異世界転生した先がユートピアだった件
うーん・・・。
はっ!
俺は目を覚ました。
「こんにちは」
「うわ! あんた誰?」
「私の名前はユーシア」
「えーと、何人?」
「ユートピア人です」
「ユーロピア? 缶コーヒーに関係する・・・」
「違います。ユートピアという国名です」
「日本語しゃべってるけど」
「日本語? 知りません。これはユートピア語です」
「あっそう・・・あ、ところで俺の名前は月橋洋介っていうんだけど」
「そうですか。ヨースケ。ユートピアへようこそ」
「へー」
俺は歩みを進める。典型的な中世ヨーロッパ風の実はJRPGファンタジーかと思いきや、意外にSFちっくな光景が広がっている。ちょっとアート系のRPG世界だろうか?
「で、さ、さっそく聞きたいんだけど」
「はい?」
「俺のチート能力って何?」
「ちーと?」
「そうそう。なんかステータスマックスとかさ、魔法が俺には通用しないとか、なんかそういうのあるんしょ?」
「ありません」
「そうかーついに俺も眼光だけで街を薙ぎ払える…え!? ない!?」
「はいありません。というか魔法もありません」
「ま、魔法がない・・・だと?」
どういうことだ? ソード〇ート的なあれか?
「じゃ、じゃあ俺だけすごい剣術の達人とか」
「いいえ」
「じゃあ、どうやって敵を倒すんだよ! 俺だけ弱いとかいやだよ!」
「安心してくださいヨースケ。この世界に敵はいません」
「へ・・・?」
「だから戦う必要もないのです」
「戦う・・・必要が・・・ない?」
「はい。暴力とは無縁の世界です」
「暴力と・・・無縁・・・」
「はい。それともヨースケは痛い思いをしたいのですか?」
「い、いやそういうわけじゃないけど」
「自分のわがままを通したいのですか?」
「わ、わがままじゃなくて、その、悪い奴が街を襲うとか・・・そういう理由があって」
「それならば、あなたは元の世界でそのような悪に戦いを挑んでいましたか? たとえば市民の権利を行使していましたか? もしくは警察や検察など? 都会の悪党や、学校、社会のいじめっこに立ち向かっていましたか?」
「い、いやそんなことはしてない・・・というか、不良にすら目をつけられるのも怖いよ・・・」
「そうでしょう。ならば、あなたは過大な妄想を抱くのはおやめなさい。まして魔法的能力に頼ろうなどと・・・もう少し大人になりましょうね」
「あ、はい・・・」
たしなめられてしまった。
これじゃあ俺が子供みたいじゃねえか。くそ。
なんかマウント取ってやろう。
「あー・・・ん・・・ところでユーシアさんはどんな仕事してんの? 給料は?」
鉄板の質問だ。給料の額が低ければそのままディスって、高ければ嫌味を言える。
まあ少し可哀そうだが、俺も一回ぐらいマウント取っとかないと、気分わりぃしな。
「仕事はしてません」
「え・・・」
ぷぷー!! きたよ! ニートかよ! ボケ! ニートの分際で俺に説教こいてやがったのか!?
「に、ニートっすか! ははは! いやすんません思わず笑っちゃいました。それじゃあ大変っすね」
「何が大変なのでしょう?」
「え? それ言わせるんすか? ははは。だって、買いたいもんも買えないし、何より周りから馬鹿にされるっしょ」
「買う? ですか?」
あーあー。オウム返しきたよ。言葉につまっちゃった。俺のマウント完了。レスバトル勝利っと。
「いや、だから、あれ? もしかしてナマポっすか? ナマポ的な? この世界にもそういうのあるんすか? それとも、養われてるんすかね?」
「あなたが何をはしゃいでるのかは分かりませんし、何を言っているのかもわかりかねます」
「だからー、いくらお金もらってると言っても高いもの買えないでしょ~」
「この世界にお金は存在しません」
「は・・・?」
「この世界では労働から解放されてます」
何言ってだこいつ。
「労働がないって・・・あるでしょ? 少なくとも農家的な」
よくわかんねえけど、異世界小説では、よくなんか畑作ったりしてるよな。
「大根とか・・・作ってんじゃねえの?」
「もちろんです。しかし、それはすべて機械が行っています」
「へ、へー」
マジもんのSFじゃん。
どーしよ。俺、そういうのよく分かんねんだよな。
「じゃーモノを買うときってどうしてんの? いくら?」
「無料です」
「なるほどなあ」
「ここが私の家です」
「へー。なかなかこじんまりとしてるけど、よさそうなところじゃん」
「今日はここに泊まってください。あなたの公共住居は明日手続きされます」
「あ、じゃあトイレ借りていいっすか?」
「どうぞ。こちらです」
俺はトイレに向かう。
そこに大きなガラスがかけられている。
俺は目を疑った。
洋服はユーシアの来ているような一面が白の服で、緩やかなシャツとズボン。これはさっきから知っている。
そうではない。
あまりにもナチュラルだったから気づかなかったが、俺は現実世界のデブのままだった。顔はお察し。
俺はしょんべんも忘れてユーシアの元に駆け戻っていた。
「ちょっと、ユーシアさん!」
「もう終わったのですか?」
「そうじゃなくて! 俺‼ 顔‼ 身体!」
「どうかしましたか?」
「変わってないんだけど! 俺、すげえイケメンていう調子でユーシアさんに話しかけてたんだけど!」
「いえ、最初からその姿でしたよ?」
「すっげえ恥ずかしい!」
リアルの顔でマウントとか取ろうとしてたの俺!?
恥ずかし!
「人の姿はみなそれぞれが個性ですよ」
「え・・・?」
「だからヨースケの姿を気に入る人もいるかもしれません」
「う・・・」
「う?」
「嘘だ!」
「じゃあ嘘でもいいですけど」
「嫌だ!」
「困りましたねえ」
「だ、だって俺、こんなんですよ?」
「どうしたというのでしょう?」
「デブだし、不細工だし・・・」
「そうでしょうか? 確かに少し太り気味ですが、痩せればいいでしょう」
「でも・・・」
「大丈夫ですよ。ここには運動施設もありますし、時間はたっぷりありますから」
「は、はあ・・・」
「それよりトイレは・・・」
「あ、そうだ!」
俺は便所に駆け込んだ。
*
「なるほど・・・」
テーブルをはさんでユーシアさんと俺は座っている。
俺はユーシアさんに話を聞いてもらっていた。
「では、苦労したのですね、ヨースケ」
「はい・・・」
俺は先ほどの非礼を詫びた。そしたら、ユーシアさんが、俺の現実世界でのことを聞いてきたのだ。
俺は大学卒業後、会社に勤めるも、会社は典型的なブラック。
土日も休めない日々。
おまけに通勤電車はきつく、深夜まで続く業務に疲れ果てていた。
こんな世界は嫌だ。
そう強く願うことで、異世界に転生したのだ。
「しかし・・・」
「はい?」
「異世界転生ものというもの・・・よくわかりかねます」
俺は好きな異世界転生もののことも話していた。
「なぜわざわざつらい現実から逃れた先で、また戦うのですか?」
「それはあれっすよ・・・ストレス解消というか、つらい現実を忘れるためというか」
「女の子にモテるのは?」
「それは男の夢なんじゃないですかね・・・」
「現実に女の子と付き合えばいいのではないですか?」
「それができないんですよ!」
「どうしてですか? ヨースケは私ともこうして話してるっていうのに・・・」
「だ、だったら・・・」
「はい?」
「俺と付き合えますか・・・!?」
沈黙。
俺は後悔した。
「ごめんなさい。私は相手がいますので」
「っかーそっすよねーって相手がいるんすか!?」
よく考えりゃそうだ。こんな美人。
「じゃ、じゃあ一緒に泊まるのは・・・」
「ああ、多分そのうちカレが帰ってきますから・・・」
なーんだ。というか、俺、ハーレム脳すぎたな。
「私とは無理ですが、ヨースケが相手を思いやり、愛情をそそげばきっと振り向いてもらえますよ。まだ見知らぬ相手ですがね」
「そ、そっすかねー」
俺はまだこの世界のことがよくわかってないから、そんなこと言われても自信にはつながらなかった。
その後、ユーシアさんの彼氏|(当然イケメンだった。おい!)が帰ってきて、一晩止まった後、俺の公共住居があてがわれた。
一週間がたった。
ここは確かにユートピアだった。
説明する必要のないくらいユートピアだった。
男も女も平等に暮らし、俺が元いたクソ社会とは雲泥の差だった。
「ヨースケ、好きなことに打ち込めばいいんですよ。ヨースケがいた、その奴隷小屋のような生活はもうここにはないのですから」
ユーシアさんはそう言っていた。
俺は今自分で借りた農地で小麦を作っている。(あと大根も。ユーシアさんが種を俺にくれた。気を利かせたつもりなのだろう)
基本的にはロボットが作ってくれるんだが、「有人栽培」は人気なのだ。
借りるのも無償だし、いくら作っても無償で出ていくが、みんな品質や出来栄えを競っているから、俺も色々と学ぶことが多い。
女の子とも普通に話せている。
一体何が違っていたんだろう。
昔は普通にこうやって会話していたはずなのに、気づいたら女子とは無縁になって、変な劣等感を抱くようになっていた。
*
俺とユーシアさんは、カフェで、またテーブルをはさんで座っていた。
俺はユーシアさんとこうして時々会ってたわいもないことを話している。
「っていうわけで、そういう煽情的なものとかが増えてるんすよ」
「そうですか。きっと人々が疲れているのでしょうね。余裕がなければ、考える力も失われてしまいますから」
「確かに、難しい文学とか、読む心のゆとりが失われていった感じがしたっす」
「しかし、本当の世界で、そうしたことが繰り返されれば、その文学ジャンルは閉塞していってしまうでしょうね」
「そうっすね・・・」
「この世界は退屈だったかしら?」
「まあ、多少はそうっすけど、結局、俺にとってはこういう世界のがあってるんで。大体、俺、褒められると結構照れくさいんで、周りから褒められるとか、そういう経験はやっぱりこっちの世界でもないっすけど、まあ別によかったというか。だから、敵とか、チートとか、ハーレムとか・・・まあハーレムは少し」
「ヨースケ」
「いや、冗談っすよ!」
「ふふ。そうね。来た当初のあなたはピリピリしていたけれど、今はだいぶ落ち着いたみたい」
「いやいやあの時のことは本当申し訳なかったっす」
くすくすと笑うユーシアさん。
俺も、それにつられて自然と笑みがこぼれた。