4、友人キャラと生徒会長
真桐先生に挨拶をしてから、生徒指導室から出ると……。
「先輩、またなんかやっちゃったんですかぁ?」
と、唐突に甘い声音で問いかけられた。
その声に振り向くと、そこには派手な外見の一年女子が、にやけた笑いを浮かべながら、立っていた。
「俺がいつも何かしているような言いぐさはやめてくれ」
そう答えると、彼女は笑う。
「そんなこと知ってるんですけどぉー? ……分かっているとは思いますけど、今のは冗談なので気にしないでくださいね?」
「ああ、分かってる」
彼女の軽口に、俺は苦笑しつつ答える。
どこか揶揄うように言ったのは、俺の【ニセモノ】の彼女である池冬華だった。
朝、俺が真桐先生に放課後呼び出されていることをメッセージで伝えると、
『話が終わるまで待っているから、一緒に帰りましょ』
と、言われていた。
「待たせて悪かったな」
「別に、そんなに待ってはいないので、気にしないでください」
冬華は俺と目を合わせてそう言った。
それから、なぜか気まずそうに、プイと視線を逸らした。
さっきもこんなことあったなと思っていると、彼女は口ごもりながら、言う。
「……先輩と会うのは、夏祭り以来ですよね」
「そうだな。連絡は取り合っていたから、意外に久しぶりな感じはしないな」
俺が答えると、冬華は胡乱気な視線をこちらに向けてきた。
「……それだけですか?」
「あ? ……ああ、そうだが」
俺がそう答えると、冬華はわかりやすくため息を吐いてから、口を開いた。
「久しぶりに会った超可愛い彼女に対してそれだけとか、チョーがっかりなんですけど?」
胡乱気な眼差しを俺に向けながら、彼女は言う。
今度は俺が小さくため息を吐いてから、彼女に問いかける。
「なんて言えばよかったんだよ」
むぅ、と考え込む仕草をしてから、冬華は言う。
「相変わらず可愛い……とか?」
上目遣いに、甘えたような声音で彼女は言った。
「アイカワラズカワイイ」
「棒読みウザっ! そういうのは私的にはNGですっ!」
もーっ、と可愛らしく拗ねる冬華を見て、俺は少し安心をしていた。
あの日、隣同士で花火を見上げた時の、僅かな予感はきっと……俺の杞憂なのだろうと、そう思って。
「……どうしましたか、先輩?」
不思議そうな声音で、冬華が問いかけた。
俺はゆっくりと首を振ってから「何でもない」と呟いた。
「それなら良いんですけどね。それじゃ、帰りましょっか?」
「あー、悪い。この後少し、生徒会室に寄ってもいいか?」
俺の言葉を聞いてから、冬華は呆れたように俺を見た。
「良いですけど、また兄貴に頼まれごとですか? ホント、お人好しですねー、先輩は」
不満そうに呟いた冬華に、俺は言う。
「いや、そういうわけじゃない。池は今日忙しそうでほとんど話せなかったし、他の生徒会の連中にも、挨拶だけでもしておこうかなと思ってな」
「なんか、変に律義ですね、先輩って」
と揶揄うように言いつつも、生徒会室に向かう俺の後ろを着いてくる冬華。
それからすぐに、生徒会室に到着した。
部屋の扉をノックする。
「はい」
と、女の声が部屋から聞こえた。
扉を開けて生徒会室に入るとそこには……見知らぬ女子生徒がいた。
明るめの茶髪を所謂ポニーテールにした、利発そうな女子だった。
身長は……けっこう低いし、顔もなんだか幼く見える。
一年女子だろうか? と思いつつリボンの色を見ると、驚いたことに三年生だった。
この人年上かよ……そう思っていると、
「ん、なんだお前ら?」
その見知らぬ女子生徒は、気怠そうな表情を浮かべつつ、俺たちに向かって問いかけた。
唐突な質問に、コミュニケーション能力が不足している俺は「う、うす」と一言答える。
そんな俺に、呆れたような視線を向ける冬華が口を開く。
「私は池冬華です。こちらの顔の怖い人は私のカレピの友木優児先輩です」
冬華が平然と答えると、目の前の先輩はやれやれと肩を竦めてから口を開く。
「いや、あんたらが誰かってのは知ってるっての。一学年主席の才女と、二学年次席の秀才くんが、生徒会室に何の用だって話をしているんだが?」
俺と冬華のことを知っているらしかった。
……自分で言うのもなんだが、俺は悪名高いわけだし、冬華も目立つから、不思議ではないか。
にしても、俺と初めて話すにしては、全く恐怖がなさそうだ。中々、肝の据わった人だなと思いつつ、俺は口を開いた。
「池たちに挨拶でもと思ってきたんすけど。……というか、あんたはここで何をしてんすか?」
俺が疑問を口にすると、あからさまにしょんぼりとする先輩。
「……あたしのこと、知らないか?」
彼女の言葉に、冬華と目を合わせる。
冬華は、ゆっくりと首を振った。どうやら、お互い知らないらしい。
「……まぁ、そうだよな。あたしのことなんて、知らないよな。仕事は全部春馬に任せて、生徒会室に来るのも久しぶりだし。認知されないとか、存在感がないのも……うん、仕方ないよな」
どこか遠い目をしながら、彼女は俯きつつ、そう言った。
そんな様子を見ると、何か悪いことをしてしまった気になる。
そんなことを思いつつ、彼女の次の言葉を待つ。
気持ちの整理がついたのか、「よし」と小さく顔を上げた。
「あたしは……」
そう呟いてから、彼女は堂々とした態度で、続けて宣言した。
「竹取輝夜。春馬の前任の生徒会長だ」