裏34 うまくいかない(アーシアン視点)
2年目である今期の実験の結果は、またしても惨敗だった。
何が悪いのか、色々と考え、計算したはずの第1世代は期待した形質を備えていない。
数百株育てたのに、求める形質を備えているのは50に満たない。
去年と同じだ。
どうすればいいんだろう。
たったの50株では、結局来年も第2世代を生み出すことはできない。
去年の分を合わせても百株。
…いや、百株あれば、なんとかなるだろうか。
数百株、2年分で千株を超えるほど栽培して、やっと百株。10分の1以下だ。
親の形質を子に継ぐ因子は、1つや2つではなく、いくつあるのかもわからないのだとマリー嬢は言ってた。
一組の親子の間で、1つの因子だけで3パターン。
2つの因子が組み合わさった性質なら、9パターン。
それも、平等に発現するわけじゃない。
こんな気の遠くなりそうな組み合わせ、どうやったら理解できるっていうんだ!
この中から法則性を見付け出し、逆算して組み合わせを考える? どんな頭を持っていたら、そんなことができるんだ…って、マリー嬢ならできるのか。
単なる飛び級と、二段飛び級の差がこれか。
あと2年。
研究所に入るまでに、それなりの目処を立てないと、マリー嬢の傍には行けないだろう。
いや、パスール殿は研究職ではないから、その点だけでも有利ではあるんだけど…。
しばらくして、叔父上からゼフィラス公爵邸に呼び出された。
「で? 殿下の研究は、いかがですかな?」
叔父上が僕の研究の進み具合を気にするなんて。
どっちの意味で聞いてきてるんだろう。
とはいえ、どうせ隠せることではないし、正直に話すしかないんだけど。
「雨に強い紅花を作ろうとしていますが、第一世代さえまだできません。
食用でない植物は、これまで研究の対象となっていなかったので、資料さえもないのが実情です。
ローズマリー嬢からも、協力はできないと言われています」
「それはそうだろうね。
マリーとしても、今は叔母上からの研究の引継と完成に全力を注いでいる状態だからね。
だが、そちらが完成すれば、動けるようにもなるからね。
もちろん、それまでに殿下が研究を完成できていなければという話ではあるが。
殿下自身で完成できるのが理想だが、研究所としては、誰が完成させるとしても、完成さえできればいいわけだから。
もちろん、殿下が学院在学中に基礎研究を完成できれば、研究所の在外研究員の席を用意するよ」
そうか、僕に発破を掛けに来たというわけか。
僕自身が研究を完成できれば、研究所での僕の立場も強くなる。
僕が将来的にマリー嬢と結婚しようと思えば、自力での研究完成は意義が大きい。
もし在学中に完成できたなら、研究所に入る時に優遇を受けられるだろう。
実績を作れば、マリー嬢の印象も良くなる。
…そう考えると、僕には、結局研究を頑張る以外の選択肢がないような気がしてきた。
「それと、この研究は少々興味深いものがあるので、研究所の方でも並行して進めようかと思っている。
もちろん、そちらで上がった資料も、殿下の資料と交換できるようにしよう。
まあ、今からでは、来年の研究目標にはできないだろうし、再来年以降になるがね」
つまり、僕が来年中に目処を付けられなければ、ライバルが増えるというわけか。
「研究所では、どなたが担当するんですか?」
「まだ考えていないよ。
今、思いついたばかりだからね。
ただ、殿下と競合することは言うことになるから、殿下と誼を通じたい者がいれば立候補するんじゃないかな。
希望者が出なければこちらで適当な研究員を指名することになるだろう」
なるほど。
僕を焚き付けるには、いい話だろう。
だからといって、僕には特に有効な方法は思いつかないんだけどね。
「とりあえず、僕は引き続き頑張ります、としか言えませんね」
誰が担当するのか知らないけど、負けるわけにはいかない。
成果を挙げて、マリー嬢に見直してもらうんだ。
どうやらガーベラスはアーシアンに発破を掛けたようです。
まだ見ぬライバルに闘志を燃やすアーシアンの明日はどっちだ。