5 お祖父様とお祖母様の訪問
前回の裏4では、学院入学直前まで行っていますが、今回のマリー主観は、時間を戻して、4話(オルガが学院に出発)の1か月後になります。
マリーです。
この前、お兄様が王都に行ったばかりですが、大ニュースです。
お兄様が飛び級しました。
経営学と簿学と出納学の3科目です。
おばあちゃまもお父様も、3科目で飛び級しているので、3代連続の快挙です。
学院始まって以来だそうです。
お母様からは、
「マリーは、飛び級なんて気にしなくていいのよ」
と言われていますが、おばあちゃまの孫として、弟子として、「さすが!」と言われるように頑張ります。
もう1つニュースがあります。
お祖父様とお祖母様がうちに来ています。
遊びに来たわけじゃなくて、おばあちゃまの温室を見に来たんだそうです。
お祖父様は、この春、王立研究所の所長さんを辞めてしまいました。
新しい所長さんには、ガーベラス叔父様がなりました。
普通は、お城でお仕事をしている貴族は世襲できないんですけど、叔父様は特別なんだそうです。
「世襲」っていうのは、親の地位を子供が継ぐことで、うちみたいに領地を持っていれば子供が継ぐのが当たり前だけど、お城のお仕事は、仕事がちゃんとできる人じゃないとみんなが困るから、試験とかで決めることになっているんです。
ただ、お祖父様は王様の弟ですし、今、研究所が王様の言うことを聞かなくなると困るから、ちゃんと王様の言うことを聞くガーベラス叔父様が所長さんになった方がいいんだそうです。
お祖父様は、ご自分でも色々研究していたけど、叔父様は研究はしないで、研究所全体を見るのがお仕事なんですって。
今までは、そういうお仕事はお祖母様がやっていたそうです。
お祖父様はまだ51歳で、まだまだお仕事ができるんだけど、元気なうちに叔父様に代替わりした方が、反対する人が少なくていいんですって。
研究所のお仕事を辞めたお祖父様は、今度は好きな研究だけをするそうです。
今までだって好きな研究をしているって聞いた気がするんだけどなぁ?
とにかく、お仕事をしなくてよくなったお祖父様は、おばあちゃまの温室を見たくて、うちに来たそうです。
こっちのお祖父様は、お迎えの準備で大変だったらしいです。
私は、おばあちゃまに言われて、お祖父様とお祖母様を温室にご案内することになりました。
「ここでは、病気に強い小麦と収穫量の多い小麦を掛け合わせています。
16ブロックを一組にして、4種の小麦をそれぞれ掛け合わせて、効果の高い組み合わせを探しているところです」
「マリー、どうして16ブロックずつなんだい?」
お祖父様ったら、知ってらっしゃるくせに私を試すための質問をしてきました。
この辺のことは、全部おばあちゃまから報告が行ってるのに。
「性質を司る因子の組み合わせが、最低でも4種類あるからで、因子が2つずつでも16通りの組み合わせになるからです。
必ずそうなるわけではありませんけど、多様な結果を得るには、16が最小単位になるんです」
「その因子というのは…」
「はい? お祖母様、なんですか?」
「因子って……なのかしら?」
あれ? お祖母様が言いよどむなんて、珍しい。
「えっと、生き物には、色々な部分ごとの性質を決める何らかの因子があるんです。
欲しい性質を持つ小麦同士を掛け合わせることで、両方の性質を持った小麦が作れるんですよ。
中には、2世代目でしか出てこない性質もあるので、形質の安定には、4世代以上見ることが必要なんです。
ここでは、今、小麦のほかに成長の早い牧草と、乾燥に強い綿を同時進行で栽培しています」
「さすが夫人の愛弟子だな。
説明がよどみない」
ああ、私の回答は合格だったのね。
よかった。
後ろで見てたおばあちゃまもニコニコしてるから、巧く説明できたってことでいいよね。
お祖父様達は、私の護身術の練習やマナーのレッスンも見ていたけど、私の様子を見に来たわけじゃないのよね?
「ところでお祖母様。
お祖父様は、どうして研究所をお辞めになったんですか?
こちらのお祖父様と3歳しか違わないし、早過ぎるような気がするのですけど」
せっかくなので、気になっていたことをお祖母様に聞いてみたけど、お祖母様は
「お城には色々あるのよ。
旦那様も、もう50を過ぎたし、お元気なうちに代替わりしておかないと、後々問題が起きることもあるものですし」
「叔父様が所長になりやすいようにですか?」
「マリーは、本当に察しがいいわね。
そう、陛下のご意向をきちんと受けることのできるガーベラスを所長にしておかないと、国が乱れる元になりますから。
旦那様は、野心と最もかけ離れた方ですし、ガーベラスも大それた野心など抱く性格ではありませんから」
「これからも、所長はゼフィラスの家で継いでいくということなのですよね?」
でも、叔父様には男の子がいないのに。
「マリーは、本当に賢いわね。
そう、研究所長は、優秀な研究員がなるというわけにはいかないのです。
必要なのは、陛下のご意向を受け、適切に研究を管理できる者です。
旦那様の時は、私が引き受けていましたが、ガーベラスは自分でそれができます。
問題は、次の代をどうするかですが、ミルティに婿を取ることになるのでしょうね。
いずれにせよ、公爵家を継ぐ者は必要ですから」
ミルティことミルトリアは、ガーベラス叔父様の娘で、私より1歳下の従妹です。
私のことを「お姉様」と呼んで慕ってくれる、可愛い子。
「そう、ですよね。
できれば、ミルティの運命の相手がそういう能力に長けている方だといいのですが」
「そうですね。
まあ、ミルティが私のようにお手伝いするという方法もありますから、さほど心配することもないでしょう」
「そうですね」
ミルティ、頑張らないと、好きな男と結婚できないってお祖母様が言ってるよ。
大変だよ。
「ところで、お祖父様のお顔の色が優れないような気がするのですが、お体の具合がよろしくないのですか?」
「長旅で少しお疲れになったようですね。
大丈夫、心配するほどのことはありません」
……。
「そうですか。安心しました。
余計なことを言ってすみません」
「いえ、構いません。
心配してくれてありがとう」
お祖母様がおばあちゃまのところに行った後、私は、お祖父様とお話ししました。
「お祖父様、おばあちゃまの温室はいかがでしたか?」
「さすがは夫人だな。
理路整然と、求める結果を明確に定めた素晴らしい畑だった。
あれを手伝えるマリーは、研究所の若い研究員より、よほど優れているだろう。
マリーは、研究の手伝いは好きかね?」
「はい、大好きです」
「それじゃあ、学院を卒業したら、研究所に入らないか」
「おばあちゃまと一緒でもいいですか?」
「夫人とか? 一緒に来てくれるなら、大歓迎だとも」
「では、おばあちゃまが入ると仰ったら参ります」
「う、うん、そうか…」
あれ? お祖父様、元気なくなっちゃった?
「お祖父様?」
「あ、ああ、マリーは、本当に侯爵夫人が好きなのだね」
「はい! おばあちゃまと一緒にいると、本当に楽しいんです。
学院に入ったら会えなくなるのが、寂しいです。
あ、でも、学院に入ったら、お兄様にお会いできますね!
そういえば、お兄様、飛び級なさったんですよ」
「ああ、そうだな。
聞いているよ。
夫人と同じく3科目で飛び級したそうだな。
もうじき2度目の飛び級試験だが、どうなるだろうね。
もし、二段飛び級したら、34年ぶりの快挙ということになる」
「お兄様ですもの、きっと飛び級なさいます」
「マリーも再来年には学院だな。
マリーの飛び級が、今から楽しみだよ」
「お祖父様ったら、気が早すぎます」
なんだろう、お祖父様の様子が変。
次回更新は、23日午前零時に裏5-1、通常どおり26日午前零時に裏5-2をアップします。