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終幕

雑司ヶ谷に来たのは初めてだった。

どこまでも広大な霊園が広がる風景は、何処か寒々しい。

林立する墓石が、何かを訴えている様で、正直に云うと気味が悪かった。


ひさぎは目を閉じて、父の墓前に手を合わせた。

私はそっと献花すると、同じく瞳を閉じる。




「いつから思い出していたんだい」

墓参りからの帰り道、私はひさぎに尋ねた。

「あの、神社に行った時です。きっとお父様が私に教えてくれたのです」

矢張りそうか、と私は勝手に納得する。


彼女は記憶を取り戻していたのだ。

自分が人間でないと云う事も、父親が自分を匿っていたことも。

全て思い出していた。


藤堂由江という名の人物は、実際に存在した。

無論、藤堂家の一人娘だ。

しかし由江は、幼い頃に病を得て、敢え無く死んでしまった。


其の由江の死体に取り憑いたのが、“生まれ得ざる者”ひさぎだった。


藤堂氏は娘が蘇った物と思って喜んだが、程無くして彼女が人間でない事を知った。

しかし彼は既に、ひさぎを愛していた。

ただ由江の代わりと云うだけでは無く、彼女自身に深い愛情を抱いていたのだ。

藤堂氏は彼女を、藤堂由江として育てた。

そして彼は、“生まれ得ざる者”が存在悪であるという定説を疑った。


どの様な経緯で使用人の上田氏と知り合ったかは解らないが、藤堂氏は人と共生する“鬼”に同情していたのだろう。

上田氏も庇護し、慎ましく暮らしていたのだった。


兄から聞いたのか、其れを知った阿頼耶識の福島が、人間であるにも関わらず“鬼”を擁護した藤堂氏に殺意を持った。

そして藤堂氏と、上田氏を殺害した。


彼は同時にひさぎも狙ったのだった。


藤堂氏が殺された日、ひさぎは福島に遭遇した。

彼女は必死に彼から逃れたが、足を切られて倒れた。

其の時偶然私が通りかかった為、福島は逃亡しひさぎは助かったのだった。


そう、其の時私が視た“生まれ得ざる者”とは、ひさぎを襲った犯人では無く、ひさぎ自身だったのだ。




「お父様は、私が狙われている事に気付いて、私に家から出ない様にと強く云われました」

ひさぎが小さく呟いた。

「でもあの日、何故か突然胸騒ぎがして、思わず外に飛び出しました。そうしたら、突然誰かに襲われて、慌てて逃げて、それから記憶が無くなったのです」

感情を込めずに云ったひさぎは、虚ろな瞳で中空を見た。


彼女はただ、生きていた。

其れなのにどうして、命を狙われなければならなかったのか。


理不尽だ。

人では無いというだけで、私達と何ら変わる事は無いのに。




「巽さん」

横からひさぎが私を呼んだ。

「私は大丈夫です。皆さんの様に、理解してくれる人がいるから」

彼女は僅かに微笑んだ。

「今日はお仙さんが、美味しい料理を作って下さるそうです。さあ、早く帰りましょう」

明るい声でそう云ったひさぎは、私の手を引いた。


この世に絶対の正義など存在しないのです。


いつだったか、所長が云っていた言葉を思い出した。


ならばせめて私は、彼女が笑っていられる世界を守ろうと思った。








10年以上前に小説コミュニティの作れる某SNSに投稿していた奴でした。

女性向けの厨二っぽいキャラがいっぱい出るライトノベルみたいなのが書きたかったようです。

途中から時代がかった感じの文体を意識するのを忘れています。


お読みいただきありがとうございました!

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