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夏祭り

 真桐先生の背中を見送った後。


「もう、優児先輩っ! 急にいなくなっちゃったから、心配したんですよ!?」


 非難めいた視線を俺に向けながら、冬華がそう言った。


「悪いな」


 心配をしてくれた冬華に向かって、俺は素直に謝る。

 むー、と怖い顔をして俺を見てから、


「……でもまぁ、こんなに人が多くっちゃ仕方ないですよね。また離れ離れになっても困りますし」


 そう言って、えいっ、と俺の手を取った。


「これでもう、はぐれることはありませんね!」


 ニコニコと笑顔を浮かべながら、俺の手に、指を絡めてくる冬華。

 日が落ち、周囲は暗いのだが、それでも彼女の顔が赤いのが分かる。


 ……恥ずかしいのを我慢してまで、俺を惚れさせたいのか。

 俺は気恥ずかしくなりながらも、感心する。


「……と、冬華ちゃんズルい!」


 すると、夏奈がそう叫んでから、俺と冬華がつなぐ手に向かって、何度もチョップを繰り出してきた。


「……恋人同士のイチャイチャを邪魔するとか、チョーあり得ないんですけど?」


 イラっとした様子の冬華が、夏奈に向かって言った。

 ちなみに、俺もちょいちょい痛い。


「悪い、夏奈」


 俺がそれだけ言うと、夏奈は恨めしそうに俺を見てから、ため息を吐いた。


「……分かった。今日は、我慢するね」


 残念そうにそう呟いた夏奈。

 ……彼女の好意を知っているだけに、胸が苦しくなる。


「……先輩っ!」


 冬華はといえば、潤んだ眼差しで俺を見つめ、それからぎゅっと握った手に力を込めてきた。

 

 ……とんでもないあざとさだった。


「さて、優児とも合流したことだし、屋台でも見て回るか」


「そうですね。花火まで、まだ時間もあることですし」


 俺たちのやり取りを見ていた、池と竜宮が、俺たちに向かってそう声をかけた。


「いきましょっか、先輩っ!」


 明るく言った冬華に、俺は頷いた。





 それから、俺たちは祭を見て回る。

 

 

「先輩、私あれ欲しいです!」


「……これが欲しいのか?」


 冬華のリクエストを受け、射的で謎のキャラクターのストラップを打ち落としたり。 



「はい、先輩。あーん」


「いや、自分で食うって。熱いから」


 屋台で買ったタコ焼きを食べさせられそうになったり。



「うわ、先輩それどうしてるんですか? ごめんなさい先輩……正直それは凄すぎて逆にキモいです」


「……キモイとか言うなよ」


 初めてした型抜きで、難易度の高いものを完成させて冬華にガチでひかれたり。

 

 

 友人と過ごす初めての夏祭りを、俺は満喫していた。


 ……しかし。


「葉咲さん、顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」


「う、うん。ごめんね竜宮さん。大丈夫だよ」


 夏奈は、二人で楽しむ俺と冬華を見て、気落ちした表情を見せていた。

 心なしか、その足取りもふらふらとおぼつかない様子だ。


「先輩、今度はあっちを見てみましょう!」


「お、おう」


 屈託なく笑う冬華に手を引かれ、俺は彼女とともに次の出店に向かうのだった。





 それから出店を回ってから、しばらく経ったころころ。

 夏奈が俺たちから遅れがちになっていることに気が付いた。

 

「……ホントに大丈夫か?」


「う、うん。大丈夫だよ! ……ちょっと、お手洗い行ってくるね」


 夏奈は努めて明るくそう言った。


「それなら、ここらへんで待っておくから」


 池の言葉に、夏奈は頷いた。

 俺たちから離れる彼女を見て……俺は気が付いた。


「俺もちょっとトイレに行ってくる」


 そう言ってから、俺は冬華から手を離す。


「……はーい」


 冬華が俺に向かって、どこかムスッとした様子で応えた。

 俺は苦笑を浮かべてから、夏奈の後を追った。





「夏奈」


 俺は後ろから、夏奈に声をかけた。

 夏奈は振り返ってから、弱々しく微笑んだ。


「どうしたの、優児君? ……私と、二人っきりになりたかったの?」


 揶揄うようなその言葉に、俺は一言返す。



「足、見せろ」



 夏奈は俺の言葉を聞いてから、呆然としてから――。













「えええええぇぇぇぇぇぇぇっっ!!?!」













 と、驚きの声をあげ、顔を真っ赤にした。


「どうした?」


「『どうした?』 じゃないよ! ゆ、優児君こそどうしたの? え、もしかして私に……」


 それから、ごくりと唾を飲み込んでから、俺を上目遣いに伺ってから彼女は言った。



「エ、エッチなこと……、したいのかな?」



 ……何言ってんだ、こいつ?

 そう思ってから、俺は自分が何を言ったのか、気が付いた。


「違うぞ。……下駄、履きなれていないんだろ?」


 俺は、勘違いをした彼女に向かって、冷静にそう告げた。

 それから、彼女はなんだか複雑そうな表情を浮かべてから、


「優児君のバカ。……エッチ」


 と、唇を尖らせて言った。


「いや、エッチではないだろ。……あっちのベンチ、ちょうど空いているな」


 俺はそう言って、ベンチに向かって歩こうとしたが、唐突に、夏奈が寄りかかってきた。


「どうした?」


「……足、痛いから。支えてて欲しいな?」


 心細そうに、彼女は囁く。

 俺は、言われた通りに彼女の身体を支えて歩く。

 

「……好き」


 夏奈がそう呟いたのは聞こえたが、俺は聞こえなかったふりをして、彼女をベンチにそのまま座らせた。


「聞こえていたくせに。……バカ」


「聞こえている。だけど、悪い。夏奈が望む答えは、言えない」


「知ってる。……だから、バカって言ったんだよ」


 切なそうな夏奈の言葉に、俺は苦笑を浮かべることしかできない。

 それから、彼女の足に目を向けて、下駄を脱がせた。


「……んっ」


 艶かしい呻き声を、夏奈があげる。


「……変な声、上げないでくれ」


「だ、だって! ……くすぐったいんだもん」


 照れくさそうに、夏奈は反論した。


「……やっぱり、腫れてるな」


 彼女の足先は、俺の予想通り赤く腫れていた。

 祭りの最中、浮かない表情を浮かべていたのは、このせいだろう。


「痛かっただろ?」


 俺が問いかけると、夏奈は黙って頷いた。


 俺は黙ってポケットから絆創膏を二枚取り出す。

 保護フィルムを剥いでから、鼻緒が接する部分に貼り付けた。


「用意、良いね」


「……そうだな」


 冬華や夏奈が下駄を履いていた場合、役に立つかと思い持ってきていた。

 ……かなりネットで調べていた。


「それって、……冬華ちゃんのため、だよね?」


「……そうだ。冬華は履きなれているサンダルを履いていたから、出番はなかったけどな」


 別に冬華のためだけというわけではないが……俺はそう答えた。


「……冬華ちゃんはきっと、こういう風に優児君に迷惑を掛けたくなかったんだろうな。……そういうところもさ、すっごく可愛いよね」


 夏奈の言葉に、俺は反応をすることができない。


「私は、優児君に可愛いって思ってもらいたかったから、無理して下駄を履いてきちゃったけど。……こういう風に迷惑を掛けちゃうんだったら、ダメじゃんね」


 寂しそうなその言葉に、俺は胸が苦しくなる。

 こんな俺なんかのことを好きになってくれた、優しい夏奈が落ち込んでいるのを見るのは……嫌だと思った。


「俺が言ったら、ダメなんだろうけどさ。……夏奈みたいな素敵な女子に好きになってもらえて、俺は嬉しい。それに、俺たちは友達だろ? 迷惑だなんて、思わないっての」


 俺は、ベンチに腰掛ける夏奈と目を合わせながら、そう言った。


「優児君……」


 彼女は切なげな声を出してから――。

 俺の頭を掴み、髪の毛を乱暴にくしゃくしゃとしてから。

 優しく、俺の頭を撫でた。


「今の堂々としたキープ宣言。……一周回って、カッコ良かったかも」


 クスリと笑ってから、俺の耳元で囁く夏奈。

 そういうつもりではない、と言っても。信じてもらえはしないだろう。

 だから俺は、口を噤んだ。


「冬華ちゃんにはまだ勝てないけど。いつか絶対、振り向かせるから」


 俺の頬に両手を添えてから、彼女は真直ぐにこちらを見てくる。


「……覚悟しててね、優児君?」


 かつて俺に宣言した時よりもなお力強く言った夏奈に。


 俺はしばし、見惚れるのだった――。

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