表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇蹟の少女と運命の相手  作者: 鷹羽飛鳥
学院3年目
77/161

裏31-1 あなたのところに(カトレア視点)

 …夢を見ていたようです。懐かしい夢。


 ずっと気を張ってきたのが、いいところまできたせいで気が弛んだようです。風邪をひくだなんて。

 頭の中に霞が掛かっているよう。体が重くて、手を動かすのも億劫。


 「お祖母様、目が覚めましたか? 水をお飲みになってください。

  喉を潤したら、スープと薬を。

  苦しいでしょうけれど、まずは体力を回復させてください」


 そう言って、マリーは私に吸い飲みで水を飲ませてくれました。

 その後は、スープと水薬を。

 正直、水を飲むのも苦しいけれど、まだやらなければならないことがあります。

 こんなところで寝込んでいる暇はないのです。

 とにかく体力を取り戻さなければ。

 私は、なんとかスープと薬まで飲みました。

 時間の経過がよくわかりませんが、ずっとマリーが看病してくれているようです。




 どれくらい時間が経ったのかわかりませんが、夢を見ては目を覚まして、水とスープと薬を飲むということを、もう何回となく繰り返しています。

 夢…学院時代の、セリィと会った頃の夢を見ます。

 旦那様を奪われまいと、必死に立ち回っていた頃の夢。


 「あなた、<転生ヒロイン>?」


 「え? あ、ランイーヴィル様? すみません、ぼうっとしていて。何か仰いましたか?」


 あなたが転生者でないと知って、どれだけ気が楽になったか。


 出会った時は、生涯の友になるなど、想像もしませんでした。


 「それで、セリィ、次の組み合わせなんだが…」


 「殿下、婚約者のいる令嬢を愛称で呼ぶのはおやめなさいませ」


 セリィの才能に惹かれる旦那様(あの人)を見て、どれだけ焦ったことでしょう。

 でも、セリィは、自覚はなかったようですが、自分の婚約者(ヴァニラセンス)しか見ていませんでした。

 誠実で、気のいい()でした。

 他の取り巻きの娘達とは違い、ランイーヴィル公爵家令嬢としてではなく、カトレア(1人の友人)として接してくれた。

 心にもないおべっかなど言わず、常に本音で接してくれた。

 腹芸だって策略だって得意なくせに、そんなものおくびにも出さずに。




 「不世出の才媛の孫にして愛弟子ローズマリー・ジェラードは、セルローズ・ジェラードに比肩する成果を挙げたと世に知らしめてくれないか」

 「最後の、世話を…ローズマリーを、あの子の才を…」


 旦那様との最期の誓いは、ほぼ果たしました。

 マリーは、研究者として独り立ちしましたし、研究所にも入ってくれました。

 あと1年は、在外研究員ですが、卒業すれば、きちんと研究所に入ってくれます。

 ゼフィラス公爵家の跡取りとして、好きなように動けるようにもしました。

 後は、セリィを王都に呼べれば…。

 まだまだ研究者としてはセリィの方が上ですもの、その技術と経験をマリーに与えてくれれば…。いいえ、2人が王都で揃って研究することこそが、旦那様の本当の望みですもの、なんとしても。





 …いけない、体に力が入らなくなってきたわ。

 これは、もう駄目かもしれない。

 いいえ、まだよ。…まだ、死ぬわけにはいかない。あの人に、胸を張って会えないわ。

 マリーを、この奇蹟の娘を、育て上げないと…、あと、ほんの少しで…

 「マリー…」


 「お祖母様」


 「お祖父様の遺言を、研究を、お願いね」


 「はい、お祖母様。約束します。すぐに卒業して、研究所に入りますから」


 「もう少し…あと少しで、あの人のところに行ける…」


 そう、あと少し。セリィに会うまでは死ねない。

 もう…少し…お願い、私の命、そこまでもって…。




 「お母様! ドロシーよ、わかりますか? セリィお義母様も一緒よ!」


 「カトレア様! しっかりなさってください!」


 ああ…セリィ…、間に合った…。

 あと一仕事、これで終わりだから…


 「セリィ…ありがとう。

  あなたのお陰で、あの人は研究だけして生きられました。

  あなたの研究を利用させてもらったことは、感謝してもしきれません。

  その上、今度はマリーを研究所に引き入れなければならなくなりました。

  ごめんなさい。

  もう、そうしないとマリーの安全を守れないところまで来てしまったの」


 私の生涯の友。欲得ずくでない、たった1人の、本当の友達…。

 あなたへの対価は用意できなかったの。私が払える対価は…


 「セリィ、あなたの力を借りなければなりません。

  マリーを導く役を。

  あなたがジェラード領を出たくないのは知っています。が、王都(ここ)で研究の引継を…。屋敷は用意しました。

  ジェラード領への還元は、今後もできるようにしておきましたから、あなたがマリーを支えてあげて…。

  今回は、取引する材料がないの。

  ごめんなさい。卑怯だけれど、友人として最期のお願いよ… 」


 最期に、甘えさせてちょうだい。あなたの好意に縋らせて…


 「わかりました。

  カトレア様との友情に誓って」


 やっぱり、あなたはそう言ってくれるのね。


 「ありがとう」


 これで、私の役目は終わり。

 もうできることは、何一つ残ってないわ。

 やっと旅立てる。

 私の居場所、あなたの隣へ…


 「あなた、最期の誓いは果たしました。

  これで、ようやくあなたのところに行けます…」


 どんな世界の、どんな場所でも構わない。あなたさえ、いてくれるなら。そこが私のいるべきところ。

 絶対に、生まれ変わっても、あなたを見付けてみせますから。


 待っていてください。あなた。

 これまでカトレアの死を、3人称、マリー視点、カトレア視点と、3つの角度から描いてきました。

 これで本当にカトレア退場です。


 この後、前作後日談5「最期の願い」をお読みになると、多分、当時と印象がかなり変わるのではないかと思います。というか、変わってほしいなあ、と思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 誰の視点でも号泣! ちょうど昨日、エリザベス女王が亡くなったこともあって、胸に深く響きます。 好きな人が待っててくれるなら、逝くのも怖くないでしょう。 頑張った人生の肩の荷が下りて、ゆっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ