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秋祭り

 混雑した駅の改札近く。

 今日は、以前冬華や池、竜宮と一緒に行こうと約束していた、花火大会の日だ。


 俺は、待ち合わせ場所に一足早く着き、スマホでラブコメ漫画を読み、ヒロイン全員可愛いけど、やっぱり体育会系が一番かわいいな、と思いながら待っていると、不意に俺の袖がちょいちょいと引っ張られた。


 振り返ると、そこには笑顔を浮かべる冬華がいた。

 彼女は、大人っぽくて清楚な印象を受ける浴衣を身に着けていた。

 それがとてもよく似合っている。


「お待たせしました、先輩! 結構待ちましたか?」


「俺も来たばかりだから、そんなに待っていない」


「よかった! それじゃ、早くお祭り会場に行きましょうか?」


 と俺の手を引こうとする冬華に……。


「冬華ちゃん、今日はみんなでお祭り回る予定なのに、抜け駆けしちゃだめだよ?」


 と、彼女の後ろから顔を出した夏奈に、そうたしなめられた。

 見ると、明るい色と華やかな柄の浴衣を着こなす夏奈がいた。

 

 その後ろには、池と竜宮もいた。

 池は爽やかに手を上げ、「よう」と声をかけ、竜宮は無言のままこちらに会釈を一つしてきた。


「……優児先輩、大丈夫ですか? 最近、胸の大きな女に、ストーカーされてないですか? 私、心配です」


 気遣うような視線と声音で、冬華が俺に問いかけてくる。


「悪い、夏奈のことも誘っていた。……また、冬華には言い忘れていたな」


 この間の夏奈の誕生日。

 彼女のことだけ夏祭りに誘わないのも悪いなと思い、別れ際に誘っていたのだが、そのことを冬華には報告していなかった。


 不愉快な表情を隠しもせずに、冬華は俺を黙って見てきた。


「最近、優児くんは積極的に私の好感度を稼いできてるから……冬華ちゃん、本格的に飽きられちゃったのかもね?」


 と、笑顔を浮かべて夏奈は言う。


「えー、葉咲先輩自分がおだてられてキープされてるだけなのに、分かってないとかちょーカワイそーなんですけどー」


 冬華も、満面に笑みを浮かべながら言った。

 いつも通りの応酬を尻目に、俺は池と竜宮に、ここからの移動を提案しようとするのだが。


「その、会長。……私の浴衣姿、変ではないでしょうか?」


「ああ、変じゃない、良く似合っていると思うぞ」


「そ、そうですか。……そうですか」


 彼らは取り込み中のようだった。

 池の言葉に、竜宮は顔を真っ赤にしていた。

 確かに、浴衣姿の竜宮は綺麗だった。

 ……胸が小さいほうが、浴衣は似合うって言うしな。


「友木さん、何か?」


 そして、間髪入れずに俺を睨む竜宮。俺が失礼なことを考えているのを、見抜いたのだろうか?


「何でもない、そろそろ会場に移動しよう」


「そうだな」


 俺の言葉に、池は頷いた。

 それから、未だに言い合っている冬華と夏奈と、竜宮も一緒に、会場へと移動をした。





 花火大会が始まるまで、時間はまだあるのだが、それでも大変な混雑だった。

 集団行動が苦手な俺は、油断したらすぐにはぐれてしまいそうだ。

 そう思っていると……。



 早速はぐれた。



 ……油断はしていないつもりだったが、人が多すぎて無理だった。

 あっという間に離れ離れになり、孤立してしまった。


 俺は溜息を一つ吐き、スマホを取り出す。

 すでに、冬華から連絡が来ていたようだ。


『先輩、今どこにいるんですか??』


 向こうも俺を探しているようだ。


『すまん、はぐれた。どこかで落ち合おう』


 俺がメッセージを返信すると、すぐに冬華から連絡が返ってきた。

 そして、場所を指定して、落ち合うことに。


 俺はスマホをしまってから、目的地に向かおうとする。

 だが、そこで見覚えのあるえらい美人を見つけた。


「あれ、真桐先生?」


 その美人、真桐千秋先生に声をかけた。

 俺に急に声をかけられて、驚いたのだろうか。どこかソワソワした様子の真桐先生。


「と、友木君……。こんばんは。こんなところで会うなんて、奇遇ね」


 真桐先生は、どこか恥ずかしそうに頬を赤らめてから、俺に向かって言った。

 

「そうすね。しばらくぶりっす」

 

 真桐先生と直接会うのは、一緒に彼女の実家に行った時以来だった。

 しかし、連絡自体は割と頻繁に取っているので、意外と久々な実感はない。


「ええ、そうね。……池さんと一緒に来たわけではないのかしら?」 


「冬華や池たちと一緒に来てたんすけど、人ごみが凄いんで。あっという間に、はぐれました」


「そ、そうだったのね。確かに、人が多すぎるわね」


 と、どこか嬉しそうに真桐先生は言った。

 俺が一人ぼっちで祭りに来たわけじゃないことを、喜んでくれているのかもしれない。


「そういう先生は、どうしたんすか? ……一人すよね?」


 俺は、真桐先生を改めてみて、問いかける。

 彼女は、落ち着いた雰囲気の浴衣を身に着け、普段はおろしている髪を纏めている。

 とても綺麗で、良く似合っている。

 

 こんなに綺麗な人が夏祭りに来ていたら、彼氏とデートに来たと思うのだが。

 真桐先生にそういう相手はいないからな……。 


「一人よ。悪いかしら?」


 ムッとした表情を浮かべてから、彼女は俺に問う。


「いえ、滅相もない」


 そう答えた俺を半眼で睨みながら、彼女は口を開いた。


「……ウチの生徒が羽目を外して非行にはしらないか、若手の先生で別れて見回りをしているのよ」


「休みの日まで、お疲れさんすね」


 教師って、本当に大変そうだなと、俺は思った。

 

「そう言ってもらえるだけ、私はきっと幸せ者よ。……池さんたちと離れたままでは、良くないわよね? 一緒に探すのを、手伝うわ」


 穏やかに微笑みながら、真桐先生は言った。


「大丈夫す、連絡は取ったんで。これから合流するところです」


「……そ、そうだったのね」


 明らかに、シュンとして肩を落とす真桐先生。

 ……もしかしたら、一人で夏祭りにいるのもつまらないのかもしれないな。

 そう思って、俺は口を開く。


「やっぱり、俺が一人でいたら周囲に威圧感をまき散らしてしまうんで。真桐先生、よかったら一緒にいてもらってもいいすか?」


 俺の言葉に、真桐先生はぱぁっと顔を明るくしてから、すぐにプイとそっぽを向いた。

 それから、ツンとすました表情を浮かべてから、彼女は言う。


「ええ、任せなさい」


「お願いします」


 俺が苦笑しつつ言うと、彼女は今度は「あ……」と声を漏らした。


「どうしたんすか?」


 俺の問いかけに、心配そうな表情を浮かべてから、彼女は言った。 


「もしも他の生徒に会ったら。生徒と教師で夏祭りに来ていると、何か誤解を受けるかもしれないわね……」


「それはないと思うんすけど。ウチの生徒なら、俺が悪さをしないように、真桐先生が見張っているって思うんじゃないすかね?」


「……それなら、全く関係ない人たちから見たら、どう思われるんでしょうね?」


 どこか不服そうな表情を浮かべて、真桐先生は問いかける。


「多分。悪漢に絡まれる美女、と思われるんじゃないすか?」


 おそらく、他の人たちが思うだろうことを、俺は言った。

 真桐先生は、つまらなさそうに俺を見た。

 

 それから、クスリと笑みを漏らしてから。


「……そう。美女って言ってもらったのに、複雑な気分だわ」


 彼女は、優しく微笑んでから、照れくさそうに言ったのだった。




 

 それから、真桐先生と他愛のない話をしながら、冬華たちとの合流場所に辿り着いた。

 その場にはすでに全員が揃っており、無事に合流をすることができた。


「すまん、待たせた」


 俺が皆に向かってそう言うと、


「え、あれ? 真桐先生? どうして先輩と一緒にいるんですか??」


 俺の隣にいる真桐先生に、冬華が問いかけた。


「ウチの生徒が羽目を外して非行にはしらないか、見回り中よ。友木君があなたたちと一緒に来ているって聞いたから、一応注意をしておこうと思って、ついてきたのよ」


「えー、そうだったんですね! 先生、すっごく綺麗だから、てっきり彼氏とデートとかしてる途中かと思っちゃったんですけど、大変ですね」


 冬華が一点の曇りもない笑顔を浮かべて、真桐先生に向かって言った。

 ……うっ、と顔を引きつらせた真桐先生。

 

「い、いえ……。仕事だから、仕方ないわ」


 彼氏がいないことは言及せず、真桐先生は動揺を抑えつつそう言った。


「折角の夏祭りに、彼氏とデートできないとか、ちょーカワイそー。私、先生には絶対ならないですー」


 ……もうやめてくれ、冬華。

 真桐先生のライフは、とっくに0なんだ……。


 口元を引き攣らせて、ショックを受けた様子の真桐先生。


「……私は見回りを続けるから。繰り返すけれど、羽目を外しすぎないように、気をつけなさい」


 フラりとした足取りで、真桐先生は来た道を引き返そうとした。

 ……そして、すれ違いざま。

 彼女は、俺にだけ聞こえる様に、こっそりと耳打ちをしてきた。


「せっかくのお祭り。みんなと楽しみなさい」


 それから一度振り返り、彼女は優しく笑った。

 その美しい笑顔に、俺は一瞬見惚れてから。


「……うす」


 ただ一言応じて頷く。


 俺の反応を見た真桐先生は、満足そうに微笑んでから、雑踏に紛れていくのだった――。


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