裏33-2 それぞれの半年(アーシアン視点)
…マリー嬢に会いたい。
結局、勉強会がなくなってから、マリー嬢とはほとんど会えていない。
ミルティがオルガ・ジェラードと婚約したってことで、僕の立場はマリー嬢にわかってもらえたはずなんだけど。
喜び勇んで会いに行ったら、
「殿下の婚約者の座が浮いた今、私がお会いするようになれば、口さがない者は、私がミルティを押しのけて殿下を奪ったと吹聴しましょう。
そうなれば、殿下のみならず、ミルティの名誉も傷付くことになります。
どうか、幼なじみにそんな惨めな思いはさせないでくださいまし。
私は、いずれ婿を取ることにはなりましょうが、今はまだ家督を奪った娘と言われております。
研究の完成も未だ発表できておりませんのに、そんなことをすれば噂を肯定するようなものです。
跡取りに相応しい成果を挙げ、足場をしっかり固めないうちは、どなたとも婚約などできません」
と冷たく拒絶された。
確かに、お家乗っ取り紛いの噂が流れているのは知っているけれど、そんなこと、言いたい奴には言わせておけば…ってわけにもいかないか。
ミルティの名誉に傷がって言われると、反論できない。
恋愛感情は持っていないとはいえ、大事な幼なじみであることは間違いないから。
「誰か第三者を交えて、どうにかなりませんか?
実は今、研究の方で行き詰まっていて…」
弱音を吐くのは情けないけど、僕は早く成果を挙げて認められなきゃならないんだ。
そうじゃないと、パスール殿に太刀打ちできない。
それに、研究仲間としてなら、マリー嬢の傍にいられる。
「殿下。研究が行き詰まるなど、いつものことです。
私は今回、運良くすぐに上手くいきましたが、それとてこれまでの10年間の積み重ねあってのこと。
始めたばかりの殿下の研究がいきなり上手くいくくらいなら、研究所の方々は苦労しておりません。
お祖父様は、七色のバラの完成に20年の月日を捧げました。
殿下の研究テーマは、今までにない視点に立った素晴らしいものです。誰にも助けることなどできません。じっくりと腰を据えて当たらないでどうなさいますか」
マリー嬢から、完膚無きまでに正論で叩き潰された僕は、もう何も言えない。
結局、自力で研究実績を挙げていくしかないらしい。
卒業までの2年半で、どうにかできるんだろうか。
マリー欠乏症に苦しむアーシアンでした。
次回裏33-3話は、9月1日(金)午前零時にアップします。