裏30 ローズマリー・ゼフィラス(テューリア視点)
今回、若干電波っぽいのが登場しますが、噛みつきませんからご安心ください。
前回マリーと会話していたテューリア・クーサン視点となります。
私の名は、テューリア・クーサン。
王都の北西に領地を持つクーサン伯爵家の長女です。
我が家の領地はさほど広くはありませんが、織物が主な産業で、安定した税収を誇ります。
家を継ぐのは4歳上のお兄様ですから、私はいずれどこかに嫁ぐことになるので、学院で出会いがあるかと少し期待していたのですが、よい人に出会うこともなく今に至ります。
私にとって、学院で一番の収穫は、ローズマリー様とお友達になれたことでしょう。
ローズマリー様は、王都の北東に領地を持つジェラード侯爵家のご令嬢です。
ジェラード侯爵家は、農業と酪農が中心の広大な領地を持ち、王立研究所が開発した作物の栽培許可を優先的に与えられるという、大きな政治力も持ち合わせた素晴らしい家です。
道理を知らない世間の方々は、ジェラード侯爵夫人と、研究所長であられたゼフィラス前公爵のご夫人との個人的な繋がりなどと言っていますが、そんな専横を陛下がお許しになるわけないではありませんか。
私達には思いもよらない手練手管で、根回しして許可を勝ち取っているのがどうしてわからないのでしょう。
ジェラード侯爵夫人にしても、前公爵が王子として学院におられた頃から交流をお持ちだったとのこと。
学院とは、将来のための人脈作りの場であり、より良き伴侶を探す場でもありますから、侯爵夫人のなさったことは、貴族の娘として当然のことなのです。
それを、自分の努力の足りなかった方々が負け惜しみを言ってみたところで、一体何になるでしょう。
羨ましいのなら、悔しいのなら、自分も負けずに人脈を築けばいいのです。
私は、領地貴族の娘として、どこかの貴族家に嫁ぐことになります。
決まった相手はいませんが、やはり領地貴族の嫡男が望ましいでしょう。
官僚貴族は、貴族とは名ばかりの役人に過ぎません。実務能力はあるでしょうが、彼らの価値観は、やはり領地貴族とは違います。所詮は、能力を評価されただけの平民なのですから。
私は、ジェラード侯爵夫人の噂を聞くにつけ、憧れてきました。
伯爵家令嬢として生まれ、学院入学以前から侯爵家嫡男と婚約し、学院でも寄り添って過ごし、嫁ぐ日のために人脈を広げ……貴族令嬢の鑑のような方です。
それも、当時公爵家としてはパッとしていなかったものの、第3王子殿下の婚約者でらしたランイーヴィル公爵家のご令嬢に目をつけ取り巻きに収まるなど、先見の明にも優れてらっしゃいました。
変わり者と評判の第3王子と話を合わせるために植物学を学ぶなど、情報収集能力も行動力も素晴らしいものがあります。
伯爵家令嬢が農民の真似事までするなど、いくら目的意識があっても、なかなかできることではありません。
その結果、彼女は、嫁ぎ先であるジェラード侯爵家に多大な利益をもたらし、さらには王家の血を一族に入れることにさえ成功なさいました。
お兄様の婚約者を決める頃、私と同い年のジェラード侯爵家のご令嬢に婚約の申し込みが殺到しているという情報があったそうです。
それはそうでしょう。
王家の血を一族に加えることができ、さらにはゼフィラス公爵家と縁故になれるのですから。
まして、ジェラード侯爵家の財政は大変に豊かで、何かの折に融資してもらうことさえできるでしょう。
政略結婚の相手として、これほどおいしい相手はありません。
もっとも、ジェラード侯爵家は、全ての話を断っていたそうですが。
それもまた当然のことです。
なにしろ、政略結婚を申し入れた家のことごとくが、ジェラード侯爵家に対して利益を示せていなかったのですから。自家に利益をもたらさない家と政略結婚する馬鹿がどこにいるというのでしょう。
こうして、ローズマリー様は、婚約者のいらっしゃらないまま、学院に入学されました。
社交の講義でローズマリー様とお近づきになれたことは、私にとって大きな幸運でした。
お茶会などで交流を深め、私はローズマリー様と親しくなれたのです。
ローズマリー様は、祖母に当たるジェラード侯爵夫人を尊敬してらっしゃるそうで、同じように植物学で二段飛び級なさいました。
そんなこともあって、ローズマリー様に近付く貴族子息は引きも切らなかったのですが、ローズマリー様は、やはりその全てを袖にされました。
これも当然のことです。
唯一私が驚いたのは、スケルス公爵家のご子息にすら興味をお示しにならなかったことです。
スケルス公爵家と言えば、歴史ある公爵家で、今のご当主は、陛下の弟君でゼフィラス前公爵の兄君に当たるお方。
これほどの良縁は滅多にあるものではないのに、ローズマリー様は歯牙にも掛けなかったのです。
私は、このことだけは理解できなかったのですが、後にそれがいかに深いお考えに基づくものであったかを思い知ることになりました。
2年生になり、ローズマリー様の従妹であるゼフィラス公爵令嬢が入学してきて、ローズマリー様を巡る環境が大きく変わりました。
公爵令嬢は、何かとローズマリー様を束縛し、私達友人がローズマリー様に近付くことを許さないのです。
この方は、とにかく傲慢で、礼儀も常識もわきまえず、社交をないがしろにします。
しかも、ご自身が公爵家の跡取り娘であることを鼻に掛け、傍若無人な振る舞いをするのです。
こんな方が王国でも有数の大貴族であるゼフィラス公爵家の跡継ぎだと思うと、情けなくて涙が出そうです。
公爵令嬢は、王太子殿下の第2王子殿下と婚約間近と言われています。
確かに一緒に歩いておられる姿をよくお見かけしますし、家の勢力や格などから言っても、それが妥当でしょう。
唯一足りないのは、公爵令嬢の品格だけですから。
そんな腹立たしい1年半が過ぎ、秋も深まってきたある日、公爵令嬢がジェラード侯爵家のご子息と婚約したことが発表されました。
同時に、ローズマリー様がゼフィラス公爵家に養女に入られ、家と研究所長職を継がれるということも。
貴族家が跡継ぎを変更するには陛下の許可が必要ですが、発表されたということは、既に許可が得られているということです。
これは、事実上の廃嫡です。
やはり、公爵令嬢のあの非常識な振る舞いは、家からも問題視されていたのでしょう。本当にいい気味です。
これで、公爵令嬢と第2王子殿下との婚約もなくなりました。
ああ、つまり、ローズマリー様が第2王子殿下と婚約なさるのですね!
だから、殿下との接点のために植物学を学ばれていたわけですか。
スケルス公爵ご子息を歯牙に掛けなかったのも、この時のため。なんという深謀遠慮でしょう。
お祖母様に倣ってというのは、そういう先見性も含めてのことだったのですね! なんと素晴らしい。
お祝いを申し上げた私に、ローズマリー様は仰いました。
「ミルトリアは、これまでも、これからも、私の可愛い妹なんですの。
お兄様の妻として、幸せになってほしいと願っております」
ああ、正に勝利宣言! 彼女は、所詮足下の存在。公爵令嬢から侯爵夫人になって生きろと仰るのですね。あの礼儀知らずには、それでも過分ですが。
そして、私は、未来の公爵夫人のお友達になれたわけです。
私もまた、運の良さと先見の明を持っていると言えるでしょう。
ローズマリー様は、お家乗っ取りと言われないようにか、これまで以上に公爵令嬢──義妹になった──と行動を共にされるようになりました。
なかなかお茶会の時間も取れないのは不満ですが、公爵家の跡取り娘ともなれば、お忙しいのも仕方のないこと。
生涯の友として、今時間が取れないことくらい気にしてはいられません。
というわけで、マリーの取り巻きその1さんでした。
全部が全部こうではありませんが、マリーの「自称友人」さん達は、マリーの立場などに群がっています。




