。

 首を傾げ、俺の言葉の続きを待つクラスメイト達に、俺は続けて言葉にする。


「俺みたいな……不良ヤンキーが体育祭に出たら、楽しい思い出も台無しになるんじゃないか?」


 俺は情けないとも思ったが、それでも、どうしても。

 そう言葉にせずにはいられなかった。


 またしても訪れる静寂。

 それを破ったのは……。


「優児君は、不良じゃないでしょ?」


 夏奈の優しい声だった。

 俺が彼女の声に振り返ると、夏奈はにこりと笑顔を浮かべた。


 それから、


「確かに、生徒会の手伝いいつも頑張ってるし!」

「テストとか、いっつも上位の成績で、不良って感じじゃないなって最近思ったし!」

「いつもの天丼ネタも乗ってきてくれるし、ノリも良いよなー」

「あと、彼女超可愛いしなっ!」

「ああ、彼女マジ可愛いしなっ!!」


 などと、俺に対して――半分は冬華に対する――好意的な言葉を聞いて、俺は茫然としてしまう。

 それから、俺は教壇に立つ池へと、自然と視線を向けていた。


 池は呆れたように、だけどとても暖かな視線を俺に向けてから、


「なぁ、優児。俺たちは、全員で気楽に楽しもうって話だったろ? 肩の力抜いて、楽しんでいこうぜ」


 そう言って、爽やかに笑った。


 ……全く、池には敵わない。


「……ま、そういうことならぼちぼち楽しむさ」


 俺はそう応えながら、心中で感謝の念を抱くのだった。




 そして、ホームルームが終わり、放課後。

 未だに黒板には体育祭の種目と参加者の名前が並んで書かれている。

 それをしばし眺めていると、


「良かったね、優児くん」


 と、明るい声音の夏奈に声をかけられた。

 俺は彼女の言葉に頷いてから、答える。


「ああ。まさか俺が学校行事に普通に参加できるようになるとは思わなかった。……池には、感謝しなくちゃな」


「春馬は、関係ないよ」


 俺の言葉を聞いた夏奈が、間髪入れずに断言した。

 一体どういうことなのか、俺は彼女の言葉を待った。


「優児君が、これまで頑張ったから。だから、みんなも優児君の良いところに、気づけたんだよ」


 そう言って優しく微笑む夏奈を見て、俺はやはり嬉しくなった。


「ありがとな、夏奈」


 俺の言葉に、「私にお礼を言う必要なんてないのに」と呆れたように笑ってから、


「それにしても。……優児君と春馬がほとんどの種目に出るなんて、やっぱり他のクラスに引かれちゃうんじゃないかな……?」

 

 と、夏奈がボソッと呟いたのを聞いて、少しだけ他のクラスに少しだけ申し訳ない気分になるのだった。


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