第3章:お母さん
病んでます。
第3章
遠い意識の中で男の声が聞こえる。
誰の声かは分からないが…。
「ん〜…確かに凄い傷だね。生きているのが不思議なくらいだよ。
脇腹に2発の銃弾が埋め込まれていたよ。それから、頭部は固いもので殴られた後もある。
こんな傷、この子はどこで受けたんだ?」と聞こえる。
すると、ルナの声も聞こえてきた。
「この子、森の入口で倒れてたんです。ちょうどその頃、うちの主人が森に入ってゴブリン退治をしていたので、様子を見に行こうとしたら、この子が倒れてて…。しかも、酷く錯乱してるみたいなんです。」
「ほぅ…あのゴブリン退治の猟師さんだったんですか?」と男は言う。
「えぇ…でも、主人は洞窟の中で死んでいました。傍らには、金色の狼が死んで居たとか…。喉を食いちぎられた跡から、その狼に殺られたと聞いています。」
ランドは、思い出した。
母さんを撃ち殺した人間。俺が喉を食いちぎって殺した人間。
その家族!俺の家族も殺された。だから、アイツの家族も殺してやる!!
そう思った。しかし、まだ意識は戻ろうとしなかったが復讐の心は芽生えるのであった。
「そうですか…それはご愁傷様ですな…。」と男が言う。
「ええ…でも、良いんです。話を聞くと、主人は罪も無い狼を殺したそうです。洞窟の中には、子供がいた形跡があったそうです。あの人は、狼の母親を殺してしまった。残された子供達が可哀想でありません。」とルナは話した。
「では…その金色の狼が生きていたとしても、貴方はその狼を仇撃ちはしないのですか?」と聞いた。
「あの森の狼は、聖なる狼と呼ばれ、こちらが手を出さない限り向こうも手を出しません。だから、コレはコレで良いんですよ。」とルナは答えた。
「そうですか…貴方は強い女性ですな」男は言う。
「はっはっはっ…そんな事は無いですよ。ただ、悲しい事は悲しいです。でも、それは自業自得。
恨みは何処かで止めなければ、ずっと続いていくのです。」とルナは答えた。
恨みは何処かで止める?ふざけるな!俺は、父さんと母さんを殺され、一人ぼっちになったのに、それを止めろと言う事かっ!ならば…お前を一人ぼっちにさせてやる!お前の可愛い息子を、お前の前で殺してやる!
ランドはそう思っていると、ふと意識が戻るのを感じて目を開けた。ランドが寝ているベッドの脇で、白衣を着たじいさんが座っている。ランドが気が付くと、顔を覗かせてきた。
「おっ!?気が付いたか…気分はどうだい?」と笑顔で聞いてきた。
ランドは無視をする。
「ほらほら、そんなに怖い顔をするんじゃないぞ。子供は無邪気に笑うもんじゃ。」と言うが、ランドは答えなかった。
「そうじゃ…これをやろう。この花を…」そう言って鞄から1本の花を出した。
その花は、花びらが白と紫の綺麗な花だった。
この花を、ランドの横に置いた。
「この花の花言葉は、永遠の家族…じゃ。この花はクルシスの森にしか咲いておらず、名前はそのまんま"クルシスの花"と言うんじゃ。クルシスと言うのは古代の言葉で、"聖なる狼"と言われており、その狼の瞳を見た者は、あらゆる怪我や病気を治してくれる…と言い伝えがあるんじゃよ。そして、この国は聖なる狼の国としてクルシスランドと名付けられた。
そして、そのクルシスが住む森にしか生えないその花は、クルシスの花と名付けられ、人々を慈愛の心で包む様に…
家族と思うように…と言う意味で"永遠の家族"と言う花言葉が生まれたんじゃ。」と老人は告げた。「君は今日から新しい家族が出来た。このルナさんが、身内の無い君を育てると言ってくれたんじゃ…良かったなぁ坊主」と笑う。
ランドは何を言っているのかよく分からなかった。この女が俺を育てる?
この女の家族が俺の家族を殺し一人ぼっちにしたのに、それでは飽きたらず、俺にそんな恥をかかせる気なのかっ?
ランドは叫んだ。
「ふざけんなっ!俺の家族は母さんと父さんだけだ!お前ら人間に育ててもらう義理も義務も無いっ!」
辺りはしんとした。
ルナが口を開く。
「ごめんなさい先生…。この子まだ錯乱してるんですよ。」と先生と呼んだ老人に話す。
老人は笑った。
「そうか…そうか…、でもこの子は凄いな、まだ4歳なのに言葉使いが達者じゃのぅ」
「4歳!?私、息子達と同じ歳かと思ってた!」とルナがビックリしていた。
「ああ…まだこの子は4歳じゃ…。体の筋肉の付き方は、もう10歳くらいの子供なんじゃが、歯の方が乳歯しか生えておらん。まだ、4歳かそこらの子供じゃ。」と老人は言った。
「一応、傷薬とか色々を置いて行くんで、熱とか出たらまた連絡下さい。」そう言うと、老人はよっこらしょ…と言い席を立って外に出ていった。「ふぅ…ねぇランド?貴方は、何であそこに倒れて居たの?」とルナはランドに聞く。
しかし、ランドは口を塞ぎこんだ。
「ランド…貴方は何者なの?本当に狼なの?」
それでも、ランドは答えようとしない。
「ランド…お母さんに隠し事は駄目よ!」とルナは冗談ぽく言った。
ランドは"お母さん"と言う言葉を聞いて飛び起きた。
ベッドから飛び下り、すかさず右手でルナの首を絞めた。そして言う。
「"お母さん"だと?ふざけるな!お前らが…お前の家族が母さんと父さんを殺したんだろ!」そう叫ぶ。
右手に力が入って行く。
「お前ら家族が、俺の家族を殺しておいて、しかも今度は俺の母さん面かっ!ふざけやがって!」
ミシミシと右手に力が入って行く。しかし、ルナは右手を振り払った。酷く咳き込む。
「私達が貴方のお母さんとお父さんを殺した?って何?」
とランドに聞く。
「お前の…お前の家族は、ゴブリン狩りに出掛けたって言ったな!」と叫んだ。
ルナは、
「はっ!」と何かに気付いた。
確か、一緒に主人とゴブリン狩りをして戻ってきた猟師は言っていた。
「貴方の主人は、ゴブリンの他にも"狼"を2匹仕留めた」…と。
「まさか…貴方は、狼に育てられてたの?」とルナは聞く。
「母さんは、森に捨てられた俺を育ててくれた。父さんは、生きる為に狩りを教えてくれた。
幸せでずっと一緒に居たいって思ったのに…。
それなのに…」ランドは言葉が詰まる。いつの間にか、目から涙が溢れ喋る事が出来なかった。
それでも、喋り続ける
「それなのに…それなのに…お前ら人間は…ただ母さんの為にゴブリンを狩っていただけなのに…俺らは何も…何もしてないのに…」
ランドは完全に喋れなくなった。
いつの間にかルナも目に涙を浮かべていた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」とただずっと言っていた。
だが、もうどうする事も出来ない。
謝られた所で、母さんが生き返る訳でも無い。
「人間!人間!人間!!人間は殺す!それが誰であろうとも…。人間はこの手で一人残らず殺す!それが、俺の物語。」
ランドは涙を流しながら、ドンドンと狼化していった。
「恨みは何処かで止めなければ永遠に続く…俺はそれでも構わない。俺はお前の家族を殺した!俺はお前達を殺す!地獄に叩き落としてやる!」
そう言うと、完全にウルフとなりルナの前に立ち上がった。
「人間…殺す!」とルナめがけて右手を振り下ろす。




