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10、お昼ご飯

 自販機で紙パックの飲み物を購入してから、


「今日は天気も良いですし、中庭で食べましょうか」


 と、冬華が提案した。

 俺は彼女の言葉に頷いた。そして、二人並んで中庭まで移動をした。


 昼休みの中庭では、数組の恋人だろう男女が仲睦まじく昼食をとっていた。

 

「え、ちょっとなんで友木がいるのよ」

「おい、やべぇって、とりあえず移動しようぜ」


 ……が、俺の顔を見てそそくさと逃げていった。


「わー、中庭貸切! 流石は先輩ですね、一睨みで有象無象を追い払うなんて!」


 喜びの声を上げる冬華。


「睨んでねぇよ、普段からこんな顔だよ」


「えへ、知ってますよ♡」


 と、からかうように言ってくる冬華。

 ここまで開き直って言われると、腹も立たないのが驚きだ。


「さて、ベンチも空いていることですし座りましょっか」


 そう言って、冬華は一番近い中庭のベンチに腰掛けた。

 俺も、彼女の隣に座る。


「私の~ミックスサンド! ……え!? 先輩、三つもパン食べるんですか!!?」


 手に持ったビニール袋から、ミックスサンドを取り出した冬華は、まだ中にパンが三つも残っていることに驚きの声を上げた。


「食うぞ。というか、冬華こそそれだけで足りるのか?」


「足りますよー! 体育がある日は、もうちょっとほしくなるかもですが」


 そう言ってから、サンドイッチを一口齧る冬華。


「ふーん、そんなもんか」


 と、俺は答えてから、焼きそばパンを頬張る。


「……あっ! もしかして今のあれですか? 私にお弁当作って欲しいって話だったんですかね??」


 唐突に、冬華は俺に向かって困ったように問いかけた。


「そんなつもりではないが、どうしてそうなった?」


「『ミックスサンドだけで足りなければ、弁当を作ってくれば良いのに。あ、一緒に俺の分も作ってくれよ!』って、言いたかったんですよね?」


 冬華の推測がぶっ飛びすぎていて、俺は言葉を失った。


「いやー、流石にそれは欲張りすぎですよー、先輩? 私のような美少女と一緒にお昼ご飯を食べられるという幸せだけで十分じゃないですかー?」


 すました顔で、冬華は言った。

 こいつのこの自信は一体どこから来るのだろうか。


「あー、それは残念だな」


 めんどくさかったので、俺は否定も肯定もせず、そういうことにした。

 すると、明らかに機嫌が良くなった冬華。


 おだてたら調子に乗るタイプなのかもしれない。


 その後も雑談を交えながら昼食をとっていたのだが。


「それにしても……いい加減、うっぜ―ですね」


 と、辟易した様子で、冬華は呟いた。


「まぁ、確かにうっとおしいな」


 俺も冬華の言葉に同意する。

 それというのも、校舎の窓から中庭を見下ろす生徒の視線が気になるからだ。

 あからさまに見られているわけではない。

 ただ、チラチラと何度も、そして何人からも視線を送られると、非常にストレスを感じる。


「あー、うっざい。暇なんですかね、あいつら」


 冬華はうんざりしたように、そう吐き捨てた。


「俺が可愛い後輩女子と一緒に居るのが、珍しいんだろ」


 俺が言うと、冬華はポカンとした表情になった。


「……何、どうした?」


「いや、先輩が今ナチュラルに私のことを口説き始めたので、油断も隙もないなー、と思っただけですよ?」


「口説いてねぇよ、ただ外見は文句なしに可愛いだろ、って言っただけだ」


「ほら、やっぱり口説いてるー!」


 やーん、先輩だいたーん♡と嬉しそうに笑う冬華。


 その笑顔を見て、人の話は聞かないし、口は悪いし態度も悪いし腹黒だけど、それでもやはり外見は文句なしに可愛らしいな、と思ってしまったのが悔しかった。


「それにしても、好奇心だけでなく、むき出しの敵意も感じるんだよなー」


 おかしそうに笑い続ける冬華を無視して、俺は自分に向けられる視線に居心地の悪さを感じて呟いた。


「敵意ですか? へー、私は分からないですけど」


 きょとん、とした表情で冬華は意外だとばかりに言った。


「冬華に惚れてるやつが、俺に対して逆恨みしてるのかもな」


「先輩に喧嘩を吹っ掛ける度胸がある男子だったら、ちょっとは興味があるかもしれないです」


「そうか、そういう有望そうなやつがいたら、すぐに知らせるようにするよ」


 真面目くさった表情で言った冬華に、俺は肩を竦める。


「いないと思いますけどねー。先輩、一年の間でもかなり怖いって、すでに噂されていますし」


 紙パックのジュースを飲みながら、冬華は何とはなしに言うのだが……。

 まじか、入学してから一週間足らずで、下級生からビビられてんのか、俺。


「……凹んでるんですか?」


「少しだけな」


「……ほんとに少しだけですか?」


「ホントだよ」


 後輩に怖がられているという事実に、多少は凹むものの、実際それはいつものことだ。

 それよりも、冬華のように怖がりもせずに話しかけてくれる後輩ができたことの方が、俺にとってはよほど重要なことだった。


 俺の答えに納得をしたかどうかは分からなかったが、彼女はからかうわけでもなく、ただ「ふーん」と呟いただけだった。


 その後も、何気ない会話をしていると、あっという間に昼休み終了の予鈴が鳴った。


「あ、もう時間ですね。それじゃあ、放課後会いましょー!」


「放課後に会う? ……何かすんの?」


 その言葉に、俺は素で聞き返してしまった。


「一緒に帰るに決まってるじゃないですか! 私と先輩が恋人だと、周囲に広くアピールを行わなければならないので!」


「お、おう。そうだったな」


 全く恋人感がないので、改めて言われなければ、忘れそうになってしまう。

 ていうか、忘れていた。


「それじゃ、教室に戻りましょっか」


「おう、そうだな」


 冬華はベンチから立ち上がり、俺も頷いた。

 

 冬華の隣を歩きながら、池以外から放課後の予定を抑えられるなんて、初めてかもしれない、と気づいた俺は、なんとなく嬉しくなるのだった。


 

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