第5章:本当の力
病んでます。
第5章
「ん〜…良い天気だ!さぁ〜て、起きてルナ母さんの手伝いでもするかなっ!」そう言うと、ランドはベッドから飛び下りた。
あれから13年と言う月日が流れていた。
ランドは17歳になり、背は伸びて髪もかなり伸びていたが、気にはしなかった。
ランドの二人の兄と一緒に青いバンダナで髪を縛っていた。
まだ、人間を完全に信じきってはいなかったが、ルナの心の広さについずっと居候をして、いつしか"家族"の様になっていた。
「母さん!おはよっ!」
そう言いながら、庭に出るとルナは洗濯物を干している最中だった。
「あらっランドおはよっ!今日は良い天気ね!」と答えて笑う。
「ルナ母さん!俺がやるよ。」とルナから洗濯物を取り上げて代わりに干しだした。
「ルナ母さんは歳なんだから、休んでいなよ!」と言う。
「ったく…この前まで生意気なガキだったくせに…分かったわ。ここは若い人に任せるわ」そう言うと家の中に入って行った。
本当に今日は良い天気だった。
洗濯物がすぐ乾きそうだ。そう思いながら、ぱぱっと片付けて家へ入る。
家へ入ると、美味しそうな匂いが漂ってきた。
ルナ特製スープが机に並んでいた。ランドは空腹を覚え、席に座るとスプーンを使ってスープをがっつき始めた。
もちろん、スープと一緒にネズミを食べる。
この癖(?)は直っていなかった。
兄2人は、20歳を過ぎたので、大きな町へと働きに出ていた。
そして、前の席にルナが座りスープを飲み始めた。
そして、2人はいつもの様に談笑を始める。
これが、毎日の日課だった。
ランドは少し幸せに思った。人間と同じ時を過ごす事が、こんなに楽しい事なのか…と。
そんなある日の事だった。
なんと、久しぶりに兄2人が帰って来たのだ。
ルナは喜び、2人に抱きついた。
それを尻目に、ネズミをがっつくランドを見て2人は笑った。
ランドは、何を笑ってるのか分からなかった。でも、楽しい!これが"家族"なんだと…思った。
翌日、いつもの様に目が覚めた。
そして、いつもの様に庭に出たがルナ母さんの姿が見当たらない。
台所へ行ったが、ルナ母さんもソル兄さんもルル兄さんも居ない。
机の上に手紙があった。
『クルシスの森の湖にいるよ!お前も起きたらこっちへ来いよ!面白い物が見えるぜ!』
とソル兄さんの字で手紙が書いてあった。
ランドは起こしてくれれば良いのに…と毒つくと、家を出て湖に向かった。
「母さん!こっちこっち!」とソルが手招きをしている。
ルナはソルが呼ぶ方へ行くと綺麗な湖が見えた。
「うわぁ〜綺麗!」そう言うと、湖の方へ向かって歩きだした。
今度はルルが呼ぶ。
「母さん!こっちだよ!ここに座って!」と椅子を差し出した。
隣には綺麗な湖。パシャパシャと魚が泳いでいた。
湖の周りには、クルシスの花が四方八方に咲いていた。
ルナは息子達に聞いた。
「ねぇ…湖に連れて来て、今日はどうしたの?」と聞くと、ソルが答えてきた。
「まぁ見ててなって、ランドが来たら、面白いもんが見れるからさ!」
と答えた。
それにしても、気持ちが良い。花の匂いはいい匂いで、風も気持ちが良かった。
3人は、ランドが来るまで談笑をしていた。
湖に行くのは、前にクルシス母さんとロクサス兄…父さんのお墓を作りに行った時以来だった。
母さんと父さんの死体は無かったが―魂が消え光となって消えた為―それでもお墓はキチンと作ってクルシスの花を添えた。
そして、ランドは幸せに暮らしています。と伝えといた。
ランドは、少し走り気味に湖へと向かった。
でも、おかしな事に森から生物の気配が無かったが、ランドは気にも止めなかった。
あの2人の兄が帰ってくるなり、ランドを置いて母さんと出掛けてしまったが、手紙では"面白い物が見れる"と書いてあった。きっと…3人で俺を驚かせたいんだなっ!とランドは思った。
前方から花の匂いが漂ってきた。
ランドは、狼の魂を手に入れてから異様に鼻が効くようになっていた。
湖に着くと、3人が座って話していた。
ランドは、3人に声をかけながら走って行く。
「おぉ〜い!兄貴達!ヒドイじゃん!起こしてくれたって良いじゃ…」と不意に足が痛みを覚えた。
足には獣を捕る用のギザギザが足の肉に食い込み離さない。
ルナが驚き、ランドの方へ駆け寄ろうとするがソルがそれを制止した。
すると周りから、続々と猟師が出てくる。
「えっ?えっ?何これ?」とランドは驚きを隠せないでいた。
ルルはランドに近寄りこう言い放つ。
「この人殺しが!」とランドの顔をおもいっきり蹴り飛ばした。
ソルも近付いてきた。
そして、ランドの腹をおもいっきり踏みつけた。
カハッと息を漏らし、ランドは"く"の字におり曲がる。
周りの猟師達もそれを見てランドを踏みつけた。
ランドは両手で顔をガードしていたが、四方八方から飛んで来る蹴りに耐えられなく両手を広げてしまった。
ソルやルルや猟師達は、構わず蹴り続けた。
ルナが叫ぶのが聞こえた。
「やめてっ!やめてっ!」とソル達を止めようとするが、猟師の一人がルナを捕まえた。
ルナは捕まりながらも、ソル達に聞く。
「何で?何でそんな事をするの?」とルナは泣きながら叫んだ。
するとソルが答えた。
「母さん…コイツは、父さんを殺したんだよ?」と冷たく言い放つ。
ルルも答える。
「俺達、13年前に聞いちゃったんだ。コイツが父さんを殺した!って叫んでるのを…だから、コイツを殺すんだ。面白いだろ?」と笑う。
「そんな…駄目よ!あの人は、ランドの本当のお母さんとお父さんを殺したのよ!先に手を出したのはお父さんの方なのよっ!」と叫ぶ。
しかし、ソルは言った。
「何が"本当の"お母さんだ!ただの狼じゃ無いかっ!こっちは人間だぞ?人間と狼2匹の命の重さで言ったら、人間の方がずっとずっと重いんだよ!」そう言うと、ランドの右手を踏み潰した。
ボキボキと鈍い音が聞こえた。
ランドは声にならない声で叫んだ。
「嫌っ!嫌っ!やめて!もうやめてっ!お願い!もう良いでしょ?離してあげて!」
「うるせぇー!」とルルが叫んだ。
「コイツは殺す!コイツだけは…」とランドに足を振り下ろした瞬間。
ザシュッと鈍い音が聞こえた。
ルルは足に痛みを覚える。
ルルは下を見ると、右足の膝から下が無くなっていた。
後ろで何かが落ちる音が聞こえた。
それは見覚えのある…自分の足だった。
ルルは後ろに倒れた。必至に足を押さえていた。
ランドは静かに口を開いた。
「人間なんか…人間なんか…信じなきゃ良かった。」
ルナが叫ぶ。
「やめてっランド!それ以上言わないで!」
しかし、ランドはやめない。
「人間めっ!人間めっ!何が、人間は狼より大事だ…。俺の家族を奪っておいて…殺してやる」
そう言うと、ランドが狼化してくる。
「うわぁっ!ば…バケモノだ!撃てっ!お前ら撃て!!」とソルが後退りしながら猟師達に叫ぶ。
猟師達は一旦距離を置いてランドに発砲した。
その瞬間であった。
ランドの前に人影が写る。ルナが、ランドの前に立ちはだかる…。
パンパンパン…
ルナはランドの方へ倒れ込んだ。
「か…母さん!」とソルが母の元へ駆け寄ってきた。
「これで…これで……おあいこよ…ソル。確かに父さんを殺したのは、ランドよ…でも…私を殺したのは、貴方達よ……だからコレでおあいこよ…。」
「母さん!駄目だ逝かないでくれっ!母さん!母さん!」ソルは泣きながら、叫ぶ。
猟師達は医者を呼んでくる!と走り出した。
「母さん…」とランドも泣き出した。
「ランドも、この子達を恨まないで……恨まないでもそこで止めるのよ。恨みは…」
「永遠に続くから…」とランドは続けた。
「駄目だ!嫌だ!母さん!嫌だ!」とソルは叫び続けた。
人間を殺すと言うことは、誰かの恨みを買うこと。恨みを買えば、大切な人が居なくなると言うこと。
「母さん…俺…人間を信じるよ!例え汚い人間が居ようとも、俺は最後まで人間を信じる!」
そう言うと、不思議な事にランドの目の色が青く変わっていった。
そして、ルナを優しい光が包む。
見る見るウチに、ルナの体から銃弾が出てきて傷が癒えてきた。
ソルは、光に驚き少し後退りした。
ルナは驚いていた。
体から痛みが引いていく。そして、この優しい光…ランドの気持ちが入ってくる様だった。
そして、完全に傷が癒えたルナは立ち上がった。
「母さん…無事なんだね!良かった!」とソルが駆け寄って来たが、ルナはおもいっきりソルを殴った。
「ふざけるんじゃ無いわよ!アンタ、また私に家族を失う気持ちを与える所だったのよ!」ルナは叫んだ。
ソルは泣きながら、謝って来た。
「ごめんなさい…ごめんなさい…もう2度としません!母さん…ランド…ごめんなさい!」そう言い泣き崩れた。
そして、ルナはランドの方を向いた。
「ランド…ありがとう…色んな意味で…。」
ランドは足の罠を切り刻んだ。そして、立ち上がる。
「いや…礼を言うのはこっちの方だよ。
ルナ母さんのお陰で、人間を信じられる様になった。そして、このウルフにも本来の力が付いたようだよ」
そう言うと、自分の右手と両足を見た。
傷が段々と癒えていく。
ルナはその姿を見て聞いてみた。
「ランドの本当のお母さんの名前を教えてくれる?」
ランドは迷いもせずにただ一言答えた。
「母さんの名前は"クルシス"」




