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短編集2

もふもふ冒険者達の休日

作者:


 

 冒険者ギルドのボードの前で依頼を見ながら、馬鹿を待つ。あいつはいつまで俺を待たせる気なんだ。鼻があるから迷子になる訳もないのに。

 「ルイス!」

 

 そんな声と共に人波をかき分けて馬鹿が走り寄ってくる。バタバタとやかましいし、目立っている。俺がなんのためにこの暑っ苦しいマントを羽織っていると思ってんだこの馬鹿娘は。

 

 「なんで返事してくれないんだ? ルイス」

 

 目の前に立って三角の白い毛が混じった耳を伏せて馬鹿(シエラ)がフードを下からのぞき込んでくる。茶色いクルンとした尻尾が足の間に入ってしまっていた。

 

 「おい、あれって」

 「ああ、あの姿とあの剣──」

 

 

 「Aランクの剣士シエラだ!」

 

 シエラはよく目立つ。そもそもこの土地では獣人族は少ない。その上大剣を小さな体で背負えるのもシエラだけなのだ。

 

 自分の身長ほどもある大剣を背負って落ち込むシエラに深くため息をこぼす。本当に馬鹿かこいつ。

 

 「ルイス…?」

 口を閉じたままシエラの手を引いて冒険者ギルドを出る。扉をくぐるその瞬間に転移魔法を発動し、街外れの山の中に転移する。

 

 「ルイス怒ってるのか…? 僕なにかしたのか?」

 陽の光に照らされて、シエラの茶色いくせっ毛がキラキラと光る。だが、落ち込んでいるシエラのせいで美しさよりも表情の暗さの方が目立つ。

 

 暑っ苦しいマントを脱いで適当な木に腰掛ける。もちろん自慢の尻尾が汚れないように気を使ってだ。

 

 「シエラ」

 「ん。なんだ?」

 「俺がなぜ怒ってるのか当ててみろ」

 

 にっこりと優しく微笑んでやる。馬鹿な頭で考えてみろ、当たったらご褒美をやらないことも無いぞという意味を込めて。

 

 少しびくついたあとシエラはすぐに考え始める。そして閃いたとばかりに耳を立て尻尾を激しく振る。

 

 「今日のお昼、ルイスのお肉を食べたからだろ!」

 「違う。しかも、それは昨日の話だ」

 

 うん、分かってたけど。やっぱお前馬鹿だわ。ふにふにとやたらと柔らかな頬をつねりながら笑みを消せばシエラは手足をばたつかせる。

 

 「ひはい、ひはいじょ! るふぃすっ」

 「馬鹿なことを口走るお前の口に躾をしてやってるんだ。感謝しろバカシエラ」

 

 犬の癖に鳥頭なのかお前は。ふつふつと怒りすら湧いてくる。何のために俺が暑っ苦しいマント羽織って人の多いギルドで待ってたと思ってんだ。

 

 「はー…痛かったぞ…」

 「ふん、馬鹿だからそうなるんだ。」

 「そうしたのはルイスだろ」

 「なんか言ったか?」

 「ナンデモナイ…」

 

 再び落ち込むシエラから目を外し空を見る。やたらと青い空は俺達がパーティーを組んだその日とよく似ている。

 

 ──そう、今日は俺達、キュウケンがパーティを組んで丁度一年が経った、所謂記念日なのだ。

 

 だからこそ、慣れない格好で慣れない街でシエラと飯でも行こうと待っていた。し・か・も、その事はしっかりとこの馬鹿に説明までしたのだ。マントを羽織るようにもちゃんと言っておいた。

 

 「…シエラ、マントはどうした」

 「まんと?」

 「昨日渡したろうが…っ!」


 ひくりと鼻をならしたシエラはすぐにああ!と口を開いた。思い出したか、この鳥頭。

 

 「そうだそうだ! ルイスが僕を無視するから忘れてた! ごめんな遅れて!」

 

 予想外の反応に目を見開き固まる。…忘れてた? 何をだ? ぐいっと差し出されたものを見てまた固まる。

 

 

 「今日でルイスが僕の相棒になって一年目だろ? だからさ、これ作ってもらってたんだ」

 

 にかにかと笑顔を浮かべるシエラの手に乗っているのは、白い魔法の施された皮袋。しかも、その皮と色には見覚えがある。

 

 「…俺が渡したマントを…使ったのか?」

 「うん、ごめんな。どうしても白い皮を使いたかったんだ。けど店では置いてなくて──」

 

 シエラはよく目立つ。そして、シエラはあまり人の視線を集めることは好きではない。むしろ嫌いだ。だからこそのマントだったのに、この馬鹿は──と毒づこうとして、やめた。

 

 立ち上がって呆れたようにシエラを見る。そしてふわふわの頭に手を置く。

 

 「ん? なんだ、ルイス」

 「…いや、シエラはやっぱり馬鹿だと再確認していた」

 「酷いな、これでも一生懸命考えていたんだが…ルイスの白い髪とか耳とか尻尾に合うものがいいと思ってたんだよ」

 「…」

 

 確かに俺の髪と耳と尻尾は白い。獣人の一種、雪狐(ゆきこ)族の血が色濃く出ているからだ。

 

 「魔法袋…何でこれにしたんだ」

 「ルイスって魔法は凄いけど力弱いだろ? 僕がいない所でもしっかり食事取れるようにと思ってこれにした」

 

 どうだと偉そうに胸を張るシエラに笑いがもれた。

 

 

 「る、ルイス?」

 「おい馬鹿シエラ」

 「へ?」

 「その袋はお前が持ってろ」

 

 そう言えば気に入らなかったのか!? とすぐに返事をするシエラ。そんなシエラを黙らせて、最後の一言を言い放つ。

 

 「お前がそばにいればいいだろ」

 

 ゆらりと視界の端で自分の尻尾が揺れているのが見えた。シエラの顔は困惑を浮かべていて、俺だけが笑っていた。

 

 

 

 

犬獣人♀【シエラ】

・身長159cm

・柴犬の獣人。髪は茶色でショートヘアーでくせっ毛。瞳は明るい茶色。

・剣士

・馬鹿


狐獣人♂【ルイス】

・177cm

・細身。雪狐の獣人。髪は雪のような白で長髪ストレート。顔が整っていることもあり女と間違われることがよくある。

・魔法士

・ツンデレ



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