裏37 仲睦まじいお2人(アイーダ視点)
37話の後のアイーダ視点です。
このところ、ローズマリー様のご様子が変です。
空いた時間ができると、ノートを引っ張り出して何やら書き込んでいるのです。
それも、なんだか妙に嬉しそうに。
ローズマリー様がこんなに楽しそうにしているのは、初めてとまでは言いませんが、首席と打ち合わせしている時くらいです。
思うに、どうも先日スケルス公爵子息とお話しされてからのようなのです。
ということは、やはりローズマリー様は…。
半分微笑ましく思いながら見守っていたのですが、3か月後、事態が急展開しました。
再び訪れたパスール様に、ローズマリー様は書き付けていたノートをお見せになったのです。
私は、少し離れているように言われたので、部屋の隅に控えていました。
さすがに、未婚のお2人が2人きりになるのはよくないということで、退室は命じられませんでしたが、お2人のお声は聞こえないところに追いやられたのです。
秘書である私にも秘密のやりとりとは、一体何なのでしょう。
声こそ聞こえませんが、公爵子息は随分と驚いておられるご様子。
ということは、ローズマリー様から告白なさったのでしょうか。
貴族の令嬢にとって、自分から殿方に恋心を打ち明けるなどということはあり得ません。
ましてゼフィラス公爵家跡取りであるローズマリー様とスケルス様とでは、所詮叶わぬ恋です。
とはいうものの、私には、お2人の恋を制止することなどできはしません。
いずれ辛い別れが待っているとしても、今その想いを踏みにじることなど…。
私の思いなどご存じないお2人は、楽しそうに話をしておいでです。
あっ、ノートをお渡しになりました。後でゆっくりと読んでいただくおつもりなのですね。
終始和やかなご様子であったお2人は、別れ際も穏やかでした。
スケルス様がご退室された後、ローズマリー様に謝られました。
「ごめんなさいね。
アイーダを信用していないわけじゃないけれど、今のところ聞かせてあげられる話ではないのよ。
うまくすれば、もうじきお義父様から何らかの発表があると思うから、そうしたら、ね」
もうすぐ所長から発表があるとは、どういうことでしょう。
まさか、ローズマリー様が跡取りでなくなって、スケルス公爵家に嫁ぐということでしょうか?
けれど、そんなことをしたら、ゼフィラス公爵家の跡取りがいなくなりますし、ローズマリー様以上に研究所の跡を継ぐに相応しい方はいらっしゃいません。
スケルス様がゼフィラス公爵家に婿入りしたら、スケルス公爵家が断絶してしまいますし、お2人が結ばれる未来などあり得ませんのに。
いつになく上機嫌なローズマリー様に、まさかそんなことも言えず、据わりの悪い1日を送ることになってしまいました。
そして、一月後。
所長から、新部門の立ち上げが発表されました。
新部門は、植物研究を主体とする部署ではないそうです。
機織りであるとか染め物であるとかを研究する部署だとか。
これまで研究所の扱ってきたものとは随分異なる内容で、私では理解が追いつきませんでした。
後で、ローズマリー様に教えていただいたのですが、スケルス様は、王国各地の織物の産地を巡って、その特色や独自の織り方、織機の構造などを調べていたそうです。
そういったものを目にされたローズマリー様が、織機の構造を改良する案を思いつかれたとのこと。
先日来、ローズマリー様がノートに書き留めていたのはその案であり、それがスケルス様経由で所長に届けられ、実現可能か検証する段階になったのだとか。
え……? では、スケルス様とローズマリー様の恋というのは、私の早とちりだったのですか?
だって、お2人ともあんなに幸せそうなお顔で、嬉しそうに、楽しそうに語り合っておいででしたのに…。
では、ノートに何やらお書きになっていらした時のローズマリー様の微笑みは、どういうことだったのでしょうか?
だって、織物ですよ?
刺繍なら、貴族令嬢の嗜みとして、楽しんでなさる方も多いですし、ローズマリー様も相当な名手であると伺っています。
けれど、織物など、平民の生業であって、貴族が触れるようなものではありません。
スケルス様のように、お仕事でお調べになるというならまだしも、ローズマリー様が興味をお持ちになる要素などないはずですのに。
そして、織物部門の首席研究員に任じられたスケルス様は、出張に行かれる回数が減り、月に一度はローズマリー様を訪ねていらして織機改良の打ち合わせをなさるようになりました。
ものすごく幸せそうに織機の話を交わされるお2人の姿に、私はもう倒れそうです。
幸せって、どういうものなんでしょうか?
ということで、パスールは無事成果を上げて新部門の長になり、大手を振ってマリーと話ができる立場を手に入れることができました。
まだまだ改良の種を探しに全国を駆け巡ることになりますが、もう秘密の部署ではありません。




