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3、生徒指導?

「夏祭り以来、ね。元気だったかしら、友木君?」


「おかげさまで。先生も元気そうでなによりっす」


 始業式の放課後。

 真桐先生の呼び出しに応じた俺は、いつものように生徒指導室にて彼女の対面に座っていた。

 しかし真桐先生は、どうしてかいつもに比べて様子がおかしい……というより。

 学校外で会う時の、ポンコ……やや緊張感に欠ける真桐先生のような雰囲気だ。

 そんな彼女が、どこか言いづらそうに、俺に向かって問いかける。


「……どうして呼び出されたか、分かるかしら?」


 真桐先生の質問に、俺は首を傾げる。


「……え? 見当つかないっす」


 正直、これまでのように悪評が立つことをしてはいない。

 夏休み中に、俺の預かり知らないところでそう言った噂はあったのかもしれないが……。

 そう思いつつ、彼女の顔を伺うと、理由は分からないがショックを受けたような表情をした。


「どうしたんすか?」


 俺がそう問いかけると、今度はどこか不満そうな表情を浮かべてから口を開いた。


「私とあなたは、教師と生徒よね?」


「……え? そうすよね」


 いきなり当たり前のことを再確認してきた真桐先生。

 教師には長期の夏休みはなかったと思うのだが、……え? 休みボケ?


 俺の答えに、真桐先生はどうしたことか、さらに不機嫌そうな表情になる。

 ……もしや、俺が失礼なことを考えていたことに、気づいてしまったのだろうか?

 そんな風に、考えていると。


「だから……私たちは、教師と生徒として、ちゃんと! 一線を引いた関係でないといけないわ。……わかるわね?」

 

「え? はい」


 またしても当たり前のことを告げる真桐先生。

 本格的に休みボケか? と思ったものの、俺はようやくそこで思い至った。

 

 ……なるほど。

 真桐先生はあの少女趣味の可愛ら……やや威厳にかける自分の趣味を、決して口外しないように言いたいのだろう。

 

 頬を膨らませて俺の方をじっと見ている真桐先生をまっすぐに見る。

 う、と動揺する彼女に、俺は答える。


「心配しなくても大丈夫すよ。俺は、素面の時の真桐先生に、ちゃんと敬意を払っているんで」


 俺は真剣にそう言った。

 その言葉を聞いた真桐先生は……なぜか、「何言ってんの、こいつ?」と言いたげな表情をしていた。


「……こういう時、なんて言えばいいのかしら? ……まぁ、私もぼろを出してしまいそうだし、そういうことで良いわ」


 ふぅ、とため息を吐いてから、真桐先生は諦観を滲ませながら、言った。

 俺が自分のコミュ障っぷりをその反応から再確認していると、


「……今のところは、ね」


 どこか不服そうにそう呟いた。

 どういうことだろうかと思っていると、彼女は真直ぐに俺を見てから言った。


「高2の二学期。高校生活も、いよいよ折り返しね」


「そうすね」


「私は、あなた……たち、生徒みんなが充実した、有意義な学校生活を送れるように、全力でサポートしたいと思っているわ。だから、悩み事や相談したいことがあれば、いつでも言いいなさい。きっと、力になって見せるわ。……あなたが、私にそうしてくれたように、ね?」


 穏やかに笑う真桐先生。

 その表情がとても綺麗で、俺は思わずどきりとしてしまった。

 

「……言われるまでもなく。頼りにしてるんで、これからもよろしく頼みます」


 俺が答えると、真桐先生はぷいと視線を逸らした。

 それから、照れくさそうに髪の毛を指先で弄る。


 夏休み、俺は真桐先生が父親に本心を言う手伝いをした。

 それを、律義に恩だと感じてくれているのだろう。


 全く、そんなことじゃ返しきれない程、俺は真桐先生に恩があるのだから、気にしなくても良いのに。

 そう思いつつも、彼女の言葉が素直に嬉しい俺なのだった。


「それじゃ、もう私からの話はお終いよ。折角始業式で午前で帰れるって言うのに、放課後に呼び止めてしまって悪かったわね」


 ふぅ、と一度深呼吸をした真桐先生が、普段の凛々しい表情を浮かべて、そう言った。


「いや、俺も真桐先生に挨拶できてよかったす」


「そう言ってもらえると、教師冥利に尽きるわ」


 互いに目を合わせ、クスリと笑い合う。

 きっと、彼女との話はこれで終わりだ。

 結局は「二学期も変わらず頼りにしてね」と言いたかったのだろう。

 わざわざそんなことを言ってくれるなんて、本当に良い先生だなと俺は思った。


「それじゃ、俺は失礼しますんで」


 そう言ってから立ち上がり、真桐先生に背を向けた。

 背後から、「ええ、また明日」と真桐先生の声が聞こえた。


 

 こんなこと、当たり前の教師と生徒の会話だ。

 ただそれだけのことなのに。

 俺にはなんだか、無性にくすぐったく感じるのだった――。


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