1、友人キャラの俺がモテるわけないだろ?
俺の中学三年間は……いや。中学までの15年間の人生は、紛れもなく最悪だった。
生まれつき悪い目つきのせいで、怖がられるか、嫌われるか、理由もなく目の敵にされるか。
とにかく、他人から好意を持たれて接されることが極端に少なかったのだ。
そんな俺だったから、正直言って「高校生になれば、何か変わるかも」なんていう高校進学前の青少年にありがちな淡い期待は、それはもう全くもっていなかった。
その予想は、半分当たり、半分外れた。
高校に進学しても、多くの人間は俺を理由なく軽蔑し、忌み嫌い、避けた。
そんな敵意を向けられるのは、慣れっこだ。
「まぁ、こんなもんだよな」
そう思っただけで、驚きもしなかった。
……しかし、それだけじゃなかった。
「おう、せっかく隣同士になったんだから、良かったら放課後一緒にマックでも寄ってかね?」
屈託のない笑顔で俺に話しかけたのは、一言で表すと……物語の主人公だった。
容姿端麗、文武両道。
街を歩けば芸能事務所にスカウトされ、学力テストをすれば必ず一位。
運動神経抜群で、生徒会所属にも拘らずどんなスポーツも本職の運動部に負けることがない。
そんな完璧超人なわけで、どんなお高くとまった野郎かと思いきや、誰にも分け隔てなく接し、弱きを助け強気を挫く正義漢だった。
この男は、誰もが憧れ慕う、本物のヒーローだった。
そんなわけで、池はモテる。
めっぽうモテる。
アイドル級に可愛い幼馴染は常に池とともに行動しているし。
所属する生徒会の顧問の若くて綺麗な先生にも一目置かれ、頼りにされている。
そして、物語の主人公にはお約束だろう。
超絶可愛い妹がいて、華やかな容姿とコミュ力と学力で学内カースト最上位に君臨している。
他にも周囲には、芸能人すら霞むレベルの美女や美少女が集まり、当然のように彼を慕う。
つまり。
知れば知るほど、この男――池春馬は、主人公なのだった。
ここまでの差を見せられれば、ムキになることもない。
ああ、こいつはすごい奴なんだと心底理解する。
否応なしに負けを認めてしまうのだ。
そして、いつしか。
俺は池の友人キャラであることを、誇りに思うようになっていた。
他の連中が、どれだけ俺を嫌おうと関係ない。
池という友人が、俺のことを理解してくれるなら、それで構わない。
主人公にだけ理解されるなんて、ちょっと美味しい役どころだとすら思えてくる。
……だから、俺の高校生活は。
普通に考えれば平凡未満の不出来な俺の高校生活は。
そう悪いもんじゃない、と。
主人公の池春馬のおかげで思えるようになったのだ。
☆
……そして、無事に二年に進級することができた俺に、友人キャラにあるまじきイベントが起こってしまった。
「先輩っ。私と恋人になってくれませんか?」
目の前にいるのは、肩程の長さの髪の毛を茶色に染め、自らを華やかにメイクで飾る、少しギャルっぽいが掛け値なしの美少女。
そんな彼女に、なぜだか俺は告白をされていた。
「は?」
目の前の少女の言葉を、聞き間違いだと思った俺は、呆けたように声を漏らした。
だって、そうだろ?
嫌われ者の俺に、美少女から告白されるという美味しいイベントが起こるわけがない。
そういうのは、完璧主人公の池にこそ相応しい。
「もう一度言わせたいんですか? 意地悪な先輩ですね。……私と、恋人になってくれませんか?」
大人びた微笑みを浮かべて、一度目と同じ言葉を繰り返したその少女は――。
この世界の主人公である池の妹であり、彼女自身も学内カースト最上位に君臨する妹系ヒロイン。
池冬華だった。